登場人物の話し方、行動が明確に書き分けられていて上手い。アメリカ社会のように多様な民族、言語がひしめく乱雑さ、小説的な繊細な感性を持つ者がいる一方、少々振る舞いの荒っぽい男がいて、学者のように冷静な女性がいる。その個性があるからこそ、テーマについて考えさせられるところも大きい。
緩急はどちらかというと緩やかな方だろうか。場面場面でキャラクターたちはしっかりと思考し、確信を持って行動する。しかし葛藤する人間も数多く、その揺らぎがまた物語に重厚さを加える。
描写は静謐と言うより他にない。すべてが的確な叙述と言葉の美しさに包まれて、丁寧だ。その文章力で日常と非日常の二つの表現を同時に使い分けるのだから頭が下がる。人物の見た世界を時に冷ややかに時に情景そのままに描く。読んでいて違和感がなく、しかし時折この小説世界の歪さを覗かせる。概して彩りのよい小説だと思った。
仮想の楽園《SE-HASS/シーハス》
そこは、人類最後の理想郷と名高い『地球』である
死ぬ前に脳を摘出して記憶を封じ、意識格納装置へと接続することで、新たな生を始めることができるのだ。
美しい星で、安らかな再誕を!
——地球って、自由ですか?
人はいつか地球に還れる。
美しい星で、永遠に心を漂わせ続けられるのだ。
——地球って、自由ですか?
足取りはいつもと変わらない。
病室に行き、患者を看取り、淡々と書類にサインを求めるだけ。
——地球って、自由ですか?
意識がない状態が長く続くと、脳の保存に影響が出る可能性がある。
脳を液体の中に閉じ込めるのは、早いほうがいい。
「……地球って、自由ですか?」
それを知る術を、私は持ち合わせていなかった――。
これは、忘却と自由をめぐる、静かで痛烈な近未来ディストピア。
未来都市に漂う、ほのかなディストピアの匂い。
本作は複数の視点が静かに交錯しながら、閉塞と謎を少しずつ積み上げていきます。
繰り返される日常に潜む違和感──それを登場人物たちは、いつの間にか“当然”として受け入れているという違和感。
病なのか、陰謀なのか、それとも……?
視点が切り替わるたび、読者の手元には新たなピースが転がり込み、パズルはますます複雑さを増していきます。
いまのところ、各人物の物語は並行線を描いているようでいて、概要によれば第4話付近から真相が見え始めるとのこと。
これらの断片がどこで重なり、どんな全景を描くのか──その瞬間が待ち遠しい作品です。