第二十二話 蠢く罪と罪、仮面の報せ
湖の廃都を後にし、ルクスとレアは静かな森を歩いていた。
周囲は朝靄に包まれ、湿った空気が肌にまとわりつく。
だが、二人の間に流れる空気は、以前より幾分か穏やかだった。
「カイ……じゃなくて、ルクス。これから、どうするの?」
珍しく、レアが素直にそう尋ねた。
「……“次”を探す。まだ会っていない奴がいるだろ。《
ルクスは指を折って数えた。
自分が継承している《
そして邂逅した五人──《
「五人……あと一人がどこにいるのか、分からない。でも、確かに……罪の気配は、近づいてる気がする。」
レアがそう呟いた瞬間だった。
森の奥から、鋭く空気を裂くような“気”が走る。
ルクスは反射的に《
その前方、一本の銀杭が地に突き刺さった。
――刺突の軌跡も、魔力の痕跡もない。
ただそこに“現れた”それは、警告であり、宣告でもあった。
「……来たな。」
霧の中から、仮面をつけた数人の影が姿を現す。
黒衣、無言、均一な動き。
かつて《傲慢》の少年の背後で見た“観察者たち”と同じ、あの組織だ。
その中心に立つ、漆黒の仮面を纏った人物が一歩前へ出る。
「“継承者”カイ。いや、ルクス・アークライト。仮面の導師より、伝令を預かっている。」
「……俺の名前を知ってるのか。まあ、当然だな。」
「《原初スキル》の継承が六つ目を迎えるにあたり、観察者としての立場を表明する。」
仮面の導師はそう前置きした上で、淡々と告げた。
「“暴食”が動き出す。大地の裂け
「……暴食が顕現する場所が、判明したってことか。」
「それだけではない。七人目の継承者が、既に一人と接触を試みている。それが《傲慢》の継承者である少年──シグだ。」
「シグが……暴食と?」
その名を口にした瞬間、ルクスの眉がひくりと動く。
以前出会った、あの誇り高き少年。
自分の力を信じて疑わず、他者を見下していた少年が、再び何かの渦に巻き込まれようとしている。
仮面の導師はなおも言葉を重ねた。
「我ら“観察者”は、罪と継承の交錯を見届ける者。干渉は最小限に留める。だが、今この時点で“秩序”が崩壊しかかっている。」
「だから、俺にどうしろと?」
「選べ。誰を助け、誰と争い、何を背負うのか……お前自身の怒りが、次を決める。」
そして、仮面の導師たちは霧の奥へと消えていった。
残されたルクスは、しばらく黙っていた。
だがその拳には、再び熱が戻っていた。
「……暴食、か。」
「向かうの? その……ヴォラク=クレーターに。」
「当然だ。暴食が何者か知る前に、シグが取り込まれちまうかもしれない。あいつの傲慢は嫌いだが……放ってはおけねぇ。」
憤怒を燃やしながらも、彼は他者を見捨てない。
ルクスは赤く煌めく瞳を細めて、森の向こうを見据えた。
/////
同時刻、王都ギルド本部にて。
とある一室で《光剣の誓約》が談話をしていた。
「なあ、そういえば、次はどこに行くんだって?」
ゼドがそう聞いたのに対し、ガルヴァンは素っ気なく答えた。
「知らん。ロカに着いていくだけだ。」
ユレイラはそのような話は全く聞いていないようで、先日購入したネックレスをうっとりとした表情で愛でていた。
「……そうかよ。あー、腹減ったな。飯食わねえか?」
「勝手にしろ。」
「お腹空いてなーい。」
昼食に誘ったものの、二人とも興味なさげに返してくる。
こいつら……どうしちまったんだ?
ルクスがいなくなってからというもの、自分勝手な行動ばかりのくせに、ロカの言う事だけは素直に聞きやがる。
ていうかロカはどこにいったんだよ……。
そうゼドがぼやいた瞬間、ドアが開き二人が入室する。
「皆さんお待たせしました。新たな仲間ですわ。」
ロカがそうやって紹介したのは、長身で片手剣に盾を装備した青年だった。
「キラルです。よろしくお願いします。」
礼儀正しくお辞儀をするキラル。
ガルヴァンもユレイラも、キラルを一瞥してまた元に戻る。
「ごめんなさいね。キラル。皆、今は忙しいみたいで。」
「いえ、大丈夫です。ところで、初任務はいつ頃になりそうでしょうか?」
「うーん、そうねぇ……。実は今、噂でしか聞かないのだけれど、紅蓮の瞳を持つ炎使いを探しているの。〈ダリウム〉の方向に行ったそうよ。」
「ならば、それを追いかける形になるという事ですか?」
「そうね。まあ、その合間に色々と任務を受けていきましょう。」
ロカは定位置の椅子に座り、全員にこう告げる。
「今話に出た通り、紅蓮の炎使いを追うのだけれども、事前に皆に伝えたい事があるの。」
一拍置き、口を開く。
「以前惜しくも死んでしまったルクス……覚えているかしら?」
「まさか、あんなやつが!?」
ゼドが驚きの余り目を開いて返す。
「その、まさかよ。しっかりと姿を確認したわけじゃないけれど、私の中では確信を持ってる。」
嘘だろ……とでも言わんばかりに、ゼドが何やら思考に耽っている。
それもそうだ。
そのような能力は持っていなかったはずであり、また、あのような所から一人で帰って来れるはずもない。
「あんな弱者が、強大な力を持っていい道理があるはずありません。そうでしょう? 力は、強者のものなのだから。」
そう会議を締めて、ロカ
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