⑥マーシャ、そしてルーナの婚約

--コン、コン--


朝食を済ませるとすぐに、甥のウィリアムは侯爵のいる書斎を訪れた。


「叔父上、失礼します。」


書斎で椅子に座る侯爵だけを確認すると、



「なぜ叔父上はアレン様をルーナに会わせたのですか?

ヒューズ公爵に二人を会わせないように強く言われたではないですか。」





「ウィリアム、あまり大きな声で騒いでくれるな。頭が痛む。」



そういえば、叔父上の顔色はいつもより悪く、部屋の空気さえも濁っているような気がする。



「アレン様のルーナに対する執着には困ったものだな。


公爵にはウィリアムとルーナがいずれ結婚してもらうことは伝えてある。

そしてそのことも了承済みだ。」



「えっ?」


ウィリアムも驚きはしたが、叔父の考えは前からなんとなくわかっていた。


ただ、言葉にされたのは初めてだったが…


「公爵はルーナを昔からあまり良く思っていなかった。

だから、アレン様をルーナに会わせないことで諦めてもらうつもりだった。」



ウィリアムは今まで叔父と公爵が、二人を会わせないようにする本当の理由を知らなかった。




「だから、ウィリアムそろそろルーナと婚約してもらえないだろうか?


本来なら爵位を譲り、その時にお願いしようと思っていたのだが、予定より早くアレン様とルーナを会わせてしまったのでな。」




「叔父上、爵位を譲るとは?」


「そのままの意味だ。」


ウィリアムは動揺している。



爵位のことも、いずれルーナと結婚することもいつかはそうなることも、予想はついていた。




だけど、二人を会わせない理由がアレンのほうにあったとは…



俺は、反対にルーナにアレンのことを諦めさせる為に、会わせないようにしているんだと思っていた。



なぜかその事実を知って、衝撃を受ける。


そしてそのことに気付かなかったのはウィリアム、ただ一人だけだった…



「ウィリアム、ルーナをお願いできないか?」



「あの、叔父上。

二人が、想い合っているのであれば私ではなくアレン様と結婚させたほうがいいのでは?」





「なにを今さら言っている。

あんな公爵が身内にいたら、ルーナは幸せになれない。

友人としてはいい奴だと思っているが、ルーナをあいつの駒にするつもりはないよ。

だからウィリアム、よく考えて欲しい。」




ウィリアムは答えを出せずに、ただ頷くことしかできなかった。





---ミランダ公爵家---


四大貴族の中でも、より王家と繋がりが深く、政治的にも影響力のあるミランダ公爵。


その中でも、ミランダ家の長女マーシャは見目麗しく、高嶺の花と社交界でも有名な令嬢だ。


「お父様。

この縁談を受け入れろとはほんとうのことですの?」



縁談を申し込んだヒューズ家のアレンは、ほとんど社交界の夜会などには参加せず、ルーナ以外の令嬢とは話はおろか、目すら合わせない。


同じ公爵家なのもあって、小さな頃からなんどもお会いしたことはあるけれど、あの方はいつも侯爵家のルーナから離れなかった。



だから自分がアレンに結婚を申し込まれるなんて信じられない。



なにかの間違えではないの…

ルーシャは驚きを隠せない。



「政略結婚にはなるが、ヒューズ家ならば中立の立場であるし、アレン殿なら申し分ない。

マーシャ、家のためにも結婚してくれるか?」


マーシャは、未だに信じられない気持ちを落ち着かせる。


"政略結婚"ね…


その言葉を聞いて、マーシャは、アレン本人から結婚を申し込まれた訳ではないと気付く。



「はい、お父様。

それに私に拒否権はないのでしょ?」



公爵は頷くと、マーシャに微笑んだ。



「さすが、マーシャだ。

では、さっそくヒューズ公爵に、縁談を受けると返事を出せねばな。」

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