第20話 職員室ってやっぱり入りづらいですよね

 春休みも残すところあと数日となった今日。

 和樹は案内役として、結希と共に私立秀誠学園高校にやってきていた。


 というのも――――


「ふふっ、秀誠の制服がどんなデザインなのか楽しみです」


 そう。

 今日は結希が転入するにあたって必要になる、教材や生徒手帳、制服といったものを受け取りに来たのだ。


 学校側が直接取りに来させたのは、恐らくついでに秀誠学園についての説明を一緒にするためだろうが、今結希は和樹の家に居候しており住所もそこに置いているので、変に郵送などされても面倒なことになるので助かった。


「あぁ、やっぱ女子って制服のデザインとか気にするよなぁ」


 職員室に向かって廊下を歩きながら、和樹は自分の姿を見下ろした。


 付き添いといえど校門を跨ぐに変わりはないので、きちんと制服に着替えてきた和樹。


 全体的に灰色を基調としたデザイン。

 ダークグレーの長ズボンに白シャツ。上から少し明るい灰色のブレザーを羽織り、襟元は学年ごとに色が統一されたネクタイで引き締められている。


 ちなみに和樹の首元を飾るネクタイは青色で、一年生は赤、三年生は緑色。


 女子はネクタイとリボンの両方を選べるが、色はともに同じである。


「っと、着いた着いた。ここが職員室な」


 あとは結希が入室して事情を説明し、誰か担当の教師から案内を受けて必要なものを受け取ればいいだけ。


「じゃ、俺はこの辺りで待っとくから――」


 と、和樹は小さく手を挙げて結希の傍から離れようとしたのだが――――


 キュッ。

 ブレザーの裾を結希に摘まんで引き留められた。


 和樹は小さくため息を吐いて振り返る。


「もしかして、高校生にもなって一人で職員室に入るのが怖いとか言わないよな……?」

「す、少なくとも初めて入る職員室は怖いです。完全にアウェーじゃないですか」


 言わんとしていることはわからなくもない。

 しかし、結希は普段、魔法少女として人を襲うような魔物や悪の組織の手の者と戦っているのだ。


 それに比べたら、見知らぬ大人を相手にするくらいワケなさそうに思えるが。


「いや、俺が付き添ってることをどう説明するんだよ……」



 ――――ガラガラァ。


『失礼しまーす、一色和樹です。今期から転入してくることになった白柳結希さんを連れて来ました~』


 手近な位置にいた教師が対応してくる。


『おぉ、ありがと……って、何でお前が連れてきてるんだ? 知り合いか?』


 当然の疑問。

 少し訝しむような視線を向けられる。


 しかし、臆することはない。

 素直に話せばわかってくれる。


 生徒の声に耳を傾ける。

 それこそ、教師のあるべき姿だ。


『知り合いというか、同居人ですね。結希の家が消し飛んだので』


 沈黙、沈黙、沈黙。

 そして、一斉に振り返った職員室中の教師らが――――


『『『はぁぁあああああああッ!?』』』


 ………………。

 …………。

 ……。



「――ってなりかねんぞ」

「そ、そこはこう……上手い感じに誤魔化しましょう。親が再婚して出来た義兄妹……みたいな?」

「どこのラノベだよ。心当たりはありすぎるが、ウチはそんな複雑な家庭じゃない」


 第一、和樹には既に実の妹がいる。

 妹なんて一人で充分。

 これ以上増えられても困るだけだ。


「な、なら幼馴染?」

「幼馴染トークで口裏合わせられるほどまだそんなに長い付き合いじゃないだろ」


 短い期間ならそれで通用するかもしれないが、長く学校生活を過ごしていく中で必ずどこかでボロが出てくる。


「で、でも……」


 結希が心細そうな瞳を向けてくるが、和樹も負けじと見詰め返して、意思は固いと示す。


 しばらく職員室の前でにらめっこが続いていたのだが…………


 ガラガラ――――


「……んあ? 何やってんのお前ら?」

「「…………あ」」


 突如開かれた職員室のスライド式の扉。

 中からどこかやさぐれた雰囲気で覇気のない二十代半ばくらいの男性教師が出てきて、こちらに訝しげな視線を向けてくる。


「って、一色じゃねぇか」

「あぁ……おはようございます、武内たけうち先生」


 呆気に取られていた和樹だが、何とかぎこちない笑みを浮かべる。


 何を隠そうこの武内先生は、昨年度和樹が所属していたクラスの担任教師だ。


 そして、この情緒も品もクソもない死んだ魚の目をしたような武内先生の担当教科は、音楽。


 この秀誠学園高校の吹奏楽部の顧問もしている。


「えっと、隣の美少女は……誰?」


 武内先生の視線が和樹の横に向く。


 顔を覚えていなくとも、生徒であれば制服を着ているはずなので、場違いにも感じられる私服姿の結希が不思議なのだろう。


 ちなみに今日の結希のコーデは、白いブラウスをタイトな黒いパンツにインした、カジュアルながらも全体的な可愛らしさを抑えたシンプルなものだ。


 純白の髪は後頭部の高い位置で一つ束ねにされており、普段は見えないうなじが晒されているいることもあって、視線をやると少し胸の奥が落ち着かない。


「び、びしょ……?」

「あ、はい。こちらの美少女は白柳結希、さん。転入生です」

「びしょっ……!?」


 結希は何か戸惑っているようだが、武内先生は何も間違っていないし、その疑問に答えた和樹も間違っていない。


 何も驚くことは、ない。


「んあぁ~、そういや今日来るから対応してくれって言われてたんだったわ。白柳結希、ね……いやぁ、まさかウチのクラスにこんな美少女がやってくるとは……」


 感心しているのか、武内先生は顎を撫でながらやや前のめりになって結希を見詰めるが、その死んだ魚のような目のせいで、正直大して興味を示しているようには見えない。


 ただ、そんなことよりも和樹は引っ掛かりを覚えていた。


「ん、今ウチのクラスって言いました?」

「んあ……? あぁ、わりぃ。口が滑った」


 結希から視線を外した武内先生が、ポリポリと後ろ頭を掻く。


「ゆ――白柳さんは、武内先生のクラスに配属されるんですか?」


 どうせ口を滑らせてしまったんだ。

 ここだけの話にするつもりだし、第一大した機密情報というワケでもないだろう。


 和樹は遠慮なく質問を投げた。


「まぁ、そういうこった」

「なるほど」

「口滑らせたついでだ。一色、お前もまた俺のクラスだから、よろしく」


 和樹は少し驚いたように目を丸くし、一拍置いてから反応した。


「今年は色々と面倒事押し付けないでください」

「ばっかやろう。そのために無理矢理お前を俺のクラスにねじ込んだんだよ」


 おい、と和樹は半目で睨んだが、悔しくも今はあまり武内先生を憎めなかった。


 今年度、結希と同じクラス。

 その事実が、思ったより自分の中で嬉しかったらしい。


 和樹は自分自身に心の中で「単純な奴め」とツッコミを入れておいた。


 チラリと横目で隣を盗み見てみれば、結希はその感情を隠すことなく、幸せそうな笑みを湛えて静かに喜んでいた――――






―――――あとがき―――――


 次回から春休みが開けます!

 学校生活も絡めての物語をお楽しみください!


 また、この作品を少しでも気に入ってくださっている方は、是非『作品のフォロー』『☆☆☆評価』をよろしくお願いします!


 作者のモチベーションに大きく繋がりますので!


 コメントなどもすべて目を通しておりますので、お気軽にドシドシどうぞ~!


 ではっ!

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