第12話
いま、私は〇〇県に向かう鈍行列車の中にいる。ガタンゴトンと揺れる車内。周囲は観光客でもビジネスマンでもなく、のんびりした雰囲気の地元民ばかり。私はといえば、巫女姿でもスーツでもなく、ごく普通の私服姿で座席に沈んでいた。
(いや、なんで私がこんなとこ来てんの?)
遡ること数日前──。
「真白、出張だ」
朝の会議室で、唐突に烏丸怜司がそう告げてきた。
「は? なんで?」
「ある人に会って、あるものを受け取ってきてほしい」
「はあ? 意味わかんないって。それだけ? 詳しく教えてよ」
「無理だな。……お前、口が軽いから」
そう言って怜司は、ほんの少しだけ口元を緩めて鼻で笑った。
(ちょ、なにその顔。まさか──まさかだけど、ライバル会社の新商品がバカ売れした件、バレてる?)
怜司の視線は何も言わなかったけど、何もかも見透かされている気がして、私はその場で何も言い返せなかった。
──という経緯があって、いま鈍行列車の中なわけである。
* * *
目的の駅に到着したのは昼過ぎ。ホームを降りると、田んぼと山に囲まれた、空が広い場所だった。駅舎は小さく、改札を出てもタクシーどころかバス停もない。
(え、歩き? 徒歩で?)
スマホを確認するが、電波は微妙で地図もまともに読み込めない。仕方なく、私は紙に書いてきた住所を頼りに歩き始めた。
田んぼのあぜ道を進み、ぽつんと見えた畑の横で、腰をかがめて農作業をしていたおじいさんに声をかけてみる。
「すみません、〇〇さんのお宅ってご存じですか?」
おじいさんは顔を上げ、しわくちゃな顔をほころばせた。
「おやおや、えれぇべっぴんさんが来ただなあ。都会のもんか?」
「え、あ、はい……そうなんですけど」
「〇〇さんち……?」
急に、おじいさんの表情が曇る。
「……あこは、行かんほうがええ」
「へ?」
「誰も近づかん。昔から、あすこは、な……」
なんだそれ。怖。
でも他に道を知らない私は、いったんお礼を言って先に進む。途中でもう一度、道を聞こうと別のおばあさんに声をかけるが──
「……お嬢ちゃん、やめときな。戻れるうちに戻りなさい」
「夜に近づいたら、帰ってこれんぞ」
「うちの孫も昔……いや、なんでもない」
なんなの!? どんどんホラーテイストになってきてるんだけど!?
(……いや、でもあたし、怜司に言われて来たんだよね?)
ますますわけがわからないまま、歩き続けるが──
一本道なのに、なぜか迷う。地図と道が合わない。案内板は消えかけ、民家の数も少ない。
やがて私は、田んぼの真ん中の畦道で立ち止まり、空を見上げて叫んだ。
「──いや、辿り着けないんですけどぉぉお!?」
返ってくるのは、カエルの合唱と、遠くの川の音だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます