第4話 『いいね』強盗
翌日、若林は職場に退職届を提出した。
これから3億円という大金が手に入るというのに、退屈な仕事で時間を浪費するのが馬鹿馬鹿しくなったからだ。
そして、最後の出社日の仕事を終えると、ウキウキで帰路についた。
しかし、人通りの少ない路地を歩いていた時だった。
ガン、という衝撃が後頭部を襲った。鋭い痛みが頭に走り、若林は倒れ込んだ。
「うう……」
痛みでうめきながらも後ろを振り返ると、そこにはバットを持った覆面姿の男がいた。
男は、地面に倒れた若林に近づくと、ポケットから無理やりスマホを奪い取った。
「ど、泥棒……」
そう言って若林は意識を失った。
……次に彼が目を覚ましたのは、病院のベッドであった。
「こ、ここは……?」
「あ、起きましたか若林さん。頭の痛みは大丈夫ですか?」
「えっと、ここはどこでしょうか……?」
「病院ですよ。あなたは外で倒れてて、通報を受けてここに運ばれたんです」
「そ、そうだったんですね……。ところでどうして僕の名前を?」
「誠に勝手ながら、財布に入っていた運転免許証から……」
「ああ、そうなんですか。……!」
そこまで言って、若林はふと、盗まれたのがスマホだけであることに気づいた。
そして、犯人の狙いが何だったのか思い当たった。
「マズい! 俺の『いいね』が……!」
「『いいね』がどうかしたんですか?」
「『いいね』が、盗まれたかもしれないんです!!」
若林は看護師の襟につかみかかって叫んだ。
そして、まだ安静にしているべきという看護師の言葉を無視して、強引に退院し、家に戻った。
家に戻った彼は、急いでパソコンを起動し、SNSにログインした。
そして、エッセイ漫画の投稿を確認した。
「や、やられた……! 俺の『いいね』が!」
投稿を見て、若林は愕然とした。
10万あったはずの『いいね』が、0になっていたのである。
彼は、『いいね』強盗の被害に遭ったのだ。
「クソ! せっかく10万『いいね』あったのに……!」
若林は叫んだ。髪をかきむしり、部屋の中で暴れ回った。目についた高価でないものを投げ飛ばしたり床に叩きつけたりした。
「あーあ……、仕事も辞めちまったし、どうしようか……」
若林は途方に暮れた。仕事もやめてしまい、持っていた『いいね』もすべて奪われた。
その時、SNSに新たな通知が来た。どうせまた過去の投稿に『いいね』が付いたのだろうと思ったら、以前に投稿したアパートからの景色の写真に、コメントが付いたのだ。内容はこうだった。
「あの、あんまりこういう写真アップしない方がいいですよ……!
風景から住んでる場所特定する奴らもいますから」
それは、いわゆる「住所バレ」を心配するコメントだった。
「……そうか、そういうことだったのか」
若林は風景の写真から自分の住所と個人が特定され、それで強盗に襲われたのだと気づいた。
「今さら注意されても遅いんだよ……チクショウ……」
若林はすべてが嫌になり、布団に寝っ転がった。
しかし、しばらく呆然としていると、ある妙案が思い浮かんだ。
「……そうだ! これならいけるかも!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます