「はあ、はあ、橋部さん。屋敷で不審者を発見したのですが、そいつが橋部さんの友人と名乗っています。確認願えますか」

 息を切らしながら現れた制服の警察官は敬礼した後、一成に告げた。

「不審者?分かりました。屋敷ですね、では聞いているとは思いますがここは……」

「すぐに刑事が来ます。一時的には私が現場保存しておきますのでご安心ください」

 こう言われれば一成も屋敷に向かわざるを得ない。ただまだ犯人が徘徊しているとなると心配だ。一成は遅れて戻って来た樹莱を認めると、

「樹莱、茅夜叔母さんにここの説明を頼めるか、どうも屋敷の不審者は俺の友人らしい、それなら彼女を連れて行った方が良いからな。あまり警察を待たしても悪いし……」 

 彼女とはみむろの事だ。苦しい言い訳だが、新たな事件が起きたとなると、部外者のみむろを橋部一族の中に置いておくのはまずい、犯人として疑われ糾弾される恐れがある。しかも淵元の者が犯人ならば狙われる。一成のそばにおいておきたい。

「そうですね、分かりました。ただ兎美さんの親族への説明はお願いします。私ではちょっと……」

「当然だ、それは責任持って俺が伝える。全く嫌な役目だ……」

 一成も愛娘の死を両親に伝えるなどしたくはない。それでも一成以外にその役目に相応しい者はいない。

 


         ◇ ◇ ◇



 一成は食事中の皆に悲報を伝える。嘆く者、怒りを露わにする者、頭を抱える者、皆は多様な反応を示す。

 一成は「警察に呼ばれてますので……」と、伝えこの場を樹莱に任せると、

「一緒に来てくれ」

 と、みむろに耳打ちした。みむろはナプキンで口を拭うと立ち上がる。

「大丈夫?」

 と、ただならぬ様子の一成を案ずる、短い付き合いだがそのくらいは分かった。

「正直、爺さんの時よりダメージがある。死因は分からんが顔が焼かれていた」

 顔は見ていない、見たくはない。イメージの中でも兎美の顔は煙に包まれ思い出せない。

「……顔、恨みかな」

 うげぇ、と珍しく顔をしかめるみむろ、

「ただ兎美に殺す程の恨みを持つ人となると……思いつかない。気になるのは鼎の所に現れた女だが……」

「淵元奈々さんだよね……」

 話の中でのみ現れる女。一成と鼎を知っている様子だ。同じ大学なのか……。

「……ああ。ただ奈々はもう居ない。それに淵元の者が狙うなら爺さんや真優よりも俺かみむろちゃんだぞ」

「私?」

「そ、だから呼んだの。何せ婚約者二人を捨てて乗り換えてるからな、俺」

「悪女、私?」

「狙われるポジションだろ、巻き込んで悪いけど」

「確かに、気を付ける」

 二人は周囲を警戒しながら屋敷への道を歩いた。

 

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