荒木町の星、きみの灯り

すぎやま よういち

第1話 健太の絶望

赤星健太は、荒木町の青い空を見上げた。筑後平野の広大な田んぼには、もうすぐ稲穂が実り始めるはずなのに、彼の心には収穫の喜びとは真逆の、乾いた風が吹き荒れていた。


「どうするよ、俺……」


口から漏れたのは、力のないつぶやきだった。実家の赤星工務店は、今にも倒産しそうな状況だった。古い顧客は減り、新しい仕事もなかなか入らない。資材の高騰は経営を圧迫し、資金繰りは火の車だ。さらに追い打ちをかけるように、数年前に安易に友人の借金の連帯保証人になったことが、今になって彼の首を絞めつけていた。友人とは連絡が取れなくなり、その分の借金も健太にのしかかってきたのだ。


手元にあるのは、督促状の山と、数枚の振り込み用紙。銀行からの電話は鳴り止まず、金融業者からの催促は日を追うごとにエスカレートしていた。「このままじゃ、実家も、親父が何十年も守ってきたこの工務店も、全部なくなってしまう」そう思うと、胃の奥がキリキリと痛んだ。


特に苦しいのは、家族にこの状況を打ち明けられないことだった。父親は持病を抱えながらも、まだ細々と仕事に出ていた。母親も、いつものように穏やかに健太を気遣ってくれる。彼らの目を見るたびに、胸が締め付けられた。「心配させたくない」「俺がなんとかしなくちゃ」その一心で、一人で全てを抱え込んできた。しかし、その重荷はもう、彼の肩には乗り切らないほどに膨れ上がっていた。


荒木町の見慣れた景色も、今の健太にとっては鉛色に見えた。子どもの頃、秘密基地を作ったため池も、友人たちと泥だらけになって遊んだ田んぼ道も、今は彼の心の重さを増すだけだった。夕焼けに染まる空を見上げても、そこに希望の光はどこにも見つけられない。ただ、ひたすらに、どうしようもない絶望感が彼を支配していた。


「誰か、助けてくれ……」


声にならないSOSが、彼の心の奥底から響いていた。

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