「私、何も聞かれなかった」

「そりゃ一緒にいたからな……」

 藪蛇やぶへびになりかねないから、みむろには触れない、と言うのが正しい。この地域では有名人である一成のゴシップネタを興味本位で集めていると思われたくは無いのだろう。

 ぎりぎり成人のみむろを見て事案と思われた可能性はある……のだが、聞かれてもないのに釈明するのはそれこそ藪蛇やぶへびだ。

よろしいですか」

 事情聴取を終えてホッとしていた二人の前に現れたのは啄巳の秘書の南部。「ああ」と一成が頷くと。秘書を通り越して執事の様な最敬礼だ。

「啄巳様には報告済みの件です。住人の調査が終わったのですが……いなくなった住人は一人もおりませんでした」

 申し訳無さそうな南部だが、むしろ無駄足を踏ませてしまった一成が謝りたいくらいだ。

「そんな……、え、だって」

 みむろが絶句していた、余程自身があったのだろう。傍から見てもわかるくらいに顔面蒼白だ。

「報告ありがとう。他には……」

 一成は毅然と南部と接するが視線はみむろの横顔を見ている。

「これは良いお知らせです。沈下橋ちんかきょうの下流をユンボバックホーさらう作業を始めました。これで水の流れを妨げている木の枝等が撤去されれば、じきに通行可能になるかと」

「単なる増水じゃ無かったのか?」

「急な大雨だったので、植樹林の下刈りした時に出た草や枝が全部川に流れてしまって、それがダムの様な働きをして水位が上がってしまった様です……下刈りのシーズンではあるので不可抗力なところもあるのですが……」

「あ、いや、別に山師を責めようとしている訳じゃないぞ、天気予報で言っていた降水量の割には水位が高いと思ってたんだ。に落ちたよ」

「そうですか、報告は以上です。失礼いたします」

 と言うと百八十度ターンして南部は去っていった。やはり立ち振舞が執事の様だ、姿勢が良い。

「ごめん、勇み足だった」

 みむろは、恥ずかしさからか身をすくめていた。

「いや、良かったんだ。これで犯人も警戒するだろう。多分、俺達がかずら橋を渡って屋敷に来た後で、拳銃を投げ捨てて橋を壊したんだろう。犯人が里の住人なのは変わらん。……それはそうと腹減ったな、飯にするか」

「忘れてた。朝から何も食べてない」

 時刻を見ると午後一時三十分をまわっていた。橋部屋敷は未だ警察の鑑識活動が続いている。一成は屋敷の料理人達に別邸での食事の準備を命じる。今日は一族が揃う予定だったので下準備は出来ている。

 橋部の一同は屋敷を北島に任せると別邸に移動したのだった。

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