あじさい燦々

Rie

— 色づく想いは雨のなかで —

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六月の雨が、静かに軒を濡らす午後

彼女は、白地に薄紫の絣の着物をまとう


帯のあいだから、淡く香るのは

どこか懐かしい沈丁花の残り香


ああ、なんて憂いを帯びた瞳だろう

その眼差しに わたしはまるで

長雨に咲く 紫陽花のように

幾重にも色を変えながら 心を染められてゆく


—好きよ—

 

と言えぬままに

袖口に触れた指先は

しとどに濡れた花弁に似て

触れれば崩れてしまいそうだった


音もなく過ぎる梅雨の中で

この想いもまた 静かに色づきながら

やがて あの空のように

淡く 遠くなってゆくのだろう



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あじさい燦々 Rie @riyeandtea

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