第19話
「準備はいいっすか、お前らどもー!!」
冒険者ギルド前に設営された簡素な会場に、所狭しとオーディエンスが詰め掛ける。
マニマニのアイデアとは、つまりミスコンであった。
「盛り上がっとるのう、わしの美貌をとくと味わうが良い!」
自身のアピールポイントを理解しているのか、真っ白なフリフリのワンピースを着たフランチェスカは普段以上に幼く見えた。
対するプラグは普段通りの格好で、ワンポイントとして頭の上にテーパーのついた謎の物体を載せている。
「何すかその帽子? コスプレっすか?」
舞台上の一張羅としてはあまりに気の抜けた格好。マニマニが呆れ気味に問いかけると、メガネをクイっと動かして不適に笑う。
「ふふふ、まあそのようなものだ。結果を楽しみにしているのだよ」
その姿を見て、帽子というか拡声器だろ。とダンは思った。
一体拡声器で何をするつもりだろうか。あまりいい予感はしない。
ニナも疑問に思ったようで、自然と口をついて出る。
「……帽子?」
「帽子なのだよ。そう、間違いなく」
帽子ではない、間違いなく。
プラグの企みは明らかにならないまま、二人のバトルが幕を開けた。
まずフランチェスカが舞台へと上がった。
見た目は完璧に清楚美少女。いつの間に持ってきたのか、麦わら帽子など被った姿は後ろにひまわり畑を幻視するほど可憐だった。
観客の反応を確かめ、悪戯に微笑むフランチェスカ。
「おーっとフランチェスカ選手! これはあざとい!! あーっ! いけません、あーっ!!」
実況役のマニマニが机に手をつき立ち上がる。
「マニマニの欠点は語彙力が少ないこと」
観客の大歓声を受けて、フランチェスカが舞台袖に下がった。
ニィッと勝利を確信したようにプラグを見やる。
それを気にした様子もなく、入れ替わりに舞台袖から歩み出る。
観客の反応は様々で、冷ややかな視線を向ける者、動向を注視する者、白衣メガネ萌えの者に分かれる。
何にせよ先ほどより静まった客席に、プラグが堂々と呼びかけた。
「よし、行くのだよ『毒音波1号』!」
言葉と共に、プラグの頭上に載せられた拡声器から奇怪な音階が発信される。
「知っているかい? 音というものはパターンによって人間の思考をコントロールすることが可能らしい」
プラグが舞台袖を見て呟くと、観客席に沈黙が訪れた。
客席に向き直り、ドヤ顔で問う。
「2人のうち可愛いのはボクという認識で良いかな?」
一瞬の間をおいて、野太い歓声が上がる。
驚いたのがフランチェスカだ。明らかに勝つ流れだったのに、急変した会場の空気に困惑を隠せない。
「いやいや、明らかにおかしいじゃろ! 良からぬ術にかけられておるじゃろ!」
「わっはっは! 聴衆を洗脳してはいけないという規則はないのだよ!」
腕を組んで高笑いするプラグ。その姿はまるで子供向けアニメの悪役のようだ。
ダンが呆れ顔で嘆息した。
「規則以前の問題だろ。見ろ、関係者席のお偉いさんまでお前に夢中だぞ、どうすんだこれ」
「もちろん策はある。解除用の音波もしっかり用意済みなのだよ。それっ」
「おい、無音だぞ」
「それは当然なのだよ。人間に聞こえる音ではないからね」
超音波ということだろうか。しかし、聞こえていない音で効果があるのだろうか。
しばらく待ってみても、歓声の収まる様子はない。
ところどころでプラグコールが起き、ヲタ芸を披露する者まで現れる始末だ。
予想外の反応に、流石の元凶も首を傾げる。
「……変だな、ネズミで実験した時は問題なかったのだけど」
悠長に語っているが、時と共に歓声は大きくなり、暴動寸前といった有様だ。
「ひょっとしてこれ、かなりマズイ状況なんじゃないっすか?」
「これから外に出る時は変装して行けよ」
ポンと肩を叩いたダン。急にオロオロし始めたプラグが不安そうに。
「ど、どうしよう……このままではロクに街も歩けないのだよ」
狼狽する様子にほだされたのか、フランチェスカが諦めたように声を上げる。
「……ったく、仕様のない奴じゃのう。わしが何とかしてやるわい」
「本当か!? いや、やはり魔法の手をここで借りるわけには……」
「何を水臭いこというとるんじゃ。仲間を助けるのもまた一興じゃよ。対価はしっかりもらうがのう、うへへ」
じゅるり、と下心丸出しの大魔法使い。清楚なワンピース姿だけに、異様なオーラが漂う。
少し逡巡した後、ついに決心を決めて頭を垂れる。
「ボクにできることなら。すまないが、頼む」
グッ、とサムズアップしたフランチェスカ。爽やかな笑顔だけ見れば夏に遊ぶ少女のようだ。
「おう、バッチリ任せんしゃい!」
「惑える衆生よ、偽りより真実の御許へ還らんことを。鐘よ鳴れ、哀れな人の子を救い給え」
呪文を唱え終わると、遠くから重い鐘の音が聞こえた。
何度か鐘が鳴り響いた後、観客たちが頭を振って辺りを見回し、歓声が止んだ。
皆何かに化かされていたようにぽかんとした表情を浮かべている。
「助かった、礼を言うのだよ」
殊勝にもまた頭を下げる。
フランチェスカが粘着質な笑みでプラグを見つめた。
「うむ。ところで、何でもすると言うたの?」
「ん?」
嫌な予感にプラグが凍りついた。
対して微笑みかけるフランチェスカは、それだけ見れば儚げに消えてしまいそうな美少女だ。逆にそれが凄みすら感じさせる。
「ん?」
「に、認識に齟齬があるようだ。ボクにできることならと言ったじゃないか!!」
「大丈夫大丈夫、安心せい。痛くしないから、目を瞑ってれば終わるから。うへへへへ」
「何をする気なのだよ!」
蜘蛛のように絡め取られるプラグを見ながら、ニナがボソリとつぶやいた。
「今回は自業自得……かもしれない」
その後、何が行われたのか知るものはいない。
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