「だから、友達だって言ってるでしょう」

 橋部屋敷に男の大声が響く。

「友達の家に塀を乗り越えて侵入する奴がいるか!それに友達の家でも侵入したら犯罪だぞ」

 近づくと椅子に座らされた男に警察官が説教をしている。警察官は一成達に気がつくと向き直り、

「これは橋部さん、この男です。現場保存中の屋敷に侵入して来たので確保しています。公務執行妨害で逮捕しても良いのですが橋部さんの友人と名乗っているので保留にしています」

 警察官の説明に一成はため息をつく。半ばあきれて、半ば安堵のため息だ。案の定座っているのは鼎だ。かずら橋から歩いて来たので汗と地面からはねた泥で服装が薄汚れていた。一成が友人に間違い無いと答えると、警察官は鼎に対して、それならば住居侵入については不問にするが、立ち入り禁止場所への立ち入りは軽犯罪法違反だと告げて、鼎に反省文を書かせた。

「これは、仕方が無いね」

 これはみむろの言。口ではこう言っているが慌てて駆けつけて来た鼎が嬉しいのか、口元が緩んでいた。

「良くも悪くも馬鹿だからな……」

 汗をにじませながらペンを走らせる鼎を見ながら一成も呟く。まだ半日も経って居ない親友との再会だが、激流の様にかき乱された情緒が不思議と凪いでいくのが分かった。一成からも自然と笑みがこぼれた。




         ◇ ◇ ◇




「全くヒドい目にあった」

 鼎がぼやく。心配して駆けつけてみれば、汗みずくになるは虫に刺されるは警察に歓迎されるはで散々だ。しかも橋部の里にいた二人からは笑われている。

「来てくれてありがとな、感謝してるんだぞ、……ただ確かに不審者だな、汚いし、髭は伸びてるし」

 しかも臭い、は飲み込んだ。かいた汗が冷えて雑巾の様な匂いがする。

「ホームレス」

 ボソッと鼻を摘みながらみむろが行った。鼎の眉間にしわが寄る。

「聞こえてんぞ。クソッ奈々のせいで散々だ」

 と口にした所で一成に睨まれる。

「すまん、秘密だったな。しかもお悔やみを伝える前に愚痴を言ってしまって、本当にすまん。友達失格だ」

「あ、いや、爺さんの事は良いんだ。実はもう一件事件があってなそれで気が立っていただけだ」

 二人ともが謝罪する。まるでお見合いの様な空気になる。

「しかしなんだな、とりあえずシャワー浴びろ、確かにこれじゃホームレスだ」

 一成も匂いを嗅いで鼻を摘む。

「ただ……まだ屋敷は警察が作業してるんだよな……。うん、そうだ別邸の一室を使おう。現場には入れないが、間取りは一緒だ二人の意見を聞きたい」

 揃った三人は別邸への道をと歩いた。



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