第2話 悪魔のきっかけ
何があと少しなのだろう。私はもう殺されるのだろうか。私はこの連中が言う情報を何も持っていない。私はなにも知らないのだ。
私は物心がついた頃からこの世界にいる。何もない暗い世界に独りぼっち。自分の姿すら知らない。私が知っているのはこの世界のこと、そしてたまに読まされる本という世界のことだけだ。与えられる食べ物は黒い模様のついたパンというものだけ。噛むたびに強い刺激臭がする。どうやら外の世界には、おいしいという感情を抱くことができる食べ物があるそうだ。どんな色をしているのだろう。どんな匂いがするのだろう。好奇心と呼ばれる私のこの感情こそ私が唯一、この世界で生きようと思える理由なのだ。
だが、私はこれから心の底から死にたいと思う。
松明が唯一の明かりである通路を歩いて少し、私が見上げるほど大きな扉の前にたどり着く。ゆっくりと扉が地響きのような音を立てて開き、開けた空間に出る。中央には丸い形をした鉄格子がある。それは天井が丸みを帯び、鉄格子には大量の鋭い棘のようなものがついている。その中に私は入れられ、手につけられた鎖が鉄格子につなげられる。私をここまで連れてきた3人は扉を閉め、外から私の前に立つ。
「おい悪魔。いい加減知っていること話せ」
またこの話だ。
「何も知らない。いつも言っているだろ。私はここのことと本の世界しか知らない。何をしたって知らないものは知らないっていつも…っ!」
私が言い切る前に全身を引き裂くような痛みが走る。鉄格子から鎖を伝って私の全身に痺れる何かが流れ、鉄格子が青白く光る。叫び声を出すことしかできず、呼吸ができない。口から液体が垂れ、それが床に落ちると一瞬で白い煙となってしまう。
ガチャガチャと鎖を払うように引っ張り、鉄格子と擦れる音と私の悲鳴だけが大きな空間に響く。体が鉄格子に当たるとバチッという音を立てて光り、鈍い部分的な痛みが走る。鉄格子の棘に体がぶつかり、傷口からは血が流れる。
本の世界でも同じような場面があった。そこには拷問と書かれていたが、これがそうなのだろう。体の痛みは消えることなく、私は叫び続けている。とても長い時間だ。終わりの見えない苦痛がいつまでも私の体と心を蝕むしばみ続ける。
なんで私なんだ…
どうして私がこんな目に合わないといけないんだ…
いつまで私はこんなことをされ続けるんだ…
お前たちは一体何なんだ…
私は一体、何なんだ…
全身を苦痛が襲い、永遠とも呼べる長い時間を叫び続ける中でどうしようもない絶望感とそれを飲み込むような行き場のない怒りが私の心を襲う。
強く瞑る目をうっすらと開き、鉄格子の先に立つ3人をにらむ。
私はここを出る。ここ出て、自由になるんだ…
パチッ
何かがはじける音がした。それが聞こえた瞬間、目の前は真っ暗になり私は真っ暗な空間に立っていた。
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