二代目灰皿と泥棒猫

 今朝の食卓は、前日から自宅にあった串だんご(粒あん)と、今朝作ったばかりのカルピスだ。黒い皿に載った団子の、ねっとりとした餡の甘さが、舌の奥に粘着質な満足感を残す。


 ​今朝は新たなファミリーが出来た。


 ​可愛らしい小動物である。あとで紹介しよう。


 ​彼が今朝パソコンの画面で見ていたのは、他でもない、彼自身が制作してYouTubeに上げた動画だった。BGMには、お気に入りのアニメソング**『キャッツ・アイ』**を流していた。軽快なシンセサイザーのリズムと、都会的なコーラスが部屋に響く。


 ​というか。あの泥棒猫のテーマ曲の動画を見ていた時に、まさか目の前に奴が現れるとか――。


​「何の偶然だよ」


 ​思わず声を上げて笑った。神様からのブラックジョークだ。新しいファミリーの誕生は、俺の生活に対する、予測不可能な「生」の肯定のように感じられた。


​「キャットフードでも買ってくるか」男は口角を上げて語る。


 ​愛車用の灰皿になっていたセブンカフェの紙コップ。コイツは役目を終え、TULLY'S COFFEEのボトル缶が新たな愛車用の灰皿になった。2代目灰皿は蓋付きである。**生活の小さなストレスを、一つずつ解消していく。**それが、この混沌とした日常を生き抜く術だ。


 ​コンビニでタバコを購入。スクーターに跨り、一服する。


 ​白い箱には、赤い文字で警告が踊っている。



​『20歳未満の者の喫煙は、法律で禁じられています。

喫煙は、肺がんをはじめ、あなたが様々ながんになる危険性を高めます。』



 ​だってさ。気を付けようね。


 ​このことについて深掘りしてみたい。


 ​法律はいいとして、この後半部分について異論を唱える東京大学名誉教授がいる。東京大学名誉教授(解剖学)養老 孟司氏である。彼の主張は「たばこの害や副流煙の危険は証明されていない」「禁煙運動家はたばこを取り締まる権力欲に中毒している」という、社会の強固な権威に対する、軽やかな反逆のようなものだ。


 ​その他にも東京大学名誉教授ではないが、元名古屋大学教授の武田 邦彦氏もいる。彼の主張は、「タバコと肺がんはほぼ無関係」というもので、国の統計データを引用したものだ。


 ​俺は知っている。現在の公衆衛生および医学界では、喫煙が病気のリスクを高めるというコンセンサスが確立されていることを。だが、このような異論は、たばこのパッケージに記載されている警告の医学的な根拠そのものを覆すものではないにせよ、「一つの常識」に安易に身を委ねるな、という静かな警鐘のように聞こえる。


 俺は、常に、自分の行動を肯定してくれる**「知的な防波堤」**を探しているのだ。


 ​そんな世の不確実性についての考察はここまで。近所のスーパーマーケットで、小動物用の「これ」を購入してみた。


​「これでいいんだろうな?」贅沢言うなよ?



 ​では、帰るか。



 ​奴には、この靴の片方を持ち去られたという屈辱はあるものの。玄関のたたきには、相棒を失った片割れが虚しく残る。そんなことは些細なことだ。奴らの本能的なものだと思われる。**生きるための、小さな「盗み」**だ。


 ​今朝購入したばかりのキャットフードを用意した。本日は小雨が降っている。なので奴が濡れない位置に置いてあげることにした。コンクリートの地面は湿気を吸い込み、冷たい土の匂いを放っている。


 ​おそらく奴は、あの辺りの茂みからアレを食いにやって来るものと思われる。監視していると食べに来づらいだろうから、あとで様子を見に来てみることにしよう。


 ​今はもう一台のスマートフォン(Google Pixel)からメインマシン(GALLERIA)に、大量に撮り溜めた写真や映像をType-CのUSBケーブルで転送を行っている。進捗バーは、22分ほど掛かるようだと告げる。


 ​その映像の中に奴は映っている。キャッツ・アイのBGMを添えられた、俺の日常の断片だ。


 ​その間は、寝室の『HiM.3(ノートPC)』で、それに取り付けた1080HDのPCモニターでDVD(映画)でも観ていよう。畳の上に足を投げ出し、い草の乾いた匂いを嗅ぐ。


 ​映画の画面は、無意味な光を放つ。偶然、映し出された女性に、切迫した男性の声が聞こえる。


​「ジャックだ」


 ​日本語字幕でそれが映し出されていた。たまたま見たシーンがこれだっただけ。しかし、その時、このリラックスした姿勢と、タバコの煙、そして外の雨音が、あの動画の情景と重なった。


 ​縁側で寝そべる先生。傍らにいる猫。そして、人生の全てを肯定するような、あの静かな声。


 ​画面の光と、足元の灰皿の上の吸い殻の残骸、そして外で餌を待つ小さな命。すべてが、この一言に集約される。



​『お互い生きてますな―。』


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