第一章 第六話
翌日も、
つい先ほど、画家の男は黄泉の国へと旅立って行った。
この宿には、常に存在している門とは別に光の門というものがある。お客さんの出迎えと見送りの際には、その光の門が現れるそうで、
画家の男は、
竿に干した洗濯物が、風に煽られてはためいている。見上げると、空が高かった。日差しを遮るように手をかざしながら、遠くの世界に思いを馳せる。あのお客さんは、生まれ変わってもまた絵を描き続けるのだろうか。
それから、
「
不意に呼びかけられて振り返ると、
「ちょっと休憩したら?」
氷が溶けて、透き通った硝子の中でカランと音を立てる。日当たりのいい場所で労働をしていたから、喉がこくりと鳴った。
「
「……おいしい」
自分でも驚くくらい感情のこもった声が出た。それほど、体に染み渡るおいしさだった。
「でしょ? 半妖の世界にある飲み物なんだよ」
「そういえば、
「本当の兄弟じゃないよ。仲がいいだけ」
「でも、二人って似てるよね」
「そう? どの辺が?」
直接言ってもいいものかと迷いながらも、
「ああ、これね。耳と尻尾が似てるのは、俺たちが同じ狐族だからだよ」
「狐族……?」
「半妖には、猫族とか犬族とかいろいろいる。
「……
「そっか。でも、
お互いのことを知っていけば、協力できることも増えるはずだ。
「半妖の人たちにも、人間のことをもっと知ってもらえたらいいな。同じことも、違うことも、共有しながら一緒に働きたい」
「そう……まあ、仕事は教えるよ」
なんだろうと首を傾げかけて、ハッとする。昨日、
すると、
次の瞬間、ふっと
「え? あれ……? なんか違った? 昨日、
何か変なことをしたのだろうかと、
「ああ、そういうこと」
納得した様子だったけれど、
「仲よしの証だって言ってたんだけど、違うの?」
「いや、合ってるよ。でも、それ子どもしかやらない」
「えっ……」
絶句したあとで、疑問が湧いてくる。
「じゃあ、なんで手を出したの?」
「普通に、湯呑空いたかなと思って受け取ろうとしただけ」
自分の勘違いに気づいた途端、ぼっと顔から火が出るくらいに恥ずかしくなった。
やり方が違ったとかそういう話ではなく、ただの早とちりだったらしい。
「洗濯、手伝うから。残りの分、終わらせちゃおう」
思えば、
「よし、頑張る」
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