旅立つ人魚

 おはよう、管理人さん。

 昨日はどんちゃん騒ぎだったわね。あたし、しっとり歌うステージが好きなんだけど、ああいう賑やかなのもたまにはいいわね。調子に乗ってアンコールまで受けちゃった。

 みんなにお別れの挨拶?

 いいのよ。だって、次にここへ来るのがいつになるかわからないもの。潮の流れによっては数日後、風の気まぐれで数時間後にまたここへ来るともわからない。盛大なさよならパーティーをした直後に主役が戻ってきたら白けちゃうでしょ。

 そうでなければ、何百年、何千年後か。まだこの星の寿命が続いているなら、その終わりの日までいくらでも先延ばしになる可能性はある。そんな先のこと、想像もつかないじゃない? さよならって、いつも実感がわかないのよ。

 ねえ。あなた、ずっと生きてみたいと思う? 老いもしなければ病にも罹らない。そんな永遠を、もし手に入れることができるかもしれないって言ったら?

 ああ。

 やっぱり。あなた、そんなことこれっぽっちも考えていなかった、そんな顔をしてるわ。

 そうじゃなけりゃ冗談でもこんなこと言わないわよ。あなたは受け取った命の器の寿命をまっとうしなさいな。背負い込みやすい性分みたいだし、色んなものに好かれそうだし。それが永遠になっちゃったら、いつか潰れちゃうわね。

 さあて、いい風。バスタブに帆が張られてるのを見るのは初めて? そりゃそうでしょう。これはこれで、よく働いてくれるのよ。

 それじゃ、またね。

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