第三章 橋部一族と思惑
1
「連れ込まれちゃった」
みむろは一成の私室を見渡して
みむろの独白とは異なり、橋部屋敷の応接室をこれから利用するため待機する場所として一成の私室を案内されたのだ。みむろとしては鸞蔵が殺されたのだ偽の恋人役はお役御免で良いと思うのだが、第一発見者でもありここでカミングアウトすると犯人として疑われかねないので黙っていた。
「待たせた。こんな所で持たせてすまない」
暫くすると一成がもどって来た。みむろは本棚から抜き出したコミックのページを開いていた。
「こういうの読むんだ。可愛い」
「高校生の頃な、この部屋見られると昔のアルバムを見られる的な恥ずかしさがあるな」
柄にもなく一成は照れている。一成とて少年時代の恥ずかしい思い出の一つや二つはある。
みむろはコミックをパタンと閉じると本棚に戻す。真剣な顔で一成に向き直り、
「一成さん、気が付いていると思うけど……犯人は里の人、だよね」
「多分な、この里で部外者は目立ち過ぎる」
「それに、橋の所、足跡無かった……」
二人がかずら橋を渡った時に地面は濡れていたが、足跡は残されていなかった。その時点では誰も橋を渡っていない事になる。
「確定だな……はあ」
一成からすれば幼少期から育った土地だ。知り合いの中から犯人を見つけるのは
「鼎君から連絡。凶器の拳銃は、橋の向こうで発見された。だから里の人で今いない人が犯人」
「鼎なあ、アイツそんな重要な事は俺にも言えよ……。しかしそれが本当なら犯人はすぐ見つかるな」
一成は鸞蔵の死に伴い、橋部屋敷に親族を呼び集めている。そこで指示を出せば里でいなくなった人の調査等は容易い。問題は叔父と叔母だ。鸞蔵なら里での事件などとっくに揉み消している。そのマインドを受け継いでいなければよいが……。
もう一つの心配はみむろだ。おそらくは橋部の里にいる唯一の部外者だ。疑われ、いわれの無い誹謗中傷を受ける恐れがある。守れるのは一成だけだ。一成は再びため息をつくとみむろに声をかける。
「言っとくけどな」
「何?」
「連れ込んで無いからな、俺」
不意の一成の一言にみむろは顔を赤くしたのだった。
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