【レ】 赤太郎の生涯
●【レ】 赤太郎の生涯
赤太郎は 十四歳になりました。
真面目で 正義感が強く
どんな小さな悪事も
ぜったいに許しませんでした。
そんな赤太郎は
みんなから『堅物太郎』と呼ばれ
友達も いませんでした。
正義感の強い 赤太郎は
遠方の地から伝わってくる
鬼どもの悪事が
どうしても 許せませんでした。
赤太郎は
おじいさんと おばあさんに
鬼退治へ行くと 告げました。
おじいさんと おばあさんは
賛成も 反対もせず
ただただ 困った顔をしました。
赤太郎が
言いたいことがあるなら
言ってほしい と言うと
おじいさんは
言いにくそうに
話し始めました。
「みんなのために
鬼を退治しようとする
その心意気は 立派じゃ。
だから おまえが
鬼退治へ行くことを
わしらは 止めやしない。
だが 考えてもみておくれ。
おまえ一人で
本当に 鬼退治ができるのかい?
きっと 鬼を退治するためには
強くて勇敢な 仲間たちを募る
必要があると思うんじゃ。
おまえに それができるのかい?
今まで 友達が一人も
できたことのない おまえに
仲間を集められるとは
とても思えないんじゃよ」
おじいさんの隣で
おばあさんが 何度も何度も
うなずいています。
赤太郎は ただただ衝撃でした。
おじいさんと おばあさんが
自分のことを
そんな風に思っていたなんて。
自分は 友達なんていなくても
構わないと思っていましたが
二人は ずっと
友達のできない 自分のことを
心配していたなんて……
おじいさんと おばあさんの
気持ちを知った 赤太郎は……
1
それでも 鬼退治に
行くことを決めました。
…『【レ・1】 赤太郎 鬼ヶ島へ』にすすむ
2
鬼退治に行くことを
諦めました。
…『【レ・2】 その後の赤太郎』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【レ・1】 赤太郎 鬼ヶ島へ
それでも
堅物太郎の 赤太郎は
一度 口に出した言葉を
くつがえすことなどできず
翌日 鬼退治へと
出発することに決めました。
出発の直前
おじいさんは
赤を基調とした 新しい服と
家宝の刀を 赤太郎に渡しました。
おばあさんは
大量に きびだんごを作って
持たせてくれました。
赤太郎は
二人に 感謝と別れを告げて
鬼退治へと 出発しました。
それから 赤太郎は
誰からも 声をかけられることなく
誰からも きびだんごをくださいなと
言われることもなく
ただただ 一人で旅を続けました。
そして そのまま
たった一人で
鬼ヶ島へ上陸しました。
見張りの鬼が
赤太郎に気づきました。
でも 声をあげたり
襲いかかってきたり
することはなく
ただ 赤太郎のことを
見ていました。
「我は 赤太郎!
鬼退治をすべく 参上した!
おとなしく観念しろ!」
赤太郎は 刀を抜いて
見張りの鬼に言いました。
しかし それでも
見張りの鬼は
まったく動じません。
「まあ まあ 落ち着け ちっこいの。
とりあえず 話そうじゃないか」
「う うるさい!
ぼくは本気だ!
悪行を重ねる おまえたちを
許すわけにはいかない!
観念しろ!」
「だから 落ち着けって。
名前 なんつったっけ?
アラ太郎だっけか」
「赤太郎だ!」
「赤太郎か。
なんか おまえらしくない
名前だな」
「え……」
赤太郎は おどろきました。
赤太郎は 昔から
自分の名前に
違和感を覚え続けてきました。
でも 他の誰かに言ったことは
なかったし
ましてや 他の誰かに
言われることもありませんでした。
「まあ 座れ。
時間もあるし
ちょっと話そうや」
赤太郎は 刀をしまうと
見張りの鬼から
少し離れたところに
座りました。
「ん?
おまえ うまそうなの持ってるな。
一つ くれよ」
赤太郎は 見張りの鬼に
きびだんごをあげました。
「もぐもぐ
こりゃ うまいな。
ところで
なんで おまえは一人なんだ?
普通 たった一人で
鬼退治になんか来ないだろ」
「そ そんなこと どうでもいいだろ。
ぼくは 一人が好きなんだ」
「そりゃ 嘘だね。
一人が好きって奴は たしかにいるが
おまえは そういう奴じゃないだろ。
おまえは 人が好きだろ。
もっと関わりたいと思っているし
誰かに 関わってきてほしいとも
思ってる。
鬼退治だって
誰かと交流するための
糸口にしようと思って
始めたんじゃないのか?」
「そ そんなことは ない……」
「まだ 会って何分も
経っちゃいないが わかるよ。
おまえは きっと
真面目で いい奴なんだろうな。
曲がったことも
大嫌いなんだろうな。
自分は いろいろな約束事を
全部 守りながら 生きているのに
他の人は たいして守っちゃいないのが
気になってるんだろ。
しかも そういう約束事を
守っていない奴らの方が
なんだか 日々楽しく生きていることにも
イライラしているんだろ。
違うか?」
赤太郎は 違う と言いたかったのですが
言えませんでした。
気づいたら 涙が流れていました。
自分が泣いていることに気づいて
あわてて 涙を止めようとしましたが
止まりませんでした。
「無理すんな。
泣きたいときは 泣けばいい。
おまえは なんにも間違ってない。
鬼退治だって
間違ったことじゃない。
ただな。
勇敢であることと
無謀であることは
違うんだ。
今の おまえは勇者じゃない。
ただの無謀者だ。
たった一人で鬼退治なんて
できるわけがない。
おまえは おれにだって
勝てやしないよ。
でも 共に戦おうと決めた
仲間たちがいたら
状況は変わる。
仲間がいるというだけで
おまえは おれにだって
勝てるはずだ。
大きな目的を持つことは立派だ。
でも その目的にたどり着くための
方法を 見誤るな。
急いではだめだ。
ときには 遠回りをして
周りを ゆっくりと見渡せ。
そうすれば
おまえは 仲間たちに
出会うこともできるだろうさ」
赤太郎は 泣きながら うなずきました。
「ああ それと。
おまえは 名前を変えた方がいいな。
そうだな……
泣いて ほっぺが 桃色だから
『桃太郎』でどうだ?
いい名前だろ」
「桃太郎……」
赤太郎は 初めて本当の名前を
呼ばれたような気がしました。
赤太郎 改め 桃太郎は
鬼ヶ島を あとにしました。
それから 数年後。
手強い仲間を連れた 桃太郎が
鬼ヶ島へと戻ってくるのですが
それはまた 別のお話……
おしまい
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【レ・2】 その後の赤太郎
赤太郎は
鬼退治へ行くのを諦めました。
その後 赤太郎は
おじいさんと一緒に
山で 柴刈りをして
暮らしました。
あるとき
隣町の知り合いから
お見合いの話がきました。
赤太郎は 断ろうとしましたが
おじいさんから
「わしの顔を立てると思って
会うだけ 会ってやってくれ!」
と 泣きつかれたため
とりあえず 会うだけ会うことに
なりました。
お見合い当日。
隣町から お見合い相手の女性が
やってきました。
とくに特徴のない
地味な感じの女性で
無口で 始終うつむいていました。
赤太郎は 女性と
二人きりになったところで
こっそり本音を言いました。
「大変でしたね」
「……はい?」
「無理やり お見合いしろと
言われたんですよね。
ぼくも そうです。
結婚なんて
好いた者同士でするものです。
無理やりしたところで
幸せになんてなれるわけがない。
大丈夫ですよ。
ぼくは ちゃんと お断りしますから。
心配しないでください」
すると 女性が
はじめて 顔をあげて
はじめて 赤太郎の目を見ました。
女性の目は とても力強く
まっすぐに 赤太郎を見つめていました。
「わ わたしは 無理やり来たわけでは
ありません!
赤太郎さんのことを聞いて
お会いしてみたいと思って
今日 ここへ来たのです!
わたしは 口下手ですし
趣味も ほとんどありませんし
一緒にいても つまらない女だと
思います。
だけど 嘘だけは大嫌いです。
わ わたしは 赤太郎さんのことを
もっと知りたいって
会ってみて そう……思い……」
急に声が小さくなっていって
最後の方は まったく
聞き取れませんでした。
女性は 顔を真っ赤に染めて
再び うつむいてしまいました。
そんな姿が 可愛らしいな と
赤太郎は思いました。
「無理やり来たに違いないと
勝手に決めつけてしまって
すみませんでした。
ぼくも あなたのことを
もっと知りたくなりました。
近いうちに また会いましょう」
赤太郎が そう言うと
女性は 真っ赤な顔で
こくんと うなずきました。
赤太郎は
自分の名前に翻弄されて
生きてきました。
真面目一筋だったのも
赤太郎という
名前の影響だったのです。
赤太郎は 鬼退治をしなければ
自分の運命は 開かないと
思い続けていました。
でも 鬼退治を諦めたことで
赤太郎は 素敵な女性と出会い
そして 幸せな家庭を築くことが
できました。
その後 赤太郎は
自分の名前に違和感を
覚えることは ありませんでした。
めでたし めでたし
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