兄と弟(クズとクズ)

ヤンヤン

第1話 当てつけか?


弟に彼女が出来た。

クソが、いやクズが

なんであいつの方が先に彼女ができるんだ、

あいつも中学までは俺と同じ陰キャだったのに、高校に入った瞬間リア充デビューしやがって、

俺だって俺だって、

そんなことを考えながら皿洗いをしている兄を尻目に、弟はリビングで彼女と通話をしていた。

弟「だから恥ずかしいからやめろって〜」

うっるせぇな恥ずかしいのはこっちだよ!自分の部屋でやれよ!当てつけか?当てつけなのか!

弟「じゃあ俺もそろそろお兄ちゃんの皿洗い手伝ってくるわ。おやすみ」

お!手伝ってくれるのか

そう思った瞬間弟は手に持っていたグラスをシンクに置き自分の部屋に帰って行こうとした。

兄「おい!皿洗い手伝ってくれるんじゃねぇのか!」

弟「は?なんの話?てか俺と彼女の通話聞いてたの?キモッ童貞過ぎて引くわ〜」

兄「うるせぇな、お前の彼女で抜いてやろうか!」

そうすると弟は信じられないゴミを見るような目をしながら、部屋に向かって行った。




深夜1時

弟「でさ〜」

弟「そうなんだよ〜」

弟「今日もかわいいね」

俺の部屋は弟の部屋と間となりだ

クソうるせぇ

あいついつまで通話してんだよ!もう深夜1時だぞ!寝ろ!

つうか微かに聞こえる彼女の声ちょっとかわいいし、ムカつくなぁ!

弟「兄がマジでキモくてさ〜」

は?とうとう俺の悪口か?もう我慢ならん

バンッ!

どうだこの渾身の壁ドンは!!!

弟「うんうん、それで?」

な、俺の渾身の壁ドンが効かないだと!

こうなったら!最終兵器を投下するしかないようだな!覚悟しろ!

「アンッ」

「イヤッ」

「ダメェッ♡」

ハッハッハ!

どうだ俺のお気に入りのAV女優の渾身の喘ぎ声は!!!

これなら流石に通話もやめざる負えまい!

しばらくして、弟の声が止んだ。

は!どうだ参ったか!

すると俺の部屋の扉に誰かがノックをした。

きっと弟だろう。文句があるなら夜中の通話をやめろ!でないとまた流すぞ〜俺のお気に入りのAV女優の渾身の喘ぎ声をな!などと弟にドヤ顔をする妄想をしながらドアを開けると、そこに立っていたのは弟ではなかった。父だった。そして少し後ろに母がいた。

俺は扉を閉じた。

父はドアの間に足を挟んだ。

今だ聞こえ続ける喘ぎ声のなか、俺は死を覚悟した。

説教は明け方まで続いた。

俺には禁欲の刑が下された。




一ヶ月後…

丁度俺に下された禁欲の刑が解けたころ

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴った

「陽くんいますか〜」

聞き覚えのない声で弟の名前が呼ばれた

まさか…

玄関を開けてみるとそこには、華奢でくりっとした目、丁寧に整えられたゆるふわなセミロングのかわいい女の子がいた。

恐らく弟の彼女だろう

よし、追い返そう

かわいい見た目に騙されるな、冷静に考えろ毎日毎日夜中まで電話してるような奴だぞ、絶対碌でもない奴に違いない。

よし、追い返そう

「実は今陽は」

「かっこいい…」

俺の声に被さるように女の子は言った。

「え?」

「ごめんなさい!かっこよかったので、つい…」

「どうぞ中に入って」

いい子じゃん…

「陽今出掛けててさ、中に入って待ってなよ。ミルクティーでも飲む?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

弟はあと小一時間は帰ってこないだろう。せっかくだし、今のうちにこの子の好感度を上げておくか。

「はい、ミルクティー、ところで名前なんて言うの?」

「美亜です」

「美亜ちゃんか〜もしかして陽の彼女だったりする?」

彼女は「はい」と返事をするでもなく、頷くでもなく、ただ顔を赤一色に染めていた。

チッ

ワンチャンまだ弟の友達っていう可能性も合ったのに、そしたらまだ狙えた。

いや、今からでも狙えるか?

「お兄さん、陽君から聞いてた感じと全然違ってビックリしました」

「え?陽はなんて言ってたの?」

「えぇと、毎日AVばっかり見てるって」

あいつ、別に毎日見てねぇし、3日に1回ぐらいだし、だいたい、ここ最近全然見てねぇし(それは禁欲の刑が下されたからだけど)ていうかあいつ俺が前に貸したAV借りパクしたままだろ!

もういい今日のオカズはお前の彼女だ!覚悟し

ガチャ

リビングの扉が開いた

不機嫌そうな顔をした弟が帰ってきていた。

え!?嘘?このタイミングで?弟の彼女をオカズにした罰?いや落ち着け、まだオカズにしてねぇわ

「お、おかえり〜陽もここ座れよ」

弟はニコッと笑いった

「うん!お兄ちゃんはもう出てって」

満面の笑みとは裏腹に無言の圧をかけてきた。

「いや、せっかくだし、3人で」

バンッ

気がつくと俺はリビングから追い出され、扉の前に立ちつくしていた。


しかし、まさか弟の彼女がここまでかわいいとは、通話から漏れ出てる声が可愛かったからある程度は予想してたけど、

ん?でも電話越しの声はもっと声が高かったような?まぁ電話越しの声とリアルの声が違うのはよくあることだし、気のせいか。





一ヶ月後…

毎日のように美亜ちゃんがウチに来るようになった。

ハッキリ言って普通に邪魔だ。

美亜ちゃんは可愛いし礼儀正しい。ただ少しでも美亜ちゃんと話そうものなら弟がものすごい形相で睨んでくるので怖い。

あと普通に居心地悪い。

しかも毎日ウチに来てるのに毎日夜中まで通話してるし、もう話すことないだろ。お陰で今日も寝不足だ。

今日という今日は流石に文句を言ってやる。

俺は弟の部屋の扉を開けた。

「おい、いい加減彼女を家に呼ぶ頻度減らせよ、しかも毎日毎日夜中まで通話してるし、せめて彼女を家に呼ぶか夜中まで通話するか、どっちかにしてくれ」

「は?それじゃ不公平だろ?」

「は?不公平って?」

弟は急に焦り始めた

「いいからでてけよ!」

と動揺しながら言った。

「は!いやだね!お前が彼女を家に呼ぶのをやめるか、通話をやめるか、どっちか選ぶまで一生ここに居てやる」

少しの沈黙の後、弟はニヤつきながらこう言った

「お前が禁欲中のとき、お前の部屋からゴソゴソ聞こえたぞ。父さんがこの事知ったらどうなるか―」

俺は素早く弟の部屋を立ち去った。




翌日の早朝

ピンポーン

家のチャイムがなった

なんだ?また美亜ちゃんか?まだ朝の7時だぞ昨日もよく眠れなかったし、よし、二度寝しよ。

ピンポーン

再びチャイムがなった

んだよ、まだ眠いのに、俺は渋々玄関の扉を開けた

「はいはーい美亜―」

ふと、目の前の女の子に目をやるとそこに居たのは美亜ちゃんではなかった

切れ長の目にツヤツヤの黒髪ストレート

「あの、陽居ますか」

そして電話越しによく聞いた、聞き覚えのある高い声

美人な女の子がそこにはいた。

後ろに視線を感じ振り返ると、階段の上から覗き込む、冷や汗をかいた弟の姿が見えた。

なるほど、そういうことか、

俺は頬を釣り上げた。

たまにはお兄ちゃんらしいことをしてやろう。

「どうぞ中に入って」

焦っている弟を尻目に、俺は目の前の女の子を歓迎した。














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兄と弟(クズとクズ) ヤンヤン @yanyan0528

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