第17話「東京行き夜行バス」

 七月二十日、夜二十一時。

 チーム映研の面々は、集合場所である駅前ロータリーに集まっていた。

「忘れ物チェックよし、データ類バックアップ済み、再生機器は予備も持った」

 佑香が最終確認を済ませ、各自がチケットを手に握る。

 「じゃあ、いよいよ……だね」

 一華が小さく呟いた。

 皆の目に、少しだけ“旅”への緊張と、“挑戦”への昂りがにじむ。

 目的地は東京。

 全国高校生映画コンクールの本戦会場。

 夜行バスは定刻通りに滑り込み、八人は二列ずつ座席に分かれて乗り込んだ。

 

 だが、出発から二時間後――

 「……動いてない?」

 ふと目を覚ました晶子が、窓の外の“同じ風景”に気づく。

 道路上には赤色灯。前方で立ち往生した大型トラックの影。

 緊急アナウンスが車内に流れる。

 《この先、事故処理のため通行不能となっております。運行再開は未定です》

 「マジか……」

 和真がこめかみを押さえる。

 「これ、到着遅れる?」

 紗也香の不安がよぎる。

 

 そこで立ち上がったのは、大輔だった。

 「智也、タブレット貸して。地図アプリ、使わせて」

 「え? ああ……!」

 そのまま手早く現在位置を確認し、代替経路を模索する。

 「この先のSAにバスが寄れば、徒歩20分圏内にローカル線の駅がある。そこから在来線に乗り継げば、ギリ間に合う」

「そんな乗り換え、うまくいく?」

「大丈夫、途中で一度だけ乗換。時刻表も検索済み。唯一問題なのは――」

 「“バスを降りられるかどうか”だね」

 晶子がすっと運転手席へ向かう。

 運行管理者との通話を経て、安全確認が取れれば乗客の途中下車が可能となる条件を引き出し、すぐさまチームへ戻ってくる。

 「許可取れた。申請済み。列に並んで、徒歩移動準備」

 

 深夜、サービスエリアから続く真っ暗な農道を、懐中電灯を手にした八人が進む。

 「これも、映画みたいだね」

 遥が言うと、和真が笑う。

 「画になりそうだけど、今は勘弁」

 

 無人駅にたどり着いたのは、午前四時十八分。

 始発列車がホームに滑り込むとき、空はほんのりと白んでいた。

 揺られる車内。重たい機材。眠い目。

 でも、誰もが“遅れなかった”ことに、胸を張っていた。

 

 午前五時三十七分。

 東京駅、丸の内口。

 改札を抜けた瞬間、一華がつぶやいた。

 「……着いた。ほんとに、着いた」

 「奇跡じゃない。積んで、つないで、乗り換えただけ」

 大輔が肩のリュックを背負い直しながら言う。

 「これが、“映像を届ける”ってこと」

 

 夏の空の下、彼らの足音は、確かに東京の朝を踏みしめていた。

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