第32話 お疲れ様でした
僕は驚いて、思わずエルフに手を伸ばしたとき青白い光の粒子と共に完全に消え去った。
伸ばした手は何も掴めず、僕はそのまま倒れ込んでしまった。エルフと戦っているときはアドレナリンがドバドバ出ていて疲れも痛みもそこまで感じていなかったが、戦いが終わったので緊張の糸が途切れてしまい、立ち上がるため動こうとしても筋肉が硬直して動けなかった。
僕を覆うように薄い影ができる。
「お疲れ様でした」
ヨル先輩の声が頭上からした。全身の力を振り絞るように、うつ伏せの状態から、仰向けの状態に身体を動かす。ヨル先輩は相変わらず無表情だったが、ほんの僅か薄い黄色のオーラが漂っていた。
これは感情の色?喜んでくれているのかな?
「立ち上がれますか?」
僕は首を横に振った。ヨル先輩は少し考え込んでから僕をヒョイと抱き上げた。お姫様抱っこで。
「うわー!!せ、先輩!?お姫様抱っこ!?」
「こちらの方が移動の効率が良いと判断したので」
ヨル先輩は歩きながら話をしてくれた。
「私がこの星に住んでいたのは、およそ200年ほど前です。ここはゲイランゲルの森と呼ばれていて、多くの魔物が住んでいる森で危険と言われている一方で『最後の砦』とも言われています」
「『最後の砦』?」
「はい。ユウ、上を見てください」
ヨル先輩に言われた通り上を見た。どこもかしこも真っ黒な雲に覆われていた。あまりにも真っ黒なので今にも雷雨が降ってきそうなので不安になってきた。それを見たヨル先輩は補足の説明をしてくれた。
「ああ、あの雲は確かに黒くて雨が降りそうですが、私の記憶が正しければあれが出現してから1回も雨が降ったことはありません。むしろ雨が降らないことが問題です」
僕はもっと訳が分からなくて、黙って聞くようにした。
「ユウは水の大循環をご存知ですか?太陽の光によって海水や川が蒸発して雨になるのを繰り返すものです。しかし、あの謎の黒い雲が覆われるようになってからは太陽の光による恩恵を受けることが出来ず、この森以外の植物はほとんど枯れてしまいました」
「なんで、この森は無事なんですか?」
「この森には魔素が充満しているからです。この森の植物はその魔素によって形成されています。そのことが分かったとき、都市にも魔素を充満させようという計画がありましたが頓挫してしまいました。だからこの森は『最後の砦』と呼ばれているんです」
「なんか、想像を絶する話ですね」
あまりのスケールの大きさに思わず他人事のような感想が漏れてしまった。
「それを、ついさっき思い出したんです。それでユウに嬉しい報告をと」
「嬉しい報告ですか・・・?」
「一つはこの森の生態系は少しずつ壊れてきているということ。
先程のエルフ、私も見たことがありませんでした。普通のエルフとも違いますしダークエルフの特徴も当てはまっていませんでした。もしかしたらもっと厄介な魔物が潜んでいるかもしれません。良かったですね、修行が捗りますよ」
「・・・・・・・・・・・・ヨル先輩ってスパルタですか?」
「さあ?どうでしょう?」
それっきり僕らは何も喋らなくなった。僕は先のことを考えただけで目眩がしてきた
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