第5話 危険な屋上

「「佐藤くん!?」」



 二人は俺に振り向いた。

 特に稲辺さんは、俺の存在に予想外だったようで非常に困惑していた。顔が真っ赤だ。


「稲辺さん。悪いんだが、前島さんは俺の彼女なんだ」

「……ッ」


 バツが悪そうに稲辺さんは離れた。



「……佐藤くん。ごめんね、稲辺さんに呼び出されて……」

「いいんだ。それより、こっちへ」



 俺は前島さんをかばうようにした。

 そして、改めて稲辺さんに向かい合った。



「そ、その……佐藤くん。これは……」

「稲辺さんって、そっちの趣味があったんだな」


「そうよ。私は前島さんのことが好きだったの……!」



 どうやら、過去に前島さんに優しくしてもらったことで好意を抱いてしまったようだ。……その気持ちは分かる。俺もおかげでトラウマを克服こくふくできそうだから。


 だが、前島さんをくれてやるわけにはいかない。



「ごめんね、稲辺さん。わたしは……佐藤くんが好きなの」

「そんな……。じゃあ、生きる意味なんてないっ」



 と、稲辺さんは柵へ向かっていく。って、まて! 飛び降りる気か!?


 マジでよじ登っているし、危なすぎる。

 俺は直ぐに駆けつけて稲辺さんの手を引っ張った。



「やめろって!」

「離して!」

「離すわけないだろ。こんなことで絶望するなんて判断が早すぎる!」



 俺だって白崎さんを寝取られて死ぬ思いだったよ。だけど、それでも生きてこられた。前島さんのおかげさ。



「そうだよ、稲辺さん。友達にならなれるでしょ?」

「……友達。そうだね、それなら――あ」



 手を滑らせる稲辺さん。柵の向こう側へ転落しそうになっていた。


 マジかよ!!


 俺は自然に体が動き、彼女の手を引っ張っていた。



「っらあああああ!」



 なんとかセーフ。転落は免れた。



 ◆



 俺は稲辺さんから感謝され、好意を向けられるようになった。

 どうやら彼女の気が変わったらしく、今度は俺に接近してくるようになり――ストーカーと化していた。

 死なれるよりはいいが、しかし……これは参ったぞ。

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