第18話「本番三〇分前」

七月二十一日、午前九時三〇分。

 全国高校生映画コンクールの本戦会場――グランシネマホール控室。

 白を基調としたシンプルな空間に、出場校ごとのチームが静かに待機している。

 だが、智也のチームだけは、妙な緊張感に包まれていた。

 

 「……読まない。メインファイルが再生リストに入らない」

 和真の声は低かった。パソコンの画面には、「形式不一致」「ラベル名エラー」の表示。

 「いや、昨日の時点では動いてたよな?」

 智也が顔をしかめる。

 「USBのファイル名、再生端末の仕様に引っかかってる。想定より古いOSで、拡張子に日本語が混ざってるのが原因かもしれない」

 「あと30分だよ!?」

 

 そのとき、佑香がノートパソコンを開いた。

 「バックアップ、ある。USBとSDカードの両方に保存してある。しかも“無改名”でファイル構成そのまま」

 「神か……!」

 「ただし、SDカードはこのままだとホール機器に対応しない可能性がある。和真、ラベルを書き換えて」

 「了解。構成名、A001_sequence_finalに統一する」

 

 そのやり取りの横で、大輔がスタッフと時間調整を始めていた。

 「すみません、もし少しだけ順番が前後しても大丈夫であれば、設定時間に余裕のあるチームと調整できますか?」

 「5分ずらせます」

 「お願いします」

 

 和真が、再ラベル済みのSDカードを挿入しなおす。

 ――再生リストに、読み込み成功。

 「来た!」

 

 控室の空気が、ふっと軽くなる。

 その様子を見ていた一華がぽつりとつぶやく。

 「みんな、なんでこんな冷静なの?」

 「“冷静”に見えるだけ。たぶん、心臓バクバク」

 智也の言葉に、和真も小さく笑った。

 

 上映開始予定まで、残り20分。

 佑香がマウスを動かし、ファイルの最終チェックを終えた。

 「問題なし。映像・音声、秒数一致、エラーなし」

 「ありがとう。これで……あとは、映すだけ」

 

 控室の扉が開き、スタッフが声をかける。

 「チーム・桜丘高校、搬入お願いします」

 彼らの手には、重たい機材もなければ、再生ディスクもない。

 ただ、確信だけがあった。

 “このデータには、全員の努力が詰まっている”。

 

 スクリーンへ向かう廊下を歩きながら、誰もが一度、深く息を吐いた。

 それは、緊張を抜くためではない。

 “映像を、観てもらう覚悟”を持つための呼吸だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る