第2話「神社の石段」

 夜も更け、喧騒から逃れるように二人は神社の奥へ向かった。人影の少ない石段に並んで腰を下ろす。

 提灯の灯りも届かない場所。蝉の声はすっかり途絶え、遠くから聞こえるのは、

打ち上げ花火の重たい音と、かすかに届く祭囃子の音色。

 ユカリは静かに鞄から小さな袋を取り出した。中には数本の線香花火。

 ユカリ「……これ、毎年買ってたの。覚えてる?」

 タカシ「うん」

 タカシは頷き、マッチを擦った。ひとつめの線香花火がオレンジ色の火花を吐き、暗闇の中にぽっと灯った。

 ユカリの顔が、火の光に照らされて揺れる。睫毛の影、頬の曲線、

口元の柔らかな線。すべてが綺麗で、見惚れてしまうほどだった。

 ユカリ「……今日、来てくれてよかった」

 タカシ「俺も」

 ユカリ「……タカシってさ、いつもはあんまり喋らないけど、なんか一緒にいると安心するんだ」

 少し俯いて、ユカリは火の玉を見つめた。線香花火がパチパチと音を立てて、

夜の静けさに溶けていく。

 ユカリ(私、こんなに安心するのって、なんでなんだろう)

 タカシ「進学かな。でも、どうなるかはまだ……」

 ユカリ「うん……そっか」

 心の奥で、言葉にならない何かが芽生えていた。

 タカシ(──好きだ)

 ただそれだけの言葉が、どうしても言えなかった。

 線香花火の火が、最後の一滴のように消えたとき、タカシの勇気も、そこに落ちてしまった気がした。

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