第16章 昼下がりの詰問

【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 ・この小説はカクヨム様の規約を遵守しておりますが、設定や世界観の関係上「一般向け」の内容ではありません。ご承知おきください。


 ・[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・短編シリーズ始めました(2025年8月16日より)

https://kakuyomu.jp/works/16818792438682840548



 ・近況ノートに、主要キャラクターイラストや相関図を用意しています。イメージ補助にお役立てください。


※最新の相関図(近況ノート)※「キャラごとのキャッチフレーズ」付き!

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※コンセプトアート

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※コンセプトアート総合目次

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 ・感想、考察、質問、意見は常に募集中です。ネガティブなものでも大歓迎です。


 以上、よろしくお願い致します。




【本編】 

 私立あかつき学園の昼下がり。

 太陽は高く昇っていたが、裏庭は木々に覆われ、昼間とは思えないほど薄暗かった。

 草むらが風に揺れ、静かながらも不気味な気配を漂わせていた。

 

 だが、ひなたたちの心は静かでなかった。

「やっぱり……佑梨ちゃん、生きてるってことだよね?」


 ひなたは優しく語りかける。

「小河さん……」

 共感力が、Dの怯えに不穏を察知した。

 そして……問いかけた。

「どんな奴に…追われてたの?」


 ――ヒック……ヒック……。


 ひなたの言葉に、沈黙が落ちる。

「……」

 隣には、今にも泣きそうな少女──Dがいた。

 外見は小河佑梨そのもの。けれど、彼女は自分を「D」と名乗った。


「でもよ……そんなの誰が信じるんだ?」

 亮が腕を組みながら言う。

 佑梨の葬儀を見届けた本人だからこそ、疑念は深い。


「警察に……届ける?」

 京子がぽつりとつぶやく。


「無理無理! 絶対、あたしたちが誘拐犯って言われるって!」

 香菜子が即座に突っぱねた。

「だってこの子、死亡届出てるんでしょ? それで今、生きてるとかヤバすぎでしょ!」

 七本槍の一人が声を上げる。

「バズらせるのは? 映えさせれば信じる人も出るって!」

「オッケー!」


 ――シャッ!シャシャッ!

 

 ギャル七本槍が一斉にスマホを掲げるが、亮が制する。

「やめとけ。世間は面白がるだけで、真剣に取り合ってくれない。むしろ俺たちの立場が悪くなる。」


 再び、一同に沈黙が走る。


「小河さん……」

 ひなたはDの顔を見る。

 怯えた目。震える指。

 何も語れない、でも確かにここにいる存在。

「ひなた……誰か、頭のいい……人に……聞いてみようよ」

 京子がつぶやく。


「いるじゃん!近くに! 学園一のかしこちゃんが!七本槍のネットワークをなめんなよ!」

 香菜子の言葉に、ひなたの目が見開かれた。


麻倉真緒あさくら まおさん!」

 まるで、霧の中に差し込んだ一筋の光のように。

 その名に、全員の空気が変わった。

「そうだ……図書館の主……」

「全国テスト毎年一位の!」

 一同の顔が明るく輝くように見えた。

 

「でも……全員で押しかけたら目立ちすぎじゃね?」

 冷静な表情で亮が言う。

 ひなたは力強く宣言する。

「なら、私と亮、京子で行こう!」

 三人はうなづき合う。


「いってきなよ!ウチらは……この子、預かってるからさ!」

 香菜子がDの肩を抱いた。

「この子、ずっと“D”じゃつまんなくね? あたしたちは“佑梨ちゃん”って呼ぶことにしたから!」

 

 七本槍のテンションがまた上がる。

「よっしゃー!ギャル式託児所、開園でーす!」

「おやつはチョコボールー!」

「いやーっ!マカロンっしょ!」

「佑梨ちゃん!何が好き?お姉ちゃんたち、ご馳走するよ!」

「ミソカツだぎゃーよ!」

「重いよ!」


 騒ぐギャルたちに、Dは小さく笑った。

「ありがとう……」


 香菜子がひなたたちに振りかえる。

「佑梨ちゃんは、カナたちに任せといてーっ!」

 亮がうなづきながら礼を告げた。

「香菜子ちゃん。ありがとう」

 ひなたも頭を下げた。

「香菜子ちゃん……助かるわ……」


 すると、香菜子は少しニヤつきながら、亮の元に歩み寄る。そして、耳打ちでささやく。

「サッカーばっか、やってないで……ひなたちゃん大事にしなよ!!」

「おいおい!何を……」

「お兄ちゃんも言ってたんだよ。亮の奴、真面目すぎるってさ!」

大海たいがの奴……余計な事を……」


 そして、香菜子は亮から離れる。

「じゃ!何かあったら、すぐメッセだよ!」

 七本槍たちも高らかに言う。

「七本槍に……お任せだよ!」


 京子はそんな様子を見て、ひっそりとつぶやく。

「チャラ子さん……案外……良い人……かも……」


 そして、ひなたたちは、香菜子と七本槍に背中を預け、真緒のいる学園図書館へと歩を進めた。

 歩きながら、ひなたが仏頂面で亮を問いただす。

「さっき……香菜子ちゃんと何してたの……」

「……まあ、頑張れって……さ」

 ひなたの瞳が一瞬揺れたが、すぐにぷいと顔をそむける。

「……本当?」

「ホントだってば!」

「どうだか……さっきはカッコよかったけど、これでチャラね!フン!」

 また、ひなたの顔が膨れた。

「何なんだよ……」


「クスッ……」

 京子がかすかな笑みを漏らした。

 だが、それは二人に気づかれる事は無いまま、図書館への歩みの中に消えていった。

「ひなた……大丈夫……かな?」


 表情が引き締まった。

 そして、力強く言う。

「きっと……なんとかなるよ!」


 そう言ったひなたの目には、確かな意志が宿っていた。

 三人は校舎に入り、その足を図書館へと進めていこうとした。

 

 ――キーンコーンカーン……


 京子が冷静につぶやく。

「昼……休み……終わっちゃった……」

 亮も苦虫を噛み潰す。

「クソッ!時間切れかよ!」

 ひなたが二人に告げた。

「今は下手に動けないわ……この校内じゃ……」

「麻倉さんのこと……放課後……に……しよう……か?」

「それしかねえな。まっ、図書館に行けば、大丈夫だろ?」

 ひなたは真剣な表情を崩さない。

「図書館の主……だからね。じゃあ、部活の後で」

 京子と亮が声を揃えた。

「わかった」


 ひなたの共感力が、Dの怯えを呼び戻す。

「D……あなた、一体何者なの……」

 また一つ真実に触れようとしていた。

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