第2話
二千年前に定理宇宙が生まれたとする定理の宇宙で阿曇は目を覚ます。
起きて目にするのは見慣れた天井。星定理の地球定理に住む彼はベッドから降り、リビングへ向かう。
「おはよ」
リビングには父がコーヒーを飲んでくつろいでいる。
「母さんは?」
「母さんは仕事に行ったよ」
阿曇はそうと言い、冷蔵庫から牛乳を取る。
牛乳を注ぎながら、阿曇は父に言う。
「いつも思うがコーヒー、苦くないの?」
阿曇は苦いもの苦手だ。子供の頃に一口飲んでから苦手の意識が着いてしまった。
「苦いが、これがコーヒーの良さだ。お前も飲むか?」
父の誘いに遠慮しておくよと返す。
阿曇はテーブルに着くとテレビを着ける。
特に見たいものも無いが、無いよりましだ。
「あんまり面白いの、やってないね」
「そりゃ、朝だからな。あっ、砂糖取って」
阿曇は台所の砂糖を父に渡す。父はコーヒーに砂糖を追加する。
「結局砂糖入れるじゃないか。苦さが良いんじゃないの?」
阿曇は少し口角を上げながら、父に言う。苦いものに甘みを加えるのはコーヒー本来の良さを殺しているのではと言いたげに。
「いや‥、自分に合った程よい苦さがあるんだよ」
父はカップに口を付けながら、少しの恥ずかしさを隠す。
しかし阿曇も父の言葉にそれもそうかと言葉を漏らす。
テレビを眺めていると、あるニュースが流れて来た。
「もう、五年か‥」
父の言葉が阿曇の心に響く。
「そうだね、早いよね‥」
阿曇は当たり障りのない言葉を返す。
「‥‥」
父はそんな阿曇を見て、コーヒーを飲み干す。
「そうだ、今日は大学だろ。あそこのメロンパン買ってきてくれ」
そういい、父は財布からお金を出す。あそこというのは学校近くのパン屋だ。
阿曇はお金を受け取るが、その量に違和感を覚える。
「うん?このお金さ。ちょっと」
阿曇が言い切る前に父が喋る。
「まあまあ、細かいことは気にするな。パン買ってくれれば好きにしていいから」
「そう‥。やべぇ、朝ごはん食べないと」
学校に遅れると思い、急いでパンを齧る。
その間もニュースは流れ、あの日の特集をやっていた。
といっても大した内容はやっていない。インタビューをしたりする位だ。
何故なら証明戦は分からないことが多いから。特にあの日は。
そんなニュースを眺め、阿曇はどこかつまらなそうにしている。
(やっぱ、大した情報はないよな)
あの日の証明戦は第五知性体が起こしたのではないかとの噂である。
第五は人類が見つけて五番目という意味であり、番号の付く知性体は現在第七まで見つかっている。といっても見つけたわけではなく、相手が出向いてきたのが大半である。
証明戦というものはこの知性体たちが行っていることだ。定理宇宙を支配する彼らは時折喧嘩の様に証明戦をする。人類からすれば傍迷惑だが止めも出来ないので毎回どうにか生き残ろうとあがくことしかできない。
こんな噂が立ったのは阿曇のいる定理宇宙が第五の支配する公理から発生したという説が有力視されているからだ。
パンを食べ終え、阿曇は大学に向かう準備をする。
「それじゃ、行ってきます」
「おう、行ってらっしゃい。気を付けてな」
そうして家を出、バス停に向かう。
大学まではバス通学で、楽だ。
阿曇が空に目をやる。空は青く、雲一つ無い。夏定理が機能している地球においてこれほど厄介なことは無い。
「暑い‥」
阿曇が言葉を漏らす。天気予報でも見てくるのだったと多少後悔している。遅れそうだったので急いでいたのが運の尽きだ。
バス停に着き、携帯をいじり始める。ニュースの一つでも見ようかと画面を流し見るが、やはり大した話は載っていない。
バス停には幸いにも日陰のある屋根付きベンチがあるが、蒸し暑いと心許ない建造物に成り果ててしまう。
そうしている内に時間は流れ、バスが来た。
バスに乗り込み、席に座ると阿曇は車窓から空を見る。普段なら携帯なり、本なり、何かしら暇つぶしに触っている彼だがどうにもこの日はそんな気分にならなかった。
「何でこんな宇宙になったのかな‥」
誰に聞かせるわけもなく、阿曇はひっそりと呟く。
そんな彼の心の中にはあの日の情景が蘇っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます