【第十六話】破滅の予感
「
「……何だ? そんなにマズイのか?」
「状況にも依るんだけど、騎士団の中でも精鋭揃いと名高い天啓騎士団が常に側にいる筈なんだ。そんな巫女を
『そうだ。陽が落ちるので、天啓騎士の護衛を付けて神殿に帰したのだが、その道中に
「ロイド? 大丈夫? 顔色まで青いし、頭のソレも何かシオシオだし……」
ルクスが心配する程、ロイドの顔面のディスプレイは蒼白状態の表示になっていた。
更に頭部の光の帯も普段の雷の様な元気さが無く、勢いの弱い蛇口の水の様にシオシオになっていた。
「……大丈夫です。それよりも、シルビアを、
今すぐにも駆けて帰りそうなロイドをひっ掴んでロゼが目線を合わせる。
「……まずは落ち着け、ロイド。教授も言っていたが、まずは引き継ぎをする必要がある。急ぐなら手を抜いていい訳じゃあない」
それは、冒険者としての誠実な言葉であった。
現地騎士団への引き継ぎは、残存勢力があった時への保険であり、非戦闘員の生命を守る命綱である。
これを疎かにして損害が出る事は、冒険者としては容認できる物では無いのだ。
「……了解です」
「ロイドくん……」
『……
「了解!」
◆◆◆ ◆◆◆
現場の騎士団に引き継いだ後、ロイド達はワイズマンの教員室へ転送された。
時刻は深夜になっていた。
「よし、全員揃ったな」
全員小さく頷いたのを
「ここからはシルビア嬢の救出作戦を開始する。向こうからの要求がついさっき届いた。ロイド一人に希少鉱石をコンテナ一杯にした物をシーウィード海岸埠頭に運ぶ様にとの事だ。何か嫌な予感がするので、諸々の手順をすっ飛ばして
一回の依頼で十万
「勿論。教授にはいつもお世話になってるからね」
「……問題ない」
「ロイドに恩返し出来るし、報酬も出るし、こっちも問題無し!」
「助かる。詳細な作戦内容を話そう。まずはプランA。現在、作戦領域は既に転送封鎖されている。範囲外ギリギリに転送するので、隠密行動を取りつつ、シルビア嬢の確保を図ってくれ。確保が失敗した場合はプランBに移行する。守備良くシルビア嬢を確保出来たらバースト転送で脱出を図る。失敗した場合はプランCに移行する。以上がプランAだ。
プランBは作戦領域に潜伏し、ロイドの支援を図って欲しい。支援のタイミングはこちらの指示で頼む。この場合、ロイドが救助するのを補助する形となるだろう。以上がプランB。
プランCは直接戦闘が予測される。なるべく戦闘は避けて貰いたいが、判断は君達に任せる。作戦領域から出た時点で転送し脱出を図る。以上がプランCだ。何か質問は?」
「転送封鎖されてるんだったら転送出来ないんじゃあないの?」
ルクスが元気よく質問した。
ワイズマンは小さく頷いて答える。
「バースト方式で強引に貫通させる事で、転送自体は可能なのだ。しかし、転送の際に簡単に探知されてしまうので、脱出のみの使用に止めている感じだな」
「シルビア嬢の位置は私達が探る方向になるのかな?」
今度はクエスが質問する。
「……シルビア嬢の持ち物から探知する手段がある。後程渡す
続けてロゼが質問した。
「……プランCの詳細をもう少し詰めたい。普通に徒歩で脱出するしかなのか? 支援は受けられないのか?」
「騎乗出来るなら機動用の
「では
小さくロゼが呟く。
ロイドがノイドと戦っていた場面を見ていたルクスは疑問に思った。
「? ロイドの方が強い様に見えたけど? ノイドってそんなに強いのかい?」
「……ここからは部外秘になるのだが、分析した結果、ノイドの攻撃力はロイドの外装であるオリハリウム合金を突破しうる熱量を持っている事が発覚した。……元々はそんな攻撃力を持たなかった筈なのだが……。つまり、下手な接近戦はロイドの死を意味する。属性の相性に関しても、何らかの解決策を施される可能性もあり、油断する事は出来ないのだ」
クエスを救出した際、風属性だったロイドは、フォームを切り替える隙をクエスに守られたから逆転できたのだが、一人で戦うのには危険が伴うだろう。
そういう意味でも、油断は出来ないのであった。
「……そうなると、シルビア嬢を救出後も支援した方がいいか?」
ロゼはシルビアを助け次第、ロイドに助太刀する案を提案する。
「いえ。私よりもシルビアの救出を優先してください! お願いします!」
「……だ、そうだ。作戦終了後に再度転送するなら問題ないだろう。君達には苦労をかけるが、いいか?」
強く主張するロイドにワイズマンは苦笑しながら優しい目でクエス達を見た。
「問題ないよ。それで行こう」
「……追加料金はいいのか?」
「これ位はロハでいいじゃん! さ、行こうよ!」
クエス達は小さく頷いて拳を合わせた。
◆◆◆ ◆◆◆
「……ここは?」
シルビアは酷く殺風景な石の部屋に設られた質素なベッドの上で目覚めた。
そして、自分が
一瞬パニックになるが、脱出する為に、一先ず冷静に観察する事にした。
辺りは
入り口と思しき扉は、鉄の様な金属製であり、頑丈そうだった。
のぞき窓らしき物があるが、閉じている上に位置が高い。
後は便器がある位か。
恐らく外のトイレに連れて行く際に逃げられない為だろう。
便器は水洗で径が小さく、シルビアの体型でも潜り込むのは無理そうだった。
もっとも、潜り込みたいとは思わなかったが……。
窓は高い位置にあり、とてもではないが届かない。
更にはめ殺しになっている様で、開けて脱出とは行かなそうだった。
故に脱出は困難な様に感じた。
次に身につけている物。
道具や魔法の起点になりそうな物は無く、今自分に出来る事以上は何も出来そうに無かった。
唯一使えるマナ通信も、何かに妨害されていて不通だった。
さて、どうするか? と考えを巡らせていた所に声がかけられる。
「お、目覚めたみたいだな。……コモン伯爵が貴様に用があるらしい。大人しく待っているんだな」
見張りらしき男が扉の小窓から一方的に話かけると、再び小窓がガシャンと閉めた。
そして、足音が遠のいていく。
コモン伯爵……。
確かロイドのプロトタイプ、ノイドを奪った男……。
一体何者なのかは興味があるが、脱出を優先した方がいいだろう。
次に扉が開く時がチャンスだ。
扉の死角に潜み、入れ替わりに脱出を図る。
足音が近付いて来た。
シルビアは緊張しながらチャンスを待ち構える。
のぞき窓が開く音がした。
相手は少なからず焦る筈だ。
そして、扉を開けた瞬間に滑り込む!
だが、次の瞬間現れたノイドに捕まってしまう。
一拍置いて、白髪の老人が現れた。
枯れ木や
髭も長く伸びており、錬金術師というより邪悪な魔法使いといった印象だった。
「ふははは、バカめ!
「……シルビアですわ」
「ふむ、ではシルビア殿に伺おう。何、簡単な話だ。ロイドの構成金属、その秘密を全てを教えてくれ給え。そうすればお前の大事な
「……教えれば、ロイドは助けて貰えるのかしら?」
「ふーむ、それは貴様の態度次第だな」
シルビアは何度も見てきた嘘をつく人間特有の言い回しをしていると直感した。
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