第一章 第一章 貴族養成学校エトワールでできた友達
マリアが連れてこられたエトワールは、ロンドンでも有数の貴族養成学校として知られている。有名貴族の屋敷のようなゴシック式な建設は元より、その建築美は生徒のみならず、貴族からも支持がある。
3階建ての学校の内部は観音開きの窓を主流としており、また天井には所々にステンドグラスを用いた建築方式が用いられている。
また校舎は重厚なオーク材を用いて建てられているのか、内部のシックな様子に定評がある。また所々に存在する赤の豪華なカーテンや絨毯は、一体いくらなのかと考えさせられる程だ。
また寮もそれと似たような造られ方をしており、寮の方にも定評がある。編入当時マリアはアルバートと共に豪華としか言えない門を潜り、そして本校の方にと向かっていた。
正面から見て本校の右隣に立つ3階建ての建物が寮である。マリアとアルバートは、やはり白百合などがふんだんに植えてある庭園を厳かに歩いている。
緑を中心としている庭園に、この白百合の飾りつけはとても目にみはるものがある。マリアとアルバートは正確には本校に向かっているのではなく、寮に向かっている。今は春休みなのでイギリス本土の学生の殆どが帰省しているので、この校庭に人が歩いてはいない。
でもそんな事がマリアにとっては珍しくて、ついついキョロキョロと周りを眺めてしまうが、それを見てアルバートは白い手袋をした右手を口元に持って行くと僅かに微笑んだ。
マリアにこんな行動をさせた要因は、全てが初めての経験であり、マリアにとってこれほどの異文化交流はなかったからだ。
マリアとアルバートは本校舎を眺めながら、寮の方向へ歩を進める。寮の方に歩いていると、そこには豪奢なドレスを着た女の子が立っていた。
すらりとした容姿と高めの身長。そして背中までウエーブを描いている金髪。白を基調としたドレスをふわりと風に揺らしながら、彼女は目鼻立ちを整わせた美貌をマリアの方にと向ける。
マリアが歩を進めると、その女の子も歩を進めてきた。優雅な動作に少しマリアはどきどきとしたが、その女の子はマリアにこう聞いていた。
「あら、見たことない方ね? どちらさま?」
「は、はい。あのー初めまして、私の名前はマリア・マーガレットといいます。はじめまして」
「初めまして、私の名前はミルフィーフュリスといいます」
彼女の名前はミルフィーフュリスといい、今後マリアとルームメイトになる事はお互いに知らない。彼女はイギリス本土の人間だが、春休みには実家には帰らない性格だ。だからこそミルフィーは寮に残っていた。彼女はどちらといえば顔に似つかず明るくて天真爛漫な性格と言えた。
「初めまして私はマリア・マーガレットと言います!」
元より暗い子ではないので、マリアは顔に柔和な笑みを貼り付けて、元気いっぱいの返事を返した。
それを聞いてミルフィーは聞いたこともない名前ねと言いながらも、その明るい返事に好感をもったのか、少し柔和に微笑むと一礼する。
ついでにこの学校の事を補足すると、この学校は一年から三年までの卒業の間にルームメイトは変わることはない。
またミルフィーにはもう一人ルームメイトがいるがその彼女は現在帰省中だ。この学校の寮のシステムは3人が一部屋で暮らすシステムだ。
「まあ、いいわ私は暇なの、お茶とお話し相手になってくださるかしら」
「お、お茶ですか」
ミルフィーはマリアの手前に立つとそう気軽に言ってきた。そこでアルバートは少しマリアに目線をやる。
なぜかと言えば、この一ヶ月間余り、マリアはありとあらゆる礼儀作法をアルバートにと教えられてきた。貴族学校に通うと言うことは、前の村娘などではない。だからマリアはちらりとアルバートに目を向けるとこくりと首を振った。
(解っています)
「それでは行きましょうか、そうねー場所は食堂でいいわね」
「はい、ミルフィーさん」
「ミルでいいわ。堅苦しくてその呼び方は好きじゃないわ。それともっと砕けた言葉で接して頂戴」
「こんな感じね。こほん。分かったわ。ミル」
「そうそう」
そんな二人の様子を見ていたアルバートにミルは話を振った。
「であなたのお名前は? どうもマリアの執事の様だけども?」
「失礼致しました。私の名前はアルバート・クリスと言います。マリア様の専属の執事をさせて頂いております」
そう言いながらミルに一礼したアルバートを見て、何故か一瞬だけミルはぼっーとした顔になるが、少しだけ首をぶんぶんと横に振ると分かったわとだけ言った。
「でミル。私の事もマリアでいいよ。みんなそう呼んでいたから。ね、アルバートさん」
マリアはアルバートにそう喋ったが、でもそんなマリアとアルバートの会話を聞いて、ミルは怪訝とも言える風に目を細める。そんなミルの疑うような視線に感づかずマリアは一礼を解くと涼しい顔でこう言った。その瞬間ミルとアルバートの眉が少しだけ動いてしまう。そしてマリアはしまったといった感じで口を手で閉じてしまう。執事にさんはまずいことに聡いマリアは感づいた。
「す、すみません。アルバートさん」
「……お嬢様……」
「ふむ……マリア、あなたは……まあいいわ。私は別にそんな事は気にしないし。でも私のもう一人の友達のバージェの前では注意してね」
「ご、ごめんね」
「いいわ。でも最初に執事という物がどんな物かだけ教えておくわ。執事の家柄は貴族が多いの。執事になるべく育てられた貴族が多いわけ。なので一流の執事になればなるほどその割合が高い。そんな彼らは勿論自分達の職業に誇りを持っている。磨き上げられた銀食器は執事の腕が見えるし、時には執事が主の名前で呼ばれる時があるわ。例えば私の場合、私が不在の時にフュリス様と言ったようにね。それは執事にとってはとても光栄な事なの。彼らはそれほど自分達の仕事に徹底しているし、主人に恥をかかせないように真剣に動くのよ」
「は、はい」
「それに主人が執事にすみませんとかいう敬語を使っていたらどういう主従関係かと疑われても仕方がないわ。またその執事の信用を問われる事にもなりかねないしね」
「は、はいごめんなさい、今度からは……」
「それとアルバートさんなんてのも論外。アルバートでいい。それともう一度言うけど絶対に人前で謝らないでね。それこそアルバートが迷惑するわ。主が執事に謝っている光景なんて、絶対によそでは見れないから、いい笑い草になるわ。だから絶対にそれはしないで。そして貴女は主らしく凛とした喋り方でアルバートに接するの」
凛とした喋り方って。どんなの? なのでマリアはミルの話に割り込むようにして言葉を割り込ませる
「凛としたってどんなのですか?」
「こんな感じよ。アルバートお茶を頼むわ。アルバート洋服を取ってきてくれる。作ってくれたかしら。今日の天気はどうかしらアルバート。なになにが欲しいわアルバート、だから買いに行かせて。こういう風にあくまで主と言う感じで」
とても無理だ……。なんかもうハードルが高すぎて越えられる気がしない。とマリアは思いながら、主従関係ではこんな事も当たり前に行われているのかと思うとマリアは頭を抱えた。そんなマリアにミルはこう付けくわえた。
「と言っても、あなたが全然執事を使った事がないことはよく分かったわ。どういう理由かは詮索しないけどね。ただ使う側も幼少の頃より使う訓練はしてるから、その点には極力注意しながらいきなさい」
「あ、ありがとうミル。もう少しで私はアルバートに迷惑を掛けるところだったわ」
そこでマリアは俯くのをやめ、そして上体を起こしミルの瞳を見据える。それはマリアにとっては重々しい覚悟意外に他ならない。
なにも見なかった事にしてくれたミル、そしてそんな不注意をしたマリアに、アルバートは眉根を顰めるだけで怒りもしなかった。
そしてマリアはこう心に決心をする。お嬢様学校やお嬢様になった以上、誠意をもってそれに返さなければシュルベーヌとアルバートに申し訳が立たないと思ったからだ。
だからマリアはミルにガッツポーズをした後に敬礼をしたが、そんなマリアを見てミルは少しおかしそうにお腹を抱えて笑い、アルバートは少し右手を口に当てるとくすくすとおかしそうに笑う。
「なにがおかしいの、アルバート」
「いや、なんでもございません。ふふっ。さあお嬢様方お茶に行きましょう、外はまだ寒いのでお風邪をお引きになりますよ」
「だわね。じゃあ行くわよ、マリア」
「うん」
そう言うとマリアとミルはドレスを翻してその場を後にし、アルバートはその背後から彼女たちを見守るようにして歩いてくる。
その後マリアはミルとお茶を一緒に取り、マリアとルームメイトであることを知ったミルは奇遇ね、嬉しいわと言った。
そしてミルは自分のもう一人のルームメイトのバージェの事をマリアに説明した。どうやら聞く限り、もう一人のルームメイトのバージェ・ミランダという人は、とても大人しく、そして優しく、生粋なお嬢様と言ったような感じだそうだ。
こうしてミルと何気ない会話をし、お風呂に入ったりしてマリアの一日は瞬く間に過ぎていった。
また次の日からは、アルバートやメイドが尋ねてきたりして、慌ただしい春休みが瞬く間に過ぎていった。そして始業式がやってきて、それが終わると通常の授業が行われる季節になる。また余談だがもう一人のルームメイトのバージェが屋敷から大変なお土産を持って帰ってきた事は言うまでもなかった。
そしてバージェはにこやかな笑みを称えてマリアにこう言うのだ。
「私はバージェ。これから仲良くしてねマリア」
と。でもそんな良いお嬢様達ばかりでもなかった。何故ならもう一人この学園から家に帰省していなく寮に残っていたいじめっ子がいたからだ。そのいじめっ子はドレスを翻して、いい、いじめのネタを掴んだと思い、ドレスを翻してその場から消えた。
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