百合カフェで義妹が積極的なんだけど

しばらく百合漫画を読む。

今読んでいるのは、陰キャだった女の子が高校で陽キャを演じ、人気者のスパダリ女子と友達になるが、屋上での事件をきっかけにスパダリ女子から告白されるというものだ。


アニメ化されているのでめちゃくちゃ気になっていたが、面白い。

これは原作のライトノベルの方も買わないとな。

美咲の方をちらりと窺う。


「ふふっ」


彼女はクスリと笑いながら、ページをめくる。

どうやら好みに合ったみたいだ。


お互い没頭する。

数分後。

美咲のページを捲る手が止まった。


「どうでしたか?面白かったですか?」


感想を聞ききつつ少しドキドキする。

前に吉田や男友達に感想を聞いても、よくわからないという感想をもらったから。

美咲の顔を窺うと、


「すごく面白かった!続きを読みたい!」


ぱぁっと笑顔になる。


「気に入ってもらえてよかったです!」


面白いと言ってくれて一安心。

これは全オタクに共通することだと思うけど、自分のオススメしたアニメやラノベが面白いと言ってもらえるのはかなり嬉しい。


「そろそろお昼時なので何か食べましょうか」


「あっそうだね」


この百合カフェは本の種類も豊富だけど、料理もお洒落で美味しいと評判だ。

百合カフェという形式上、女性客も多いのだが、料理もいわゆる映えるものなので、さらに輪をかけて女性客が多い。


「わぁ、これすごく美味しそう」


美咲はキラキラとし目をしながら、メニューを眺めている。


「そうですね。目移りしちゃいます」


しばらくメニューを見て、

俺はラム肉のキーマカレーを美咲は季節の野菜たっぷりのキッシュプレートを頼んだ。


「これは美味しそうですね」


「そうだねユウちゃん」


目の前に運ばれた料理はかなり美味そうだ。

見た目にもかなり気を使われていて、これは映えるな。

で、味は?


「「いただきます」」


キーマカレーを一口食べる。

いや、これめちゃくちゃうまいぞ。

ちょっとボキャブラリーが不足していてうまく説明できないけど、家とかじゃ絶対に出せない味だ。


これはこの食事目当てでも通ってしまいそうだ。

美咲の方も見ると、


「これ、すごく美味しい」


幸せそうに食べている。

以前デートした時や、オムライスを作った時に感じたが美咲は好きなモノを食べているときが魅力的に映る。


なんというか、いつもややクールめ(ユウちゃんに対しては違う)から、そのギャップだろうか。


「あれ?ユウちゃんどうしたのこっちを見て」


少し見惚れていた。

俺は誤魔化すつもりで、


「あっいや、美咲さんの食べているのも美味しそうだなと思いまして」


ただ、その発言の意味に気付いて後悔した。

美咲は俺の方をまじまじと見つめ、


「食べる?」


「えっ」


「ん」


スプーンを差し出してくる。

これはあーんの体制だ。

それっていわゆる間接キスというやつではないか。


いや、家族なら別に料理を共有するのは普通なんだけど、今はちょっと違くて。

美咲はそんなことを考えている俺のことなど、露知らずだ。


ここは素直に受け入れた方がいいだろう。

ここで変に反応なんてしたら絶対にからかわれるだろうし。


「うん、美味しいです」


そうはいったが、味などよくわからない。

美咲は悪戯な顔をし、


「ふふ、ユウちゃんと間接キスだね」


「…っ」


こいつ知ってたのか。

してやられたり。


「そっそう言うことは、あまり言わないで下さい!」


「ねえねえ」


「何ですか?」


「それじゃあユウちゃんも食べさせてよ」


「えっ」


美咲は口をあけてくる。

餌付けを待つひな鳥のようだ。

葛藤していると、


「早くしてよ。はーやーく」


駄々っ子のようにする美咲。

あーもう、めちゃくちゃだよ。

覚悟を決める俺。


「美咲さんあーん!」

「あーん」


美咲はなんの躊躇なく手渡されたキーマカレーを口にする。


「ふふ、ユウちゃんと間接キスしちゃったね」


「もうそう言うこと言わないで下さい!」


店内からきゃーとかいう声が聞こえてくる。


「供給に感謝、世界に感謝」


「尊い…酸素が足りない、酸素を酸素を酸素を持ってこーい」


うお、急にすごい注目浴びちゃっているよ。


「あの、とりあえず早く食べちゃいましょう」


あの後、いそいそと食事を終えて、普通に百合漫画を熟読して、俺たちはカフェを後にした。

ちなみにだが、俺たちのやり取りがSNSに共有されていたのは別の話だ。





百合カフェからの帰り道。


「あの美咲さん?」


「なぁにユウちゃん?」


「普通の女の子ってどういう場所に行くと喜ぶんでしょう?」


「ごめん、あたしも正直よくわからない」


「えぇ……」


「ただ、好きな人が行く場所ならどこでも正しいってのが本音かな」


「そっそうですか」


「それにユウちゃんも私と初めてデートした時、結構自分が好きなもの選んでいたよね?」


「まあそうですね」


二郎系ラーメンも、義理の兄妹モノの映画も、美咲に引かれるという基準で選んだものだけど、実際に興味があったものから選んでいる。


「たとえばさ、相手に気を使って、自分の趣味じゃないアクセサリーショップ、洋服のお店行ったとして、一緒の空気を楽しめるかな?」


「そっそれは」


否定しようとしたが、否定しきれない。

そんなことをしたら、おそらく自分自身も楽しめないだろう。


「そうだね。だから、自分が好きなものの中で相手が好きそうなものを選ぶというのが、ベストな選択じゃないかな?」


「みっ美咲さん」


美咲とのお出かけを通じて、どういうデートをするべきか理解できた気がする。

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