第20話 龍のいない学校生活
「…」
「…」
「…すごい。柊さんも皇さんも萎れた花みたいになってる」
そうです。私はいまとんでもなく落ち込んでいます。
あまりの落ち込み具合に、普段私たちと仲の良い友人たちも心配してくれています。
なぜこんなに落ち込んでいるのかというと、何を隠そう私の最愛の人、水瀬 龍くんが今、部活の遠征で学校にいないからです。
いやね?私も最初は、3日ぐらいなんてことないでしょ~って高をくくっていたんです。
でもね、無理でした。
まだ1日目にも関わらず、私たちはいるはずのない龍を駅で待ってしまい、学校に遅れるところでしたし。
学校へ向かう道中も、龍くんの家が目に入ると体がそちらに吸い寄せられてしまいましたし。
…はぁ。しかも、遠征中はスマホの使用も制限されるらしく、まともに連絡を取ることができません。これ、私あと2日も耐えられるのでしょうか…
「…お手洗い行ってくる」
「は~い…」
奏も目に見えて元気がありません。
私も、まさかここまでとは思ってもいませんでした…
…
龍くん、今頃試合出れてるかなぁ…
活躍、出来てたらいいなぁ…
会いたいなぁ…
…
ハッ!
まずい、気づけば龍くんのことを考えてしまっています。
気晴らしに外の空気でも吸って気分転換しましょう…
廊下に出て窓を開けて、大きく深呼吸をしていたところだったのですが、
「柊さん!ちょっといいかい?」
「…西野くん」
またこの男ですか。
というかあの件で凝りていなかったんですね。
う~ん、一人になりたくて、廊下の奥まったところに来たのは失敗でした…
人が多い教室の前にいれば絡まれなかったと思うのですが…
「その…柊さんはさ、今の状況に満足しているのかな…?」
「…おっしゃっている意味が分かりませんが」
「ほら、水瀬君って、柊さんと皇さんの二人と付き合ってるんでしょ?」
「そうですけど」
「その、さ。僕だったら、柊さん一人のことを見てあげられると思うんだよね」
なにを…言っているのでしょうか?
この人は、本当に私の逆鱗に触れるのがお得意なようですねぇ…
そもそも、最初に私たち二人と付き合いたいっていったのはあなただったでしょうが!
「私たちの関係は私たちだけのものですから、いらぬ気づかいは不要です」
「君みたいな美しい人が、そんな片手間に彼女をしてるなんてもったいないと…」
「だから、そういうのは必要ないと」
「一度でいい。僕とデートしてみようよ。絶対に後悔させないからさ」
そういうと、彼は何と私の手首をつかもうと迫ってきたのです。
私はあわててその手を払いのけます。
「ちょっと、やめてください!やめて!」
「そんな邪険にしないでよ。君だって内心では皇さんを出し抜きたいだろ?」
「意味が分かりません!なんであなたとデートしたら奏を出し抜くことにつながるんですか!?」
「ぼくさ、今度、サッカー部でBチームのキャプテンに選ばれたんだよ?一年生なのにさ!そんな僕と付き合えれば、皇さんも悔しくて仕方ないと思うよ?」
Bチームのキャプテンって、それいわゆる二軍ってことですよね!?
私の自慢の彼氏は、一軍の試合のメンバーに選ばれているんですけど!?
彼から距離をとろうとしますが、いかんせん立ち位置がよくありません。
私の背後には壁があり、これ以上下がることができないところまで押しやられてしまいました。
これは非常にまずい…!龍くんがいない時を狙ってくるなんて、なんて卑怯なやつ…!気持ち悪いけど、最悪こいつの股間を蹴り上げて…
そこまで考えたところで、私のもとに救世主が現れました。
「何をしているんだ?」
「や、山村先輩!?」
龍から衝撃の報告を聞いてはや二週間。
私は龍の彼女になったという二人とどうにかして会えないかと機会をうかがっていたわけだが、今日はまさしく絶好のチャンスなのだ。
なぜなら、龍が遠征でいないからだ!
いや、別に龍がいたって問題はないわけだが、やはりこういう話は女だけでやったほうがはかどるだろうからな。
…まぁ、龍がいると気まずいっていうのは否定できないが。
そんなわけで、私は昼休みにさっさと昼食を済ませると、一年生の教室へと向かう。
すると、廊下の奥の方から、なにやら言い争うような声が聞こえた。
声がする方を覗くと、男女が喧嘩をしているようだ。痴情のもつれか?
ただの口喧嘩ぐらいであれば別に介入することもないと思ったんだが、どんどんヒートアップしているようで、かなり不穏な空気が漂っている。
これは放っておくわけにはいかないか。
私は二人のもとに近づくと、
「何をしているんだ?」
と、声をかけた。
「や、山村先輩!?」
おや、男性の方は見覚えがあるな。
たしか、以前龍を部活に連れていくときに、私に声をかけてくれた青年だな。
女子の方は…あのとき同じ教室にいたような…
「男女間のことだからいろいろあるとは思うが、なにごとも冷静に話し合うことをおススメするぞ?」
「え、あ、いや、その」
彼は、私の顔を見ると頬を真っ赤に染めてたじろいでいる。
なんだ?興奮しすぎて意識がもうろうとしてるのか?だとすれば割って入って正解だったな。
「あの…山村先輩はどうしてこちらに…?」
「あ、いや、ちょっと人に会いに来たのだが」
「どなたにお会いしたいのでしょう?よければ私がお呼びしますが…」
「ん、そうか?じゃあ柊さんと皇さんという子を呼んでほしいんだが…」
「えっ」
「えっ?」
「柊は私ですが…」
「なんだと!?じゃあ君が龍の彼女か!?」
「は、はい!?そうですけど…」
「であればちょうどよかった。では皇さんは…」
「あ、じゃあ呼んできますよ」
「私も一緒に行こう」
「え、あ、ちょ、ちょっと、まだ話は」
「私は話すことはありませんので。では山村先輩、いきましょう」
…はじめは二人の間でなにかあったのかと思ったが、どうやら事情が違うようだな。柊さんの男を見る目がまさしく絶対零度といった様子だったし。
そのあたりの話も気にはなるが、今はとにかく龍の彼女と交流を図るのが先決だ…!
「改めて、自己紹介しよう。私は 山村 由奈 という」
「私は、柊 真琴 といいます」
「皇 奏 …です」
ふむ…彼女たちが龍の彼女か…
いやめちゃくちゃ美人じゃないか。龍のやつ、ちゃっかりしてるな全く!
というか、しっかり警戒されているな。それもそうか。全く面識のない先輩にいきなり呼び出されたわけだからな…
…
というか私、二人を呼び出したまではいいが、何を話すか全く考えていなかったな。
…
ひ、ひとまず自分のことを話すところからだな!
「私は龍と幼馴染でな!」
「以前、龍くんのこと教室に迎えに来られてましたよね」
「とても綺麗な先輩だったから、印象に残ってる」
「そ、そうか?ありがとう…」
「それでその…私たちに用事って…」
「あ、いや、その、なんだ?龍に彼女ができたと聞いてな?どんな方なのかな~と気になったというか…」
い、いかん。つい考えていたことをそのまま伝えてしまった。
もっとマイルドにというか、こう…もう少しオブラートに包んで話すつ盛だったのだが…!
「…山村先輩、もしかして…」
「ん!?違うぞ!?君たちから龍をとろうとかそういうことを考えたわけではないからな!?」
「別に何も言ってませんが…」
「んぐっ…!?」
「…山村先輩って、案外かわいい方なんですね」
「かわっ…いや、私も本当はもう少し落ち着いて話すつもりだったのだぞ…?」
「ふむ、龍はよくこんな先輩が近くにいて野獣にならなかったと思う。帰ってきたら褒めてあげよう」
「確かにね。私も普段撫でられてばっかりだし、今度撫でてあげようかな」
「な、撫で…?そんな破廉恥なことをしているのか君たちは…!?」
「は、破廉恥…?」
「いやだってそうだろう…?頭を撫でるんだろ…?そんなの破廉恥じゃないか…!」
「…私、龍の精神力を甘く見ていた」
「本当に山村先輩って、本当に可愛いですね…」
口をポカンと開けて私を見る後輩2人。
こんなはずでは…!
「そういえば、先ほどの男はなんなんだ?」
「男?」
「あぁアレですか…」
「なにかあった?」
「いやその…ね」
そういうと、柊さんは事の顛末を私たちに説明してくれた。
話を聞けば聞くほど、先ほどの男がとんでもない奴だということが分かった。
龍、君は良く2人を守ったな!ほめてつかわす!
「アレ、まだあきらめてなかったんだ」
「私もびっくりしたよ…ほんと急だったから…」
ふむ、その男、自分を振った女に惨めに縋り付くだけでなく、まさか彼氏がいない隙を狙うなど、男の風上にも置けん奴だな。
だが、先ほどの様子を見るに、まだ二人に絡む可能性は否定できないか。
「よし分かった。二人とも、龍が帰ってくるまでの間、私と一緒に行動しないか?」
「山村先輩と?」
「うむ。そうすれば、あの輩に絡まれる心配もないし、仮に絡まれても私が守ってやれる」
「え、でもさすがに申し訳ないというか…」
「山村先輩には、私たちを守るメリットがない」
「龍の彼女なら、私にとっても二人は守るべき存在で、友人だ。気兼ねなく頼ってほしい」
「でも…」
「それに、事情を知ったうえで知らんふりをしたら、私が龍に怒られてしまう」
「…いいんでしょうか?」
「正直、ありがたい」
「遠慮するな!自分でいうのもなんだが、荒事なら龍よりも頼りがいがあると思ってくれて構わんぞ!」
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、短い間だがよろしくな」
思わぬ形であったが、この子たちもとても良い子のようだし、仲良くなれる分には問題ないか。
なんなら、龍が帰ってきたときには、龍よりも彼女たちと仲良くなって置いてやろうか!うん、いいなそれ。
そういえば、龍はいまなにをしているのだろうか。
まぁ、龍なら問題はないと思うがな。
龍ならあっさりレギュラーをつかみ取って帰ってくるだろう。
私も負けるわけにはいかないな。
今年こそは全国大会優勝を達成してみせる。
…優勝すれば、龍もまた褒めてくれるだろうか…
い、いや、別に龍に褒めてもらいたいから頑張るわけではないがな!
って私は誰に言い訳しているのだ!?
「山村先輩、本当に見てて飽きないね」
「ん、真琴と同じぐらい表情豊かな人初めて見た」
…本当に恥ずかしいからやめてくれ…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます