第6話 雪山

 この雪山、かなり危険だ。次から次へとシロクマが襲ってくる。足元は雪で不安定、休むためには階段まで戻らないと休めない。

 死体は袋に入れていたが袋に限界が来たようで少し前に入らなくなってしまった。

 死体を放置していたせいでさらに仲間のシロクマが現れる。

 シロクマと戦い続けては休んで、戦っては休んでを繰り返して数日が過ぎていた。


「……」


 今日は油断して横腹を引っ掻かれて酷い怪我を負ってしまった。《危険察知》があったのにこんなことになるなんて疲労がかなり溜まっているのだろう。

 今は階段付近で休んで怪我が治るのを待っている。


「ふへへ……」


 酷い怪我なのに気持ちよくなっていると不思議な気分になる。それでも自分を傷つける事はない。そんな気分にはならない。

 ってそんなこと考えている場合じゃなかった。


「何か打開策を考えないと……」


 シロクマの動きはオオカミやバッタと比べるとすごく遅い。しかし力と耐久力が桁違いに高い。

 初めて倒した時は目を潰して無防備な所をぶっ叩いたから一撃だった。しかしシロクマは頭が良いようで普通の状態なら私の攻撃を上手く受け流して最小のダメージに抑えようとしてくる。


夜桜 葵 Lv49

*Lv40突破によりスキル選択可能


生命力 A 魔力 G

筋力 C 防御 F

体力 B 俊敏 D


スキル: 《夜目》《痛覚快感》《強胃袋》《遠目》《着火》《直感》《投擲》《水魔法Ⅰ》《限界突破》《危険察知》


称号:【初ステータス獲得者】【狂人】【危機を脱した者】【初Lv10突破者】【初Lv20突破者】【殺戮者】【初Lv30突破者】【初Lv40突破者】【天使に好かれた者】【覚醒者】


 やはり何かスキルを取った方が良いのかな?


「でもこんな状況を打開出来るスキルなんて……」


 ずらーっと大量のスキルがある中に一つ気になるスキルがあった。


《疲労快感》


「……私はそんな趣味ないって言ってるんだけどなぁ」


《痛覚快感》と同じ雰囲気を感じるスキル、恐らく疲れを快感に変えるスキルだろう。

 そして今まで気にしていなかった称号の方のスキル――


【狂人】……正気ではない行動をした人が貰える称号。この称号を持つ者は快感を感じれば感じるほど五感が鋭くなりステータスが上昇する。


 まあ、要するに傷つき疲れるほど強くなるってやつね。


「はぁ、仕方ない……強くなる為だ」


 私は《疲労快感》を取って横腹の怪我が治るのを待った。

 そして準備が出来た私は雪山へと向かった――














「あははっ!どんどん来なよ」


 シロクマを叩いて叩いて叩き潰す。真っ白だった雪山が私の周りだけシロクマや自身の血で赤く染まっている。

 痛い、疲れた、でも高揚とした気分で最高に楽しい。身体が熱い気がする……いや実際、身体中にシロクマから受けた傷があるから当然か。


「……あれ?」


 気づいた時にはもう生きているシロクマはいなかった。意外とあっけない最後だったな。たった一つのスキルを取っただけなのに。


「ふー……」


 この死体の山……どうしよう。雪山だし腐るのは遅いと思うけど放置していたらとんでも無いことになるし。


「あっ!」


 都合が良い事に真っ白な箱が雪の中にあるのを見つけてしまった。


「どうせ天使か知らないけど見てるんでしょ?大きな袋お願いします」


 一応、お願いをしてから真っ白な箱を開けてみる。

 中には可愛らしい髪飾り……そして髪飾りに負けず劣らず可愛らしい袋。


「感謝はしておこう」


 この袋は絶対に魔法の袋だ。なんかやけに可愛い感じの袋だけど。


 天使の髪飾り……天使の羽を模した可愛らしい髪飾り。破損しても自動で修復し、汚れず、身体に合わせて大きさが変わる。また、装備者の魔力を高めて回復速度も上がる。


 天使の魔法袋……とても可愛らしい異空間魔法が仕込まれた袋。中身は全く重さを感じずどれほどの容量かは未知数。袋内は時間も停止する。


 新しい袋を腰に装着して古いやつは新しいやつの中に入れおこう。あと髪飾りもしっかり装備しておいた。


「宝箱を見つけてシロクマも見当たらない」


 この雪山でやるべき事はもうないね。でも階段が見つからない。探すしかないか。


「あ、れ……?」


 歩いて探していたら急に力が入らなくなってバタリと雪の中に倒れてしまった。身体が鉛のように重い。


「うぅ……冷たい」


 うつ伏せで雪に突っ込んだの凄く冷たい、しかし身体は動かない。

 血を失いすぎたのか疲労が限界だったのか、原因は沢山あるだろう。

 何をやっても身体は動かないので雪の中でそのまま休憩する事にした。


「このまま寝たら死ぬかな?」


 雪は冷たい、でも服のおかげでただ冷たい程度でずっと触っていても大丈夫だ。


「うぐぐ……」


 少し休憩したおかげで体力が回復したからかうつ伏せから仰向けになる事が出来た。

 これでステータスを見て暇を潰すことができる。というかそれしかやる事ない。シロクマいっぱい倒したし何かスキルを手に入れているかもしれない。


夜桜 葵 Lv51


生命力 S 魔力 G

筋力 B 防御 E

体力 A 俊敏 C


スキル: 《夜目》《痛覚快感》《強胃袋》《遠目》《着火》《直感》《投擲》《水魔法Ⅰ》《限界突破》《気配察知》《危険快感》


ユニークスキル:《狂乱の炎上天使》


称号:【初ステータス獲得者】【狂人】【危機を脱した者】【初Lv10突破者】【初Lv20突破者】【殺戮者】【初Lv30突破者】【初Lv40突破者】【天使に好かれた者】【覚醒者】【初Lv50突破者】


 なんか変なスキルがある。ユニークスキル……?


《狂乱の炎上天使》……遥か昔、炎の天使が怒り狂い暴走し全てを焼き尽くした姿。使用者は全てを焼き尽くす炎に包まれ、圧倒的な力を手に入れる。しかし代償は大きい。


「怖っ」


 説明を見ただけでやばそうなスキルだと分かる。でもちょっと興味深い。

 どうせ身体動かないし使ってみようかな?よし使っちゃお。


「《狂乱の炎上天使》」


 ジュッ


 スキルを使った瞬間、全身が焼けるように熱く……って燃えてる!痛い痛い――あ、気持ちよくなってきた。


「解除!」


 私がそう叫ぶとすぐに全身を焼き尽くそうとしていた炎が収まる。

 冷たくて気持ちよかった周りの雪も溶けてベトベトになってしまった。

 服などの持ち物は無事だがすぐにスキルを解除したのにも関わらず全身の皮膚という皮膚が爛れてみるも無惨な姿になっている。


「最悪……」


 興味本位なんかで使うスキルじゃなかった。全てを焼き尽くすって私の身体もかよ。代償ってそういうことね。

 服がじわじわと火傷を治しているがこれでは治るまでいつまでかかるのやら……。


「もういいや、寝よ」


 私は諦めて寝る事にした。

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