【第九話】四つ目の魔石

「奴の巣はこの先の横穴だ。、な。巣の規模から推定されるサイズは体長三十メートルはありそうな感じだ。あるいはもっと小さなつがいの可能性もある。十分注意してくれ」


「その感じだと目撃情報は無い感じなのかい?」


「見た奴は消す主義らしい。相当頭が切れる奴か、あるいは相当な腹ペコ野郎だな……。着いたぞ」


 カルデラの壁面にポッカリと穴が空いていた。

中は存外広く、確かに全長三十メートルの魔獣が潜んでいても不思議ではなかった。

 慎重に中に歩みを進める一行だったが、何とも遭遇する事はなく、奥まで到達する。


「よし、一緒にここで待機してくれ。巣の内部で隠蔽いんぺい魔法を使用して不意打ちを仕掛けて倒す。つがいだった場合、申し訳ないが片方に魔法での足止めを頼む」


 そう言うと、ロイドは亜空間収納ストレージから一本の巻物スクロールを取り出す。


「了解した。お互い全力を尽くそう」



◆◆◆ ◆◆◆


 ロイドの巻物スクロールの効果で完全に五感で捉えられる痕跡を隠蔽した一行が待機していた。

すると、三十分もしない内に凄まじい羽ばたき音が響いた。

 ロイド達に緊張が走る。

隠蔽いんぺい魔法が見破られる可能性がゼロではないからだ。

 のそり、と巣に巨大な炎竜、ドラゴンが姿を現した。

巣に何か軽い違和感を感じたのか、周囲を嗅ぎ回るドラゴン。

しかし、気のせいと判断し、巣にゆっくりとうずくまった。


「思っていた通りの大きさだな。これだとつがいの線は無い、か?」


 ジャックが状況を分析する。

確かにつがいがいるにしては手狭に見える。

 しかし、チャーリーがドラゴンを観察する内に顔が青ざめて叫ぶ。


「……マズイな。こいつは雌だ! 産卵する気かも!」


「……妙に食い意地が張っているのはそういう事か!」


 キムが顔をしかめる。

ロイドは小さく頷くと、拳を握った。


「ここで決着をつけないと被害が広がる……行くぞ!」


 隠蔽いんぺい魔法の範囲から飛び出した瞬間にロイドの存在にドラゴンが気がつくが、完全に遅かった。


「サンダークラッカー行使!」


 ロイドが腕を横に振ると同時に無数の雷球が発生し、直進すると分裂、拡散して上空へと広がってゆく。

対空に特化した新しい技だ。

初動が遅れたドラゴンは回避する事も出来ず、雷撃に晒された。

 分厚い鱗に覆われた胴体はダメージを受けながらも原型を保っていたが、比較的組織の薄い飛膜ひまくは焼き切る事に成功する。

本来、電撃は火属性に含まれている為、ドラゴンに対して効果が薄い。

しかし、ロイドの常識外れの威力によって強引にダメージを出したのだった。

 飛行による離脱や上空からの攻撃を防いだ事で、作戦は第二段階へと移る。

一気に間合いを詰めたロイドは拳を合わせた。


「ライトニングフラッシャー行使!」


 ライトニングフラッシャーはロイドを中心に球状の効果範囲を持ち、ロックオンした対象に大ダメージを与える技である。

火属性のドラゴンにダメージはそれほど無いが、圧倒的な光量で目がくらむ。

 その隙に、ロイドは自身のかんむりを外し、腹の前の宝珠からサファイアリングを取り出す。

かんむりを取り替え、元のかんむり亜空間収納ストレージに仕舞い込む。

サファイアリングから水の帽子が伸び、全身が深い青に色が変わった。

亜空間収納ストレージからウォーターランスを引き抜いた所で、視界が戻ったドラゴンが襲いかかる。


 ギャリィッ!


 恐ろしく鋭く、早い鉤爪かぎづめによる斬撃をウォーターランスの穂先で受け流し、ドラゴンの側面に回り込むロイド。

受け流しの回転を利用した切り返しで斬撃を横腹に入れる。

水属性の魔力を纏ったウォーターランスは容易にドラゴンのうろこを切り裂いた。


「ウォーターカッター行使!」


 続け様にウォーターランスを突き込み、体内に向かってウォーターカッターを放つ。

凄まじい圧力で発せられた水流で体組織は切り裂かれ、高温の内臓は凄まじい温度差に晒される事で重篤なダメージを受けるのだった。

 苦し紛れにドラゴンは炎の吐息フレアブレスを自爆気味に放つが、高速で回転させたウォーターランスの魔力に阻まれ、ロイドにダメージを与える事は出来なかった。


「ガアアアアアアァッ!!」


 最後の手段とばかりにロイドを丸呑みしようと噛みついてくるドラゴン。

しかし、ロイドを噛み砕く事も、飲み下す事も出来なかった。

急に最大重量になったロイドを口腔に入れてしまった事で頭が地面に叩き付けられる。

 加えて口腔内から上顎うわあごを右腕で突き上げ、強引に口を開けられてしまう。

そして、左手に持ったウォーターランスを喉奥に向け突きだし、ダメ押しとばかりにウォーターカッターを放つ。

 喉奥を貫通して首の脊椎を撃ち抜いた事で完全にドラゴンは沈黙するのだった。


「やった……のかしら?」


 ジーンが慎重に魔法を準備しながら様子をうかがう。


「ロイド! 無事か!」


 ドラゴンの動きが完全に止まった事を確認すると、ロイが声をかける。


「無事だよ。ちょっと待ってくれ。今出るよ」


 ロイドはそう声を張ると、口腔から這い出してきた。

そのて手には深い血のような赤をした魔石の原石が握られていた。

 こうして予言の魔石が揃うのだった。

 ロイドの無事を確認すると、アーサー達が集まってきた。


「無事だったか! 全く、驚かせやがって!」


 アーサーがロイドを口腔内から引き上げる。

ドラゴンの血を浴びたロイドはむせかえる様な血の匂いを纏っていた。


「しっかし、酷い血の匂いだ。ジーン、汚れ落としクリーンクリーンをかけてやってくれないか?」


 ロイ願いを受けてジーンが汚れ落としクリーンクリーンをかけると、ロイドとアーサーについた血が綺麗に落ちるのだった。


「思ったよりあっさり片付いたね。特A級はこんなに凄いもんなのか……」


 キムが感心したようにつぶやく。


「特A級は数える程しか居ない筈だからね。そうでなくとも、水属性との相性が良い印象だった。でもおかしいな? 彼は雷を操る火属性だった筈。動力源となる魔法との兼ね合いで人形ゴーレムは一つの属性しか持ち合わせないと聞いていたんだが……」


 ジャックはひとしきり解説を入れると、興味深そうにロイドを覗き込んだ。


「私は副回路セカンダリサーキットを換装可能なんですよ。それで属性が切り替わるんです」


「そんな簡単なもんかねぇ。まぁ、あんたが味方で良かったよ」


「で、これからどうする? 一応つがいや群れの可能性もある関係上、多少張り込む必要があると思うんだが」


 アーサーがロイドにこれからの事を確認する。

ロイドはしばらくワイズマンとマナ通信をしてから答えた。


「……A級騎士団が現着するまで待機して、引き継ぎ次第帰ります。後は必要に応じて転送する算段になっています」


「了解した。短い間かもしれんがよろしく頼む」


「そしたら、どうします?」


 チャーリーがドラゴンの死体を小突いてみせる。

ロイはドラゴンを見上げて渋い顔をする。


「解体するにしても量が多い。防腐魔法エンバーミングかけないと腐っちまうな……」


「死体なら亜空間収納ストレージに仕舞えます。そちらが必要な部位を持って行って頂いて、残りは仕舞ってしまいましょう」


 ロイドはそういって魔石を亜空間収納ストレージに仕舞い込んだ。


「そりゃあ有難い。どうです? 今晩はドラゴンステーキにするとか」


 チャーリーがおどけて提案する。


「あ、私も頂きます」


 ロイドはその提案に乗って、御相伴ごしょうばんに預かろうとする。

ロイド以外の一同は同じことを考えていた。


((食べれるんだ……))


◆◆◆ ◆◆◆


 無事引き継ぎを行なったロイドは、転送で戻ってきた。

ドラゴンステーキをお土産にして。

 幸い、二匹目のドラゴンは見つかる事は無かった。

シルビア以外の天啓巫女による天啓により、ドラゴンはもう居ないと確証が得られたのだ。

 戻ってきたロイドとワイズマンはドラゴンステーキを胃の中に放り込むと、早速研究室へと向かった。


「それで、最後の魔石はやはり火属性ですか?」


「ああ。今回のルビーリングは火属性の魔導回路だな。装備するとファイアスタイルに変わる。副回路セカンダリサーキットが火属性に切り替わる関係上、属性による影響も火属性の特性に準拠する物に変化するぞ。風属性に強く、水属性に弱いといった具合だな。術式が単純な分、火力と燃費に優れる攻撃的なスタイルだ」


 恒例になった武器ロッカーから、ワイズマンが四角い剣の様な物を取り出し、ロイドに手渡した。


「そして追加武装はファイアブレード、火属性の両刃もろはの剣だ。四角く重いが非常に頑丈で側面は盾にも出来る。実は刃が無い為、切断能力は皆無だが、炎を纏わせる事で対象を溶断するぞ。電気も火属性に含む関係上、スパークスタイルでも使用できるが、その場合攻撃力は劣る。十分注意してくれ」


 ロイドは頷くと、ルビーリングとファイアブレードを亜空間収納ストレージに仕舞い込んだ。


「これで魔石が四つ揃いましたね……」


「ああ。鬼が出るか蛇が出るか……。未来神の御告げがどんなものか、見せて貰うかね」

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