第15話「ライバルの影」

 七月八日、朝。

 スマホの通知音が、校門の前で立ち止まった智也の耳に不穏に響いた。

 《#偽装受賞》《#八百長高校映像部》

 「……は?」

 リンク先には、別の高校の映像部を名乗るアカウントがこう書いていた。

 《ローカルで審査員とコネあるらしい。自作自演乙。どうせ編集もプロにやらせてるくせにw》

 そこに貼られていたのは、彼らの“ロケ地協力者一覧”のスクリーンショットだった。

 老舗和菓子店の名も、町内会の名も、無断で晒されていた。

 

 「……拡散されてる。引用ツイートが50超えてる」

 紗也香が、顔をしかめながらスマホを覗き込む。

 「これ……名指しこそしてないけど、完全にうちのこと」

「しかも、和菓子店の件……善意で協力してくれたのに」

 一華が唇を噛む。

 

 視聴覚室では、すでにメンバーが集合していた。

 「反論するにしても、“感情的”になったら負ける。論理と記録で、事実だけを並べるべき」

 真生が端末を操作しながら言う。

「まず、協賛先に謝罪。内容を共有し、拡散されていることと対処を伝える。こちらから先に連絡を入れる」

「了解、私が行く」

 晶子がすぐに立ち上がる。

 

 「じゃあ、俺はログを整理する」

 真生がPCを開き、SNSの魚拓とタイムスタンプを取得し始めた。

 「発信時間、IPホスト、元投稿者の過去発言。どうせ捨て垢だけど、文体で所属校を特定できるかもしれない」

「……なんでそんなに冷静でいられるの」

 大輔が感嘆したようにつぶやく。

「冷静じゃないよ。“怒り”をエネルギーに変えてるだけ」

 

 一方、紗也香は手帳を開いた。

「私は“信頼ネットワーク”を動かす。演劇部、文芸部、書道部、あと去年一緒に文化祭やった他校の知り合いにも共有する」

「それって何を?」

「“事実の発信”。この映像が、誰の力で、どういう風に作られたのか。“完成試写の裏側”をSNSで少しずつ紹介するの」

「“対抗投稿”ってこと?」

「ううん、“共感投稿”。誹謗中傷に対抗するんじゃなくて、味方を可視化する。『見て、こんなに応援してくれてる人がいるよ』っていう空気を作る」

 

 午後には、Twitterにハッシュタグ《#8人で作った本当の映画》が浮上した。

 佑香の作った“裏側記録の一枚絵”が拡散され、和菓子店の店主の投稿がリツイートされた。

 《うちの団子、全部高校生が自腹で買ってくれたんですよ。かわいい子たちでした。いい映画が撮れるといいな》

 この投稿に、静かに反応が集まる。

 演劇部の子が、「この子たちがんばってたよー」と言い、文芸部の後輩が「脚本手伝ったとき、夜まで図書室に残ってた」とリプを飛ばす。

 いつのまにか、否定の声は消えていた。

 

 夕方。

 真生が画面を閉じながら言う。

「“悪意”は数じゃない。“信頼”は、数に乗ったときに力を持つ」

 紗也香が隣で微笑んだ。

「戦ってない。私たち、“つないだ”だけだよ」

 

 静かな嵐が去ったあと、チームの絆は、ほんの少しだけ、音を立てて深くなった。

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