ED

「そんで、ボイドあいつはトラックの試運転までやって満足したのか、支払いだけして去っていったんだ。」


 懐かしいなあ、と皿に手を伸ばすが皿のパンがなくなっていたことに気づきコッペパンを注文するデエト。


「それからだったな。どうせミュータントコアなんて地上そとに出ないと調達できないし、現地調達ができるんでパン屋の護衛してた傭兵と長期契約を結んで都市間配送業なんてものを始めたんだよ。都市内やグループ企業間の配送は企業が牛耳ってるんで、非友好の都市間配送ってえニッチな需要向けにな。」


 品物を受け取って袋を開け、また口に放り込んでいく。


「これが意外と需要あって、そのうち俺の真似をし始める奴もいてな。まあ、顧客がないから食い詰めるんだが……そんなやつらに下請けをやらせてみたりしてたらいつの間にかライバルのねえ都市間配送の大手業者になっちまって、今や停戦や休戦の申し入れすらも仲介する何でも屋だぜ。人生、何が起こるかわからねえもんだよな。」


「……父さん、パン屋やってたんだ。似合わないの。」

「息子のお前が言うかよ。」


「それじゃ、この香典は。」

「おう。そんときの客や抗争やってた連中のだよ。結構遠くに行っちまってるのも居たんで回収に手間取って今日になった。」


「こんなにあると香典返し大変だなぁ。普通のパンだと腐っちゃうだろうし。」

「あんまり気を遣わなくても良いぞ。」

「でも父さんのお客さんだからね……これでいいか。」


 言いながら一旦バックヤードに行き、缶入りの非常食パンと乾パンを取り出して香典を入れていた段ボールに詰める。


「何を入れてきたんだ?……っと、乾パンか。保存食とは気が利くな。それにこれは—」

「災害用非常食の菓子パンだよ。年単位で保存が利く。」

「そんなもんもあるのか。相変わらず変なのを在庫にしてるよなあ。ま、それで身を持ち崩さなきゃいいさ。じゃあ、持ってくぜ。」

「うん。」




 香典を全て空け、通販ストアに全額投入する。

 一段落したので喫茶店のキッチンに向かい、遅めの夕食を作りはじめた。


「今日は父さんの気まぐれで始めた商売の話を聞いたよ。デエト社長が小ぶりのコッペパンて言ってたけど、まさかこの5個入り100圓の奴じゃないよね?」と、写真立てに映る父さんへ報告した。

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