第18話 懺悔
朝日が昇り、ゴーストタウンが煌々と輝いていた。そんな日の光を浴びながら、白猫と黒狐、《恋人》がベンチに座っている。白猫の必死の探索のおかげで黒狐は一命を取り留めて助かった。
「いつからでしょう。罪を犯すのに慣れてしまったのは」
《恋人》は俯いたまま懺悔するかのようにポツポツと語り出す。白猫と黒狐は黙って聞いていた。
「最初は彼らの勧誘も断っていました。私も法を犯してまで生きたいと思っていません。ですが、孤児院が困窮していく度にふと思ってしまうんです。少しくらいなら、と」
彼女は手を握り締めて自分の中に潜む悪魔に負けたのを悔しそうにした。
「悪い事をしてるって自覚はありました。けれど、孤児の為と自分に言い聞かせて悪事から目を逸らしていました。何より、彼らの支払いは良かったんです。だから、孤児の皆が幸せな未来に進めるなら、そう思っていました」
「ああ、通りで」
孤児院と言われた割に子供の身なりもよく、元気だった。それは空元気からではなく、《恋人》からしっかりとした生活を施されていたからなのだと知る。
「いつだったか。
「その変な力を手にした?」
白猫が遮って言うと彼女はコクリと頷く。
「何となく思ってたけどね。あなた達の使うそれは私達のとよく似てる。憶測だけど、その変異版って感じか」
「あれからも研究してるなんて暇な人間。死ねばいいのに」
白猫と黒狐は特に感慨もなさそうに言った。《恋人》はベンチから崩れるように地面に落ちて両膝をついた。
「本当に申し訳ありません。私は自分を優先させる愚かな女です。聖女でも何でもありません。ただの魔女です」
《恋人》はただ頭だけを下げて謝罪する。彼女も口だけの謝罪に意味がないと知ってか顔を上げる様子がなかった。そんな彼女を見て白猫と黒狐は顔を見合わせて頷く。
「顔をあげてよ、聖女さん。確かに急に色々あって混乱もしたけど、でも最後には助けてくれたでしょ? わたしね、あなたはどうしても敵だって思えなかった」
「あんたが本当にあっちの人間なら私達に孤児の実情とか教える必要ないしな」
「そうだね。お姉ちゃんは適当に餌付けされたらホイホイ信じるし」
「なんだと? お前も餌付けされたじゃないか」
そんな姉妹のやりとりはいつもの日常だった。2人も肩の荷がようやく降りたのである。
それでも、《恋人》は顔を上げなかった。彼女にとって今まで犯した罪は1つや2つでない。
時には酷いこともしたのかもしれない。黒狐が彼女の肩を叩いた。
「私も大勢の人間殺してるし、あんまり言えた口じゃないけどさ。でも、それでいいんじゃない? 人生なんて味方の方が少ないし、周りは敵だらけだ。私は妹しかまともな味方いないけど、あなたには一杯味方がいるじゃない」
今まで大切に育ててきた孤児。彼らは例え彼女が犯した罪を知っても味方でいる、黒狐はそう確信していた。
「わたしはもう聖女さんを味方だと思ってるよ。例え身勝手な人間があなたを好き勝手酷評したとしても味方だよ。だって、聖女さん凄く優しいし、気が利くし。聖女さんは違うの?」
はみ出し者だからこそ出る2人の言葉は彼女の心を掴み取る。ずっと誰にも言えなかった。
言ったらきっと批判されて一生人前を歩けないと思っていた。
聖女は地面にポロポロと涙を零す。
「救われたのは私の方でした。いつか、この罪を償う日が来るでしょう。あの子達が巣立つまで、私はもう少し生きてみようと思います」
その返事を聞けただけで2人は満足だった。
「でもさ、問題はこれからじゃない? わたし達が狙われるのはいいけど、聖女さんも危なそうだし」
彼女は組織を裏切るという行為をした。今後、刺客に怯えて生きなければならない。
白猫と黒狐も彼女を守ってあげたいが、2人の性格上1つの場所には留まれない。
かといって《恋人》を旅に同伴させれば孤児院の子供を放っておくことになる。
「それなんだが、名案がある」
「へぇ。嫌な予感しかないね」
「流石は妹、勘がいいな。ねぇ、聖女さん。あなたも幹部の1人なら組織の建物を知ってるよね?」
突飛な黒狐の言葉に彼女は「は、はい」と返事をした。
「じゃあさ、私達をそこに案内してくれない?」
それには彼女も口を開けて放心してしまう。
「あー、別に殴りこみとかそういうのしないから。最悪はなるかもしれないけど。とりあえず、トップの人間に交渉するの。あなたの自由をね」
「どうしてそこまで……」
本来、このまま別れてお互いの人生を生きるのが普通だ。その後、どちらかに何があっても文句を言える筋はない。そういう風に生きてきたから。
おまけに《恋人》は裏切りという汚名もしたので余計に分からなかった。
「言ったでしょ。借りが4つもあるから1つくらい返さないとだから」
「そういうことだ。それに、ここまで馬鹿にされたからトップの顔を拝んでやろうと思ってね。最悪ぶっ殺す」
「寧ろそっちが目的じゃない?」
「バレたか」
暢気な2人を他所に今度は《恋人》の肩が震えている。
「お気遣いだけで十分です。ですから、《審判》に逆らうのはお止めください。あの方を敵に回してはいけません」
何が彼女をそうさせるのか、2人には分からない。少なくとも今の彼女を縛っている原因の1つというのは分かった。
「安心して。知っての通りわたし達は死なないから」
「で、ですが……」
「いつかは通る道なんだ。このままグダグダ変人と戦うくらいならトップとやり合った方が早い」
2人の意思は固い。《恋人》は迷ったがどの道自分自身も狙われる立場である。今更何を選択した所で作り過ぎた敵はなくならない。ならば僅かな望みに託す他ない。
「……分かりました。私に残された時間はそう多くないでしょう。私の命、あなた方に預けます」
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