第24章 黒と灰色の午後
【読者の皆さまへ】
お読みいただき、誠にありがとうございます。
・この小説はカクヨム様の規約を遵守しておりますが、設定や世界観の関係上「一般向け」の内容ではありません。ご承知おきください。
・[残酷描写][暴力描写]があります。
・短編シリーズ始めました(2025年8月16日より)
https://kakuyomu.jp/works/16818792438682840548
・近況ノートに、主要キャラクターイラストや相関図を用意しています。イメージ補助にお役立てください。
※最新の相関図(近況ノート)※「キャラごとのキャッチフレーズ」付き!
https://kakuyomu.jp/users/kyotobond007/news/16818792437582060358
※コンセプトアート
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※コンセプトアート総合目次
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・感想、考察、質問、意見は常に募集中です。ネガティブなものでも大歓迎です。
以上、よろしくお願い致します。
【本編】
私立あかつき学園の理事長室。
ブラインドからの午後の陽光が少し暗くなり始めた。
天美と志牟螺とウィリアム。
彼女たちの黒い午後は終わりを見せる気配はなかった。
ウィリアムはふと天美の机に乗っているサンドイッチを見てつぶやく。
「ランティアサンド!懐カシイデスネー!ワタシとボスの出会いモ……」
「そうだな……」
天美は静かにうなづく
すると、ふと志牟螺が思いついたようにつぶやきをもらす。
「ボス……そろそろ……」
そして、ドアのノックが鳴る。
――コンコンコン!
天美が腕を組みながら笑う。
「来たか……」
ドアが重苦しく、ゆっくりと開いた。
――ギィ……。
「失礼……します……」
「入れ」
ドアが開き、そこに入ってきたのは冴姫だった。
「理事長……先生……わたし……」
テニス部での自信は消え、拳が震える。
天美が不敵な表情で近づく。
「お前の……父親の整備工場、今回の保険金支払いまで1ヶ月。もう一度“事故”が起きれば…どうなると思う?」
冴姫の表情が強張る。
「……」
天美は表情を崩さずに冴姫を見つめた。
氷のように鋭い視線を冴姫に突き刺した。
「なにが……言いたい?」
冴姫の目が揺れ、声を絞り出す。
「……あの車……確か、南あかつき通りで……それに……事故……」
天美の表情が厳しくなる。
「そんな事……お前が知る必要は無い!経営が苦しいのだろう?」
「くっ……」
「テニスもやめないといけなくなるぞ?それに学費も……どうなんだ?」
少しの沈黙が続いた。
志牟螺とウィリアムは、ただ黙ってやり取りを眺めている。
冴姫の脳裏に、様々な幻が現れては、消えていく……。
――冴姫!お父さん、買ってきたぞ!新しいラケットだ!
――キャプテン!白影高校の松平さん相手ですか?ファイト!
――サキ姉!キレイ!本当のお姉さんだったらなあ……。
――冴姫!無理すんな!真面目過ぎるんだよ!お前は!
冴姫は内心で葛藤していた。
(お父さん……みんな……カナ……大海……)
そして、苦しそうに言葉を絞りだす。
「……仰せに……従います……ボス……」
妙子が封筒を差し出す。
「素直でよろしい。ほら、これがお前への報酬。この前の分だ。」
「……」
冴姫は封筒を受け取り、目を逸らす。
「……失礼します……」
冴姫は踵を返し、理事長室を出ていこうとした。
ドアノブに冴姫の震える白い手が重なる。
(……ごめんね……私……これしか……できなかった……)
すると、突然、天美は冴姫の後ろ姿に声を投げた。
「待て!」
「!」
冴姫は一瞬震えた。
そして、恐る恐る振り返る。
「はい……なんでしょう?」
天美は不敵な笑みを投げる。
「……裏庭へ行ってくるんだ。少し良いことを思いついた。」
冴姫の顔が憂いを帯び始める。
「……良いこと?」
「部下どもをお前に貸してやる。子供の迎えだ。簡単だろう?」
「すぐに行け、裏庭に先回りさせる。詳しくはそっちに聞け」
「……わかりました……」
冴姫は力なく、歩みを進めた。
その背中は微かに震えて、葛藤の念が滲み出ているかの様だった。
――ギー……バタン……
志牟螺が言う。
「ふふふ……さすがボスですな……相手を油断させる算段とは……」
「確か、あの劣等生とは幼馴染だったな?」
モニターに天美が目を移す。
――Dと戯れるギャルたち。香菜子の笑顔がノイズと共に揺れる。
「お前たち!……いよいよだ!」
そして、志牟螺とウィリアムは声を上げた。
「Glory to our foundation!」
天美もそれに応える。
「ファウンデーションに!栄光あれ!」
志牟螺はニヤリと笑いうなづく。
「ボス。学内に戻ります」
「OK!Boss!」
ウィリアムも答える。
そして、二人は部屋を後にし、理事長室には天美は独り残された。
モニターにひなたたちの映像。図書館の緊張、裏庭の佑梨。
「罪も、記憶も、忠誠も…全ては教育で操作できる」
妙子の声が響く。
「この学園は私の箱庭。彼らの運命は…私が紡ぐ旋律」
監視カメラが捉えるひなたの瞳。妙子が微笑む。
「罪も、記憶も、忠誠も…すべては教育で操作できる。“教育”とは、信仰よ。私の宗教──それが、この学園……」
「燃えなさい、火種…私の業火に焼かれるまでね……」
そして、一人つぶやく。
天美の目には、モニターの映像が静止したように見えた——まるで、世界が一瞬止まったような感覚が走った。
天美の右手が、またメガネの蔓に触れる。
そして、人差し指で蔓を直すと、狂気の笑みを浮かべた。
「……業火は……深淵からやってくるわ……音波兵器としてね……フフフフフフ……」
理事長室には不穏な空気が漂っていた。
天美は腕を組んで立ったままだった。
部屋には、壁際に並べられた本棚と書籍の数々。
机の上に置かれたノートパソコンと食べかけのランティアサンドが、ただ静かに佇んでいた。
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