第41話 いよいよ開戦な話

「よぉーし!気合入れていくぞ!まずはアップから。怪我のないよう入念にな!」


「おぉ!」


いよいよ、準決勝当日、俺たちは今日第2試合ということで、前の試合があっている間に、球場横のスペースでアップをしていた。


俺は堤君とペアを組んで、しっかりと体を温めていく。


「今日は出場機会あるかなぁ…」


「どうだろうな…堤君は可能性大いにあるでしょ。あんなに良いプレイしてたし」


「いやあれはまぐれだよ!ほんとに運がよかっただけで…」


「運だけであんなプレーは無理でしょ」


俺が登板した試合のライトフライ。

あれは間違いなく、打球判断、反応、フィールディング、すべてがそろっていないとできないプレイだったのは間違いない。

あぁいうプレイができる外野手が終盤に出てくると、味方からしたら安心感がすごいからな。


「…そんなに言われると照れるからやめてよ…」


む、どうやら思っていたことが口に出ていたらしい。

別に聞かれて困るようなことではないし、問題はないか。


「ふたりとも、調子はどうだ?」


「主将、真壁先輩。お疲れ様です」


「お疲れ様です!」


「今日の試合は、間違いなくこれまで以上にタフな試合になる。二人にも必ず出てもらうから、しっかり準備しておいてくれ」


「は、はい!」


「あらあら、試合前に後輩を威圧しているの?」


そんな風に話しているところに現れたのは、マネージャーの黒岩先輩である。

そんな黒岩先輩のセリフに堤君が顔を青ざめさせて反論する。


「威圧なんてとんでもないです!ぼ、僕たちは本当によくしてもらって…」


…堤君、超がつく真面目だからな。

そういうタイプの冗談通じなさそだなとは思ってたけど、これはこれで面白いからいいか。


「…なんかごめんなさいね」


「水瀬はともかく、堤にはそういう冗談は通じないからな。気をつけろ」


「肝に銘じておくわ」


試合前にこういう会話をできたおかげで、自然と肩の力を抜くことができた。

この辺りも、先輩たちのというか、優しさというか。

普段通りとまではないかなくても、これでいくばくか肩の力を抜いて試合に臨めるんじゃないだろうか。


「また性懲りもなくやってきましたか、野方君」


そんな雰囲気をぶち壊すように現れたのは、対戦相手である七星学院高校のユニフォームに身を包んだ、黒縁メガネのいかにも真面目そうな風貌の男であった。







「…何の用だ。新井」


「なんの用とはまた…。私たちの仲ではありませんか」


「俺は貴様と仲良くなった覚えはないが?」


「連れませんねぇ。どうです?まどかさん。こんな不愛想な男よりも、私のもとへ来ませんか?」


「名前で呼ぶことを許可した覚えはないわ」


「う~ん、あなたのそういう素直でないところは、あなたの唯一の欠点ですねぇ」


なにやらこの男、野方主将たちと因縁がありそうな雰囲気だ。

そうでなくても、彼の立ち振る舞いはとてもではないが友好的なものではない。

…以前対戦した時になにかあったのかもしれないな。


「どうせ今日も私たちに負けて無様に引退するのですから、今のうちに私に媚を打っておくべきではありませんかねぇ?」


「…すまんが、勝つのはうちだ。お前らにはゆずらん」


「はっはっは!何を言うかと思えば、去年私に打たれて、先輩たちの顔をつぶした男が偉そうに!」


「俺は二の轍は踏まないたちなのでな」


「…ふん。せいぜい今のうちに吠えていればいいです。まどかさん、この負け犬と一緒に沈みたくなければ、早いところ私のところにきたほうがいい。私はいつでも待っていますからね」


「丁重にお断りさせていただくわ」


「…では、失礼するよ」


そういって、黒縁男は肩で風を切りながら去っていった。

…なんだったんだアイツ。


「すまんな、俺のせいで変な奴に絡まれてしまった」


「な、なんなんですかあの人。すごい失礼な方でしたね」


「去年準決で当たった時、終盤で代打出てきたアイツに決勝打を打たれてしまってな。それ以来あぁやってことあるごとに絡まれるんだ」


「野方のことはもちろん、アイツはたぶん黒岩に気があるんだ。それでいろいろと…な?」


「私は願い下げだと、何度も伝えているのだけれど…」


先輩たちも大変そうだ。

ま、今日は俺たちが満を持して勝たせてもらうわけだし、そうすればあの男の鼻も明かせるだろう。


「俺たちも、チームが勝てるように微力ながらお手伝いさせていただきます」


「ぼ、ぼくも!試合出られるかわかりませんが、精いっぱいがんばります!」


「…いい後輩を持ったな俺たちは」


「そうだな。ここは先輩のプライドとして、しっかりせねば」


「私も、気を引き締めなおすわ」


謎の男の襲撃を受けたものの、むしろそのおかげで、俺たちの結束は一段高まったような気がする。


先輩たちも、あんな不測の事態に襲われて、さすがに動揺しないなんてこともないはずだ。そのあたりは後輩の俺たちがしっかりサポートしなければ。


いよいよ、準決勝の幕が開ける。








わぁぁぁぁぁぁぁぁ!


準決勝ともなると、観客の数が段違いに増えているな。

先ほど行われた反対側の準決勝では、戦前の予想通り大曲高校が順当に勝ち上がってきている。


決勝で待ち受ける大曲高校と戦うためにも、まずは目の前の七星学院高校を倒す。そのことにしっかり集中しよう。


挨拶を終えてベンチに戻るときに客席に目を向けると、いつもの奏、真琴、由奈の三人に加えて、俺の両親と咲夜が一緒にいる姿が見えた。


俺は6人に向けて手を振ると、彼女たちも気づいたようで手を振り返してくれた。

彼女たちの声援を力に変えて、しっかり活躍できるように頑張ろう。


初回、相手のマウンドに上がったのは、先ほどの厭味ったらしい黒縁メガネ男だった。


新井、といったあの選手は、長身に加えて長いウイングスパンを駆使して、上からボールを振り下ろすように投げてくるのが特徴の投手だ。


球速は140km前後といったところだが、やはりその独特のフォームの影響もあり、球速よりも体感速く感じる。


加えて、手元で細かく変化するカットボールやツーシームといった変化球を駆使してくるようで、そうそう簡単に打ち崩す、というわけにはいかないようだ。


まずはこちらの先頭バッター興梠先輩、上から投げ下ろされるボールの球威に押され、なかなかボールを前に飛ばすことができない。


それでも、8球も球数をなげさせることができた。

しかし、残念ながら最後は、インコースのツーシームを詰まらされてセカンドゴロに打ち取られてしまった。


2番バッターの柳先輩は、初球、セーフティーバントのしぐさを見せる。


『ボール!』


さすが柳先輩だ。まずは相手を惑わすテクニックで、カウントを良くしていく。

しかし、


がぎん!


やはり、しっかりとゾーンに投げ込まれてしまうと、球威に押されて打球が強く飛ばない。


バットの先でひっかけてしまった柳先輩は、そのまま勢いのない打球はセカンドへ。ツーアウト。


3番の座る真壁先輩。

ここからの中軸は、あの球威にも負けずに打球を飛ばせるだけの技術とパワーを持ち合わせているからな。


初球だった。


かきぃぃぃぃぃぃぃん!


痛烈な打球は、右中間へと転がっていく。長打コースだ。


「いけーっ!まわれーっ!」


真壁先輩は快足を飛ばして2塁へ、いきなりのビッグチャンスだ。

そして4番に迎えるのは、


「主将ー!たのんだぞー!」


「野方先輩ー!頼みましたー!」


野方主将は、打席に入ってマウンドに立つ新井選手を見据える。

対する新井選手も負けじと野方主将のことをにらみ返す。


初回から、いきなりの山場である。


初球、まずはインコースへのまっすぐ。野方主将はこれを見送ってボール。

きわどいコースだったが、野方主将がよく見極めた。


2球目、今度はアウトコースのまっすぐ。これは厳しいところへ決まってストライク。


そして3球目。


かきぃぃぃぃぃん!


捉えたあたりであったが、打球は惜しくも3塁線切れてファール。

最初の打席から、しっかりボールをとらえることができている。これは期待できそうだ。


4球目、今度はアウトコースのツーシーム。

手元で小さく曲がる変化球だが、これも野方主将がよく見極めてボール。

これで2ボール2ストライク。


5球目、ここが勝負どころか。


新井選手は、大きく振りかぶって投げた。

球種はまっすぐか、コースが甘く入ってきている。主将ならば…!

そう思った次の瞬間であった。


「むっ…!」


なんと、野方主将のフルスイングは、ボールをとらえたと思った次の瞬快には空を切っていた。


『ストラックアウッ!』


空振り三振。惜しくも初回のチャンスをものにすることはできなかった。

だが、あの最後のボールは…


「フォークだな」


「去年はもちろん、ここまであんなボール一回も投げてないよな?」


「あぁ。ここまで隠してた必殺技といったところか」


なるほど…

温存してた秘密兵器か。

だが、逆に言えば初回から隠し玉を見ることができたのは僥倖だろう。

先輩たちなら、これから打つ崩してくれるだろうと信じている。


さぁ、守備だ。マウンドに上がるのは当然野方主将だ。

対する七星学院高校は、右腕の野方主将に合わせてか、左バッターが多く並んだラインナップだ。


試合前の情報から、データを活用した野球を得意としていると聞いたが、ここまであからさまに野方主将の対策を行ってくるとは…


だがまぁ、その程度で打てるほど、野球は簡単じゃないが。


初球、いきなりウイニングショットのカーブから入る野方先輩。

相手バッターは、あえなく体勢を崩して空振り。


2球目、今度はインローの厳しいところにまっすぐ。

あのカーブの後にこのボールは手が出ない。2ストライク。


3球目、今度はアウトロービタビタのまっすぐ。

このボールにも手が出なかった先頭バッターは見逃し三振。


完璧な立ち上がりだ。相当気合が入ってそうだ。


『2番、ピッチャー、新井君、背番号1』


さて、2番バッターは因縁の新井選手だ。

バッティングのほうでは、まずは新井選手のほうに軍配が上がっている。

ここの勝負は、どうなるか。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る