第13話 優しくするな、逃げられなくなる
昼休みの教室。
桐斗は誰もいない窓際の席に腰掛けていた。
食べかけのパンが机に置きっぱなしで、手をつける気配もない。
「……何あれ。
わざとらしく距離詰めてきて、笑って、優しくして、
触ってこないくせに、心ばっか撫でて……」
ぼそっと漏れた独り言は、自分の中ですら耳障りだった。
バカみたいだと思う。
まさか、あんなやつの一言に、
“心臓が動いた”ような気がした自分を、信じたくない。
「……まさか“ときめき”とかじゃねぇよな、ないないない」
「いや、それもう完全にときめいてるよ」
「っ!」
隣にいつの間にか座っていた仁が、にやけながら弁当を広げていた。
「まーた不法侵入してんのかあんた」
「自由席だろ、学校って」
「あんたの距離感は自由通り越して不審者なんだよ」
「でも逃げないじゃん、お前」
「……逃げたら負けな気がするからな」
仁は箸を止めた。
「じゃあ、勝ちたい?」
「は?」
「お前、“俺に勝ちたい”って、どこで終わらせる気なんだよ」
桐斗は、視線を逸らした。
「別に。……勝てるとも思ってないし」
仁が目を見開いた。
「……え?」
「だってもう、負けてる気してんだよ。
俺のほうがあんたよりずっと動揺してるし、
自分の感情のこと、よくわかんなくなってるし」
初めてだった。
桐斗が、自分の弱さを“毒”に変えずに話したのは。
「……俺、今まで恋愛とか興味なかった。
ていうか、“期待するだけ損”って思ってた」
「……」
「誰かに期待したら、失望する。
好きになれば、負ける。
そんなん、耐えられねぇだろ」
仁は箸を置き、静かに口を開いた。
「じゃあさ、
“失望させない”って言ったら、
……お前、俺のこと信じてくれる?」
桐斗の瞳が揺れる。
「……そんな簡単に、信じられるわけねぇだろ」
「うん。知ってる。
でも俺は、そう言いたくなるくらい、お前のこと好きだわ」
「やめろ」
「お前の顔、毒舌、態度、ぜんぶひっくるめて、
“俺にしか見せない表情”まで、もう好きになっちまってる」
「やめろって」
「だから、あえて言う」
仁は、ほんのわずか身を寄せ、
けれど触れない距離を保ったまま囁いた。
「好きだよ、桐斗」
その一言で、桐斗は限界を超えた。
「……あんた、マジで優しくすんな。
逃げられなくなるだろ……!」
感情があふれ出す寸前、桐斗は椅子を蹴るように立ち上がり、
教室を飛び出していった。
仁はその背中を見送りながら、
自分の胸にも残る、微かな痛みに気づいた。
——お前が逃げるたびに、
俺も、ひとつずつ壊れていってんだよ。
でも、壊れても構わない。
お前が、最後には俺のほうを向くって信じてるから。
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