第11話

「すごい邸宅ですねえ……!」


玄関をくぐった香月こうづきが、目を輝かせて見渡す。玄関ホールの天井は高く、壁には掛け軸と美術品、下駄箱の隣には季節の花が生けられていた。


そこへ家政婦の富子とみこさんが現れる。


「お客様ですね。応接間へどうぞ」


にこやかに言いながら、富子さんは二人を案内する。


「は、はい……」


真白ましろは顔をひきつらせながら、巫女装束のまま後に続いた。


(やばいやばいやばい。なんで烏丸からすまの家に営業来ちゃってんの!?)


応接間に通され、香月の営業スマイルは早くも全開。巫女衣装の真白を横に、真白のおかげ?でバージョンアップを果たした除霊装置の新モデルのプレゼン準備を着々と進めている。


その横で真白は胃をキリキリさせながら、出された緑茶を手に持ったまま固まっていた。


そんな中、奥の廊下から聞き慣れた足音が近づいてくる。


「当家に除霊営業とは、珍しい」


現れたのは、この家の主――烏丸怜司からすま・れいじ。スーツ姿に冷えた目、しかしその目の奥には、なぜか微かな笑みがあった。


(ちょっと! なに普通に出てきてんの!? バレるでしょ!)


真白が目で訴えるも、怜司は知らん顔で、香月に向かって深く頷いた。


「機械による祓い……時代は進んだものだな。ぜひ話を聞かせてくれ」


「おおっ! ご理解がある! さすが!」


(なんでノってんの!?)


富子さんが茶菓子を運び、香月が「ではこちらの資料を……」とカバンをごそごそし始めたその時、スマホが鳴った。


「あ、ちょっと会社から。すみません、外で少しだけ──」


香月が部屋を出ていき、真白と怜司の間に気まずい沈黙が流れる。


怜司は、お茶に口をつけることもなく、ぽつりとつぶやいた。


「……なにやってるんだ、おまえ」


その低い声に、真白の背筋がぞくりとした。


(あー……やっぱバレてた……)


だが、次の言葉は予想外だった。


「だが、うちの装置の売上が落ちた理由は、ようやくわかった」


真白は反射的に身体をすくめた。やっぱ私が……余計なアドバイスなんかしちゃうから……。


その時、怜司はまっすぐ真白を見て、静かに言った。


「……あいつの顔がよすぎる」


「──ぶっ!」


真白は吹き出しそうになり、お茶をあわてて口から離す。


「え、なにそれ!? そっち!? もっとこう、理詰めで来るかと思ったら……」


怜司は肩をすくめた。


「見た目で買うバカも世の中にはいるってことだ」


「ははっ……」


笑いながら、真白はふと気づく。この男がこんな風にくだらないことを言うなんて、初めてだ。


(……あんたも、そういうこと言うんだね)


ちょうどその時、香月がドアを開けて戻ってくる。


「お待たせしましたー……あれ、なんか雰囲気よくなってません?」


真白と怜司、同時にそっぽを向く。


香月はふふっと笑って、「では、ご説明させていただきます。まずは資料の」と営業を始めたのだった。



1時間後。


営業資料を片付け、香月は深く頭を下げた。


「それでは、本日はありがとうございました! また正式なご連絡を差し上げます!」


「おお、またぜひ。富子さん、お見送りを」怜司が静かに言う。


真白は黙って頭を下げ、怜司の視線から逃げるように香月の後ろに続いた。


そして二人は、夕陽が傾く大通りへと戻る。


香月が隣で軽く腕を振りながら言った。


「よし、今日も完璧な営業でしたね。真白さん、やっぱ頼りになりますよ」


「……う、うん。……?」


戸惑いながらも、真白はふと笑みを浮かべた。


――こうして、ドタバタの営業訪問は、なんとか終わった。


そして二人は、新商品の販促資料を携え、ライバル企業の本社へと帰社するのだった。

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