31話 星のように

「美味しい〜! ふわっふわ〜!」

 

 奈恋がオムライスを頬張っている。自分の作ったものを食べてもらう。それがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。奈恋は少食のようで、残りをラップで包んでいた。

 奈恋は「ごちそうさま」というと、部屋を出て、玄関に向かっていた。


「明日も、レッスンだよな」


「うん」


「体調、大丈夫?」


「……心配してくれるんだね」


「心配するだろ、いくらなんでも練習しすぎだって。今日だって何度も倒れて……」


「あれは私が体力ないだけだよ」


「なら、ちゃんと休まないと。デビューライブは一ヶ月後なんだから、今から全力でずっとやってたらどこかで限界が来る。いや……もう限界だろ。」


 奈恋の体にできたアザが痛々しく見える。メシだって食えてないんだから、限界のはずだ。奈恋は靴を履きながら、背中越しに返事をした。


「限界なんて、歩夢くんが決めないで」


 玄関をバタンと閉めて、奈恋は外に出て行った。俺は、たちすくんでしまったが、後を追うようにドアを開けた。そこにもう奈恋はいなかった。きっとレッスン場だろう。


「少し勇気を出して止めたら、これか」


 マンションの廊下から、夜空が輝きを放っていた。いつもは気にしない星たちが無性に輝いて見える。つい星に見入っていると、玄関の開く音が聞こえた。自分の部屋ではない、沙百合の部屋の音だった。


「そんな風情のある人には見えないのに、意外ね」


「印象通り、ただの気まぐれで悪かったな。沙百合も、追加の練習か?」


「……はぁ。『沙百合も』って言い方からするに、奈恋はまたやってるのね」


 呆れた顔で、俺の横にやってくる。もっと俺に対して嫌悪感を出されるかと思ったのに……梅香の言うとおり、意外と話したがり屋なのかもしれない。


「アイドルって思ったより練習するんだな」


「はぁ? 当たり前でしょう」


「なんていうか、SNSとかで見るアイドルって、もっとキラキラしてるっていうか。練習してる感じ、全然ないからさ」


「求められているからよ。そういった苦労のない、キラキラ感を」


 沙百合も、同じように星を眺めて呟く。その言葉は、どこか悟ったような感情がこもっていた。沙百合は言葉を続けた。


「アイドルは――星みたいに、輝き続けなくちゃいけない。私たちは星の過去の光を見ている。アイドルも過去の努力を燃やし続けなくちゃいけない。それこそ、人生の全てを燃やしてでもね」


 随分と詩的な表現だが、沙百合はプロとしては当然だと言わんばかりになんの迷いもなく言い切った。日頃からの意識は、こうして言葉に出るのかと考えさせられる。


「そういう意味では、奈恋の姿勢は感心するけど……ね」


 沙百合はどこか意味ありげに、言葉を呟いた。

 

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