経過報告2

 そんなこんなを持ちまして、私の些細なサバイバル生活が始まりました。

 サバイバルとは格好つけて言ってみましたが、屋根もあるし服もある。難易度としては初心者向けだと思います。

 ですが、食に関しては──アイスブレイクライン(冷蔵庫)崩壊、ファイヤーウォール(コンロ)死滅、電磁パルス照射装置(レンジ)停止と、親指立ててニカっとし辛い現状が目の前に横たわっています。

 はてどうしたものかと首を捻った筆者が、初めに行ったのは本探しでした。

 筆者は結構なバカなので、昔、古本市で手に入れた【食べられる野草図鑑】を探しました。次に【花の由来について】と、【毒草図鑑】を探し、床に積み上げて悦に浸ると、「何やっとんじゃ俺は」と我に返って本棚に戻しました。

 次に現状の分析を行うこととしました。

 私の主食はインスタントラーメンですので、空いた棚に十食分ほどサッポロ一番が詰め込まれていたのですが、こういった麺類はお湯が無いので食べられません。

 パンは結構早く痛みますし、米も卵かけご飯で消費し切ってしまいました。

 どうしたものかと首を捻る私が最終的に至った結論は

 近所の半額弁当の買い占めでした。

 俗物だなあと自分で思いながら、夜の七時ごろから張られる半額シールの商品を狙ってスーパーを徘徊し、弁当をカゴに三食分を放り込んで、傷みやすそうなものから食べました。

 美味しかったです。

 元よりインスタントラーメンにだるんだるんに伸ばされた私の舌の神経は、多少消費期限が切れた食品くらいなら美味しくいただけました。(流石に今の梅雨の時期はやめた方がいいと思います)

 私はこれを【舌が肥える】の逆として【舌のダイエット】と呼んでいます。スリムな方がいいよね何事も。


 幼少の私を歪めたバイブルとも呼べる漫画作品に、吾妻ひでお先生の【失踪日記】という作品があります。

 この作品は、作者の吾妻ひでお先生が、スランプで漫画を描くことができなくなった結果、ホームレスになったり工事現場で働いたり、アル中で入院させられる話が自伝的に描かれています。

 こう書くと暗ーい内容に思えますが、終始コミカルかつ、少しだけ憧れるような描写もあって、大好きな作品です。(この影響で小学生の頃、一時期ホームレスに憧れていました)あと女の子のイラストが可愛い。

 盗んだキャベツと、茎ワカメの塩漬け(ゴミ箱産)をカッターで切って混ぜて、尻の下に敷いて寝て起きると美味しい漬物になってた話とか大好きです。

 が、流石にそこまで開き直れませんし家は失ってません。

 ですので一先ず、半額弁当をビニール袋に入れ、冷水に満たした風呂桶の中で保存しました。

 意外とイケます。


 食糧問題は一応解決(?)しました。風呂は近くの銭湯に任せましたので、案外優雅な生活でした。お金は掛かるものの、広い風呂と熱いお湯に毎日浸かれるのは間違いなく幸福でした。

 心なしか、この些細なサバイバルを経て健康になった気がします。

 筆者はゲームやSNSに熱心な方でもありません。音楽が聴けないのは少し悲しくはありましたが、その分静かな環境づくりになると開き直りました。配信はアーカイブで追うとしましょう。

 元々電気が消えている方が好きな根っからの陰キャ野郎なので、夜更けと共に眠り、夜明けと共に目覚め、そしてスマホもパソコンも弄れないので本を読み続けました。

 漫画や小説に親しみ、一巻だけ家に無い【最終兵器彼女】を古本屋に探しに行ったりもしました。(見つかりませんでした。俺は何時になったら最終兵器彼女を読めるのでしょう)

 以下読書の記録です。

 此処まで下らない文章に付き合ってくださってありがとうございます。しかし、そんなお優しい方々であろうと、此処より先は退屈に感じると思いますので、どうぞ読み飛ばしてください。


【ダイヤモンドは砕けない】を読み返しましたが、やっぱり滅茶苦茶面白い。ハイウェイスター戦で仗助がバイクでベビーカーに突っ込むシーンは漫画史に残るレベルの画です。

 アナザーワンバイツァ・ダストに連なるストーリーの全てが、ジョジョがこの世の能力バトル物の中でも特に支持されている意味を見せつけるようでした。


【戯言シリーズ】も読み返すことにして、【クビシメロマンチスト】を選びました。大学名のもじりに笑ったりしながら読み進めましたが、やっぱり面白い。これがだいたい自分と同じ年齢の頃に同じ場所で書かれたと思うと凹みました。


【ああ探偵事務所】と【ヤンデレ彼女】(忍)は知る人ぞ知る大名作です。少なくとも私はこの二作品を知っている同世代の人間と出会ったことはありません。


 そしてこの一連の読書の流れの中で、特に印象に残ったのは【鋼の錬金術師】でした。

 その面白さもさることながら、読んだシチュエーションが特徴的でした。

 何度読み返しても期待を裏切らない本作ですが、三十巻近くあるので一日では読み切れず、読み終える前に日が暮れてしまいました。

 諦めて眠ろうともしたのですが、どうも眠れない。ハガレン読みてぇ欲が先行して私の眠気を破壊していました。

 この作品を途中で切るのは大変な苦痛でしたので、電気の明かりを求めて、夜の京都を彷徨いました。時刻は午後十時。片手にはハガレンが二冊。

 光に誘われた蛾のように、ふらりと立ち寄ったのはコンビニエンスストアでした。店の前には、若く軟派な青年が二人談笑していましたので、私も二メートルくらい空けて座って黙々とハガレンを読みました。

 初めの方に言いましたが筆者はバカです。

 

【蛍雪の功】という言葉があります。

 灯りの無い夜、勉強をするために光を求めて、夏は蛍の光を頼りに、冬は雪に反射した光を頼りにしたという逸話に基づく言葉で、意味合いとしては、努力、また、努力が報われるという意味です。

 私は怠惰故にこの状況に陥りましたので、この言葉は全く相応しくないのですが、夜風にそよぐページを抑えながら、コンビニの明かりで読む【鋼の錬金術師】は、読書体験を越えたイメージの降臨に繋がったように思えます。

 全くおすすめはしませんが。

 不良のニーチャンにすげえ目で見られたし。

 

 



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