「え〜と、何で私ここでハンバーガーかじっているの、かな?」

 奈々は有名チェーン店のハンバーガーを咀嚼そしゃくする。いつも通り美味しい。

「あのな、人を助けに行くときに一番大事な事は何だ」

 鼎は口の中の油気をコーラで流す。

「意味わかんない、けど」

「まず自給自足出来るようにする事。橋部の里には宿泊施設はおろか店も無いんだぞ。トラブルが起きている橋部の家に泊めてくれ、めし食わせろって言えないだろ、だから買出しに食事」

 駅前のロータリーを出発した二人は、近郊のショッピングセンターに立ち寄った。鼎はまず奈々に化粧を直す様に指示すると自らは食材を買い込んだ。普段から張り込み用の寝袋等は車に載せてある。

 本当は武器も欲しかったが、警察官が多数いるであろう橋部の里に武器を持って行くのは捕まりに行くようなものだ。見つかっても言い訳できそうなナタを買った。

 奈々が化粧直しのため鼎と離れた隙をついて、みむろにメッセージで『これから向かう』と連絡する。しばらくすると、『鸞蔵殺人の凶器は何かの銃。人が渡れたかずら橋も通行不能』と、返信があった。鼎は奈々に橋部の里の現状を悟られないように、普段通りの態度を装う。

「最低限、迷惑はかけないって事ね……」

 奈々は一応感心してみせる。ただそうなると鼎が奈々の同行を断ったのは、急いでいるからじゃなくてただ面倒なだけだと言う事に……、奈々は鼎に不信感を持った。

「しかしメイク上手いなぁ、見違えた」

「それ、全然褒め言葉じゃ無い!!」

 奈々から非難されるが、乱れたメイクしか見ていない鼎からすれば今の奈々は既に別人だ。グリーンの入ったアイシャドウが自然に目元を強調し、広めに塗られたチークが大人っぽいフェイスラインを作り出している。

「褒めてんだよ。まあ気合い入れてメイクするのは良いが、橋部の里にメイク落とせる場所とかあるのか?場合によっちゃあ酷い事になるんじゃないか?……さっきまで酷かったし」

 後半は聞こえない様に行っている。鼎の言葉に、奈々は少し考えてから手を叩く。

「ごめん、言ってなかった?私、橋部の里から出て来たんだ。だから里まで行けば何とかなるよ。ちょうどカズ君と入れ違いになっちゃって……」

「早く言えよ。買い込んだ食料無駄になるじゃねえか!!」

 声を荒らげる鼎。奈々の分まで買い込んでしまった。これで事件が終わってもしばらくはレトルト生活決定だ。

「そんなに怒らなくたって良いじゃない。同盟相手でじゃない、鼎様」

「それまだやるのか、奈々さん」

 二人はショッピングセンターを後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る