テスト、そして勉強会
第15話 丸く収まった話
「おはよう龍くん!」
「おはよう、龍」
「おはよう、真琴、奏」
激動の一日から一夜明け、
いや、激動だったのは夜だけだったはずなんだけど。あまりに濃すぎてそれ以前の記憶がほとんど薄れている。
今日も今日とて、二人と一緒に登校である。
まぁ、カップルになったからって、何かが急に変わるわけ…
「ぎゅっ」
「ぎゅぎゅっ」
…いえ、そんなことはありませんでした。
なんと彼女たちが両サイドから、俺の腕に抱き着いてきているのですから。
「一応聞いておくんだけどさ。もしかしてこれで学校行くつもり?」
「あたりまえでしょ!やっと我慢しなくてよくなったんだから!」
「私たちの仲の良さを見せつけておかないといけない。またあんなのに絡まれたらたまったもんじゃない」
あんなの…西野くんのことか。
まぁ、その、なんだ。俺自身はあまり気にしていないというか、気になっていないというか。西野くんの言動に関して、特別思うことは正直全くないんだけど。
彼女たちにとって、俺が刺されたあの事件の出来事はとても大きなものであって、それを小さくみられるってことは我慢ならなかったんだろうなと。
いわゆる二人の地雷ってやつを踏んでしまったわけだな。
もう二人は俺の彼女になってしまったので、彼の出る幕は残念ながらもうないんだけれども。
それはさておき、俺は今日二人にある提案をしようと思っていたのだ。
「二人は電車通学なんだよな?」
「うん、そうだよ」
「龍の家が駅と学校のちょうど間でよかった」
彼女たちの登校ルートは、家から電車で最寄り駅まできて、そこから俺の家に寄ってから学校に向かう、というものだ。
「ひとつ、二人に提案したことがあってさ」
「提案?なになに?」
「俺、明日から駅まで二人のこと迎えに行っていいか?」
「学校と駅は逆方向だから、その場合龍は無遠回りすることになる」
「そうだよ!今まで通り家で合流で良くない?」
まぁ効率を求めればそれがいいんだろうけども。
俺だって男だ。ちょっとした欲望だってちゃんと持っているんですよ。
「ほら…そうすれば、少しでも長く三人でいれるだろ?」
そりゃあ、こんな可愛い女の子たちが俺の彼女になったって、正直一か月前の俺にいったって信じられないぐらいの奇跡である。
じゃあそんな奇跡を享受しないわけにはいかないでしょうという話である。
…つまり俺だって二人とできるだけ長く一緒にいたいわけですよ、えぇ。
「…ふぇ」
「ふぇ?真琴?」
「…きゅう」
「奏!?どうした!?」
顔を真っ赤にした真琴は口をポカンと開けて微動だにしなくなったし、
奏に至ってはぶっ倒れちゃったんだけど。
なんとか受け止められたからいいものの、もう少しでケガするところだったんだが?
「ご、ごめんね。ちょっと急に可愛いこと言われちゃって、ギャップに脳が追いつかなかった…」
「右に同じ。龍は不意打ちが多すぎる。もしかしてSっ気がある?」
「そんなものはないぞ」
あのあと、二人は顔を真っ赤にしたままではあったが何とか再起動した。
だが、俺と腕を組んで登校することは忘れていなかったようで、今は学校までの道を三人寄り添いながら歩いている。
「そういえば、俺の両親が夏休みにでも二人を家に連れてこいって言ってたんだけど」
「え!いくいく!咲夜ちゃんにも会いたいし!」
「私も問題ない。こういう時のご挨拶は大事」
「じゃあ、また近くなったら日程を決めよう」
「楽しみー!」
俺も、二人と家族ぐるみで仲良くできればそれが一番いいと思ってたからよかった。心配は別にしていなかったが。
「そういえば、二人のご両親には俺のこと話した?」
「うん!バッチリ!」
「私も。全く反対されなかった」
「じゃあ。俺も二人の家にあいさつに行かなきゃな」
こういうのは早め早めに行動できるかが肝心なのだ。
以前実家でみた昼ドラでは、家族への挨拶がおくれたせいで、相手方の家族と険悪な雰囲気になってしまい、そこから不穏なストーリーが展開される…みたいなの見た記憶がある。そんなのはごめん被りたい。
俺だって二人のご家族とは仲良くしたいしな。
「あ、あいさつ…あいさつね…そうだよね…結婚…結婚して…あなた…」
「くふっ…子供は3人は欲しい。いやでも真琴と龍の子供お世話も…くふっ」
どうやら両脇の女の子たちは再び自分たちの世界へ飛び出して行ってしまったらしい。まぁ、あながち間違いでもないし、訂正することでもない。好きにさせておくか。とりあえず、二人が前方不注意で電柱やらなんやらにぶつからないようにだけ、気を配っておこう。
夢の世界を漂っている二人を引き連れて、何とか学校に到着した俺たちは、再びクラスメイト達に囲まれた。二人が教室まで離れなかったおかげで、腕を組んだままの状態で、クラスメイト全員の注目を浴びてしまったのである。
「ね、ねぇ!三人のその様子をみるにですね…もしかして…?」
「はい…その…私たち、お付き合いすることになりました!」
「ぶいっ」
その瞬間、教室がとんでもない歓声に包まれる。
「うそー!おめでとう!」
「うちのクラス初のカップルじゃん!」
「でも三人だからトリオ!?」
「くそー!幸せになれよー!」
最初はどうリアクションされるかと身構えていたが、どうやらみんなには肯定的に受け入れられているようで安心した。
自分でいうのもなんだが、狙ってのことだとはいえ、あれだけ恥ずかしいセリフを吐いてドラマティックな場面を演出したのだ。
あんなドラマ顔負けのストーリーでカップルができたとあれば、まぁミーハーな高校生からすれば面白いネタの一つとして消化してくれることだろう。
そのせいで注目される分に関しては、有名税として甘んじて受け入れよう…
そういえば肝心の西野君は…まだ来ていないみたいだ。
昨日の今日だし、顔を出しづらい、というのはあるかもしれないが。
すると、人の壁をかき分けるように、一人の女子が俺たちのもとにやってきた。
懇親会の幹事を務めていた女子のうちの一人だ。
「水瀬君、柊さん、皇さん、昨日は…ほんとうにごめんなさい!」
「ごめんって…俺たちなにかされたっけ?」
「い、いや、思い当たることはないけど…奏は?」
「私もない。どうして急に謝罪を?」
俺たちの疑問に顔をうつむかせながら、小さな声で話し始める。
「昨日ね、懇親会をやるってなって、西野くんに幹事をしてくれ~って頼まれたの。そこでね…」
『実は、僕好きな女の子がいてね。その…恥ずかしながら、彼女たちも俺のことを想ってくれているみたいなんだ。だから、明日の懇親会で僕から告白して、みんなに祝われながら結ばれたい…と思って』
「だから協力してほしいっていわれて…でも、よくよく落ち着いて考えてみたら、あんなみんなの前で告白されるなんて、その、なんというか…公開処刑…みたいな?すごい恥ずかしいことだったんじゃないかっておもって…」
「それは…まぁ…そうかも…」
「ん。普通の神経では思い至らない所業」
というか西野くん…いやもう西野でいいか。
アイツ、本当に嫌われていることに気づいてなかったのか。
そりゃああんな場で告白しようと思うわけだ。さすがに鈍感が過ぎるぞ。
「うちも、ごめんなさい!」
「水瀬君が間に入っていなかったら、たぶんもっとこじれてたよね…本当にごめん…!」
その時のテンションに引っ張られて、気づかぬうちによからぬことをやってしまう、というのはよくあることだ。俺も経験がある。
「あぁいうことはもうしないでほしい、とは思うけど、あれのおかげで二人と付き合えたと思うと、実は少し感謝してるところもあるんだ」
「龍くん…!」
「龍はそういうと思った」
にこやかに笑ってくれる二人がこうして俺のそばにいてくれるのは、昨日の事件のおかげも少しはあるってのは、認めてあげてもいい。
だから、俺からいう言葉は一つだけだ。
「今回のことは許す。もう気にしないでくれ」
「…2人が水瀬君のこと好きな理由が分かった気がする」
「ちょっと!渡しませんよ!」
「ん!龍は私たちのもの!」
2人が力強く俺の腕を抱きしめる。
いやね、両腕に感じるふわっとした感触、幸せではあるんだけどね。
みんなの好奇の視線に対する恥ずかしさが勝ってしまうんですよね。
なのでちょっと離してくれませんかね…あ、ダメですかそうですか。
その後、落ち着いたクラスメイトのみんなと雑談をしていると、担任である小鳥先生が教室に入ってきた。
「あらあらみんな元気ね…あら…あらあら?」
「小鳥先生、おはようござ「なにかあなたたち三人の空気感が先週までと違うみたいねぇ〜?」…そうですかね…」
「ふっふっふ、何を隠そう私たち」
「昨日からカップルになった」
「…!あらあらまぁまぁ!水瀬君も隅に置けないのねぇ~」
「…あっさり言っちゃうんだねふたりとも」
「ふふん!別に隠すこともないしね!」
「こんなにイケメンの彼氏がいるなんて、自慢しないだけ損」
そういって胸を張る二人。こんなしぐさでもう何でも許せちゃうあたり、俺も二人にぞっこんなのだ。
「…ふむ。これは計画を早める必要があるわね...」
「先生?今何かおっしゃいました?」
「いいえ~なにも。では少し早いけど、みんな席についてくれる?ちょっとみんなに連絡があるの」
小鳥先生の指示で、全員が自分の席に戻っていく。
去り際に
「またあとでね」
「休み時間、ずっと張り付いてる」
とのお言葉をいただきました。
いや、張り付くってそれ木に引っ付いてるセミじゃないんだから...まぁいいか。
「さて、お知らせなのだけれど。もうすぐテスト期間に入るじゃない?」
そう。すでに入学して一か月が過ぎようとしている高校生活において、最初のイベント…否、試練が始まる。そう、中間テストである。
学生が避けては通れない、第一関門というやつだ。
「それに伴って、放課後に食堂の一部を自習室として開放することになったの。もしもともとある自習室が満員で利用できないときは、食堂の方ものぞいてみるといいわ」
鳳学園は、自主性を重んじる学校であるから、やはり生徒の学習意欲も非常に高い。以前由奈に聞いたところによると、テストが近づいてくると、自習室の席の争奪戦が起こるらしい。
今回は、試験的にそれを避けるための措置として、食堂が開放される、ということだろう。
「あ、一つ断っておくけれど、放課後の食堂はあくまで自習室として開放するから、飲食は禁止よ。それだけは覚えておいてね~」
「「「は~い!」」」
「元気があってよろしい!じゃあ、いつも通りホームルームはじめるわね~」
ふむ、放課後にテスト勉強ね。
ホームルーム後、真琴と奏が俺のもとに飛んできた。
いや、比喩ではなく、本当に。すっ飛んできたのだ。
「勉強会!」
「あ、あぁ…?」
「だから!勉強会!しよ!」
「そういうことか。俺も二人に勉強会しないかって聞こうと思ってたところだ」
「ふむ、つまり私たちは以心伝心ということ」
食堂の話を聞いてピンときた。
勉強会であれば、放課後もそれなりの長い時間一緒に入れるし、テスト期間に入れば、部活も休みになるから時間も確保できる。
そのうえしっかり勉強できれば、一石二鳥どころの話ではない。これは名案過ぎでは?
「テスト期間って来週からだよね?」
「そうだな。ちょこちょこ勉強はしてるが、やっぱり休んでたぶんの取り返しがなかなか」
学校に復帰してからはもちろん、実は入院中から、少しずつではあるが高校内容の予習は進めていたんだ。
けど、実際に授業を聞いてみると、独学で勉強することの限界を感じたね。
このペースなら赤点とかは取らないだろうが、高得点を獲得するのは難しいだろう。
「じゃあ、そのあたりは私が教えてあげる」
「奏!私だっておしえるんだからね!」
「二人はどの科目が得意なんだ?」
「私は英語と古文!」
「理系科目全般が得意」
「キレイに別れてるんだな」
「私たちって、趣味とか好みは結構合うんだけど、得意科目だけは似てないんだよね」
「逆にありがたかった。中学の頃も、お互い苦手なところをカバーしあえたから」
「それはいいな。じゃあ勉強会の時は、二人に得意科目をそれぞれおしえてもらおうかな」
「この真琴先生に任せなさい!」
「当日はスーツにメガネかけてくる」
「…普通の格好できてな」
…2人の教師姿、少しだけ、ほんの少しだけ見たいなって思ったのは、内緒だ。
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