百合な義妹と百合カフェに向かうんだけど
そして、来たる休みの日。
未来さんとのデートの前に、まずは美咲との約束だ。
前回の時と違って正体がバレる心配をしなくていいので、そこは気が楽だ。
「ユウちゃんの行きたい場所がいい」とのことだったので、都内で遊ぶことに。
「なあ、美咲、一緒に待ち合わせ場所まで行った方がよくないか?」
「ダメ」
手をバツ印にしてぴしゃりと拒否する美咲。
「なんで?」
「待ち合わせの方がデートっぽいでしょ」
「そんな理由で……」
「じゃあ、悠馬は先に行ってて。ユウちゃんを呼びに行く時間もかかるでしょ?」
言われてしまえばその通りだ。俺はバイト先へ向かうことにした。
六月とはいえ、外はすでに真夏のような暑さだった。
小学生の頃は、もっと涼しかった気がするんだけどな……。
地球温暖化の影響をひしひしと感じる今日この頃。
やっぱり暑いのは嫌いだ。
いや、昔から嫌いだったけど――女装をするようになってからは、もっと嫌いになった。
化粧は落ちやすいし、汗でウィッグは蒸れるし、ろくなことがない。
しかも最近は残暑が厳しいので、10月までこの状態が続くというのを考えると、軽く絶望だ。
そんなことを考えながら歩いていると、ウォーターガーデンに到着。
「お疲れ様です」
「おっつ、ユウちゃんじゃないデスか!どうしたんデス?」
アリスが手を振ってくる。
暑さのせいか、彼女のメイド服はいつもより布面積が減っていた。
うん、いつもよりもいろいろとすごいな。
「今日は美咲とお出かけなんですよ」
「ほほ~青春デスねぇ」
にやにや笑うアリスに、俺はため息をつく。
「何が悲しくて女装して出かけなきゃいけないんですか……」
「そんなこと言って、実はもうハマってるんじゃないデス?」
「いえ、それはないです」
そもそも俺は女装をすることは好きではない。
別に女装するなんて全然好きじゃないんだからねとかいう、ツンデレでもない。
そもそも、俺にとって女装は金を稼げる手段の一つだ。
確かに、女装するからには可愛い自分でありたいというプライドこそあるけど、それはあくまで仕事をする上でのプライドなのだ。
「なんデスと!!!」
「急いでるんで、更衣室借りますね」
驚愕するアリスをスルーして、更衣室に直行する。
着替えを終え、鏡に映る姿を確認。
「……夏服の俺、可愛すぎだろ」
白のシャツにハイウエストのタック入りショートパンツ。
ジェンダーレスなデザインなのに、妙に似合っている。
ウォーターガーデンを後にして待ち合わせ場所へ向かうと、やはり視線を感じる。
夏服で肌を少し出しているのもあるのだろう。
……まあ、俺もつい薄着の女の子を見ちゃうしな。
待ち合わせ場所に到着して周囲を見渡す。
やがて、美咲の姿を見つけた。
「お待たせ、美咲さん」
「あっ、ユウちゃん!」
太陽のような笑み。
そして俺は思わず息を呑む。
「えっ……白のワンピース?」
黒髪に清楚な雰囲気、その上での白ワンピ。
反則級に似合っていた。
家では忘れていたけど、こいつすごいかわいいんだよな。
「うん、ユウちゃん夏服もすごい可愛いね」
「あ、ありがとうございます……美咲さんも、すごく……」
言葉に詰まる俺に、美咲はいたずらっぽく笑う。
「えへへ、私のこと好きになった?」
「あー、それは……」
「ふふ、冗談♪」
――心臓に悪いからやめろ。
「それで、今日はどこ行くの?」
「えーっとですね……とりあえず行きましょう!」
歩いて辿り着いたのは喫茶店。
「着きましたよ」
「わぁ……本がいっぱい。漫画喫茶?」
「いや、ちょっと違います。ここは――百合カフェです」
「百合……カフェ?」
きょとんとする美咲。
あれ、てっきり女装した俺が好きだったから、百合とかに興味があると思っていたけど正直意外だ。
「ざっくり言うと、女の子同士がいちゃいちゃする作品――それが百合です」
「えっ、それって……レズビアン?」
「いや、それとは違って――」
「いやそれはちょっと違いますね。レズビアンというのはどっちかって言うと、がっつりとした女性同士の濃厚なエッチとか生々しいものですね。それに対して、百合というのはレズビアンをマイルドにした奴ですね。例えば、女の子同士の軽いハグやキスなどの軽いスキンシップというのが多いですね。まあ、もちろん、普通に百合というジャンルに含まれているのにも濃厚なエッチなものがあるけど、私としては魂で見分けるというニュアンスが近いですね。明確な基準というのは難しいんですよね。なので、ちょっと過激なのがレズ、そうじゃないのが百合と覚えてもらえればいいんじゃないですかね?……って感じですかね!」
ここまで解説をすると、目の前には顔を少しひきつらせた美咲。
あっこれ、俺またなんかやっちゃったみたい。
「あっあの、少し引きました?」
おずおずと尋ねると、美咲は申し訳なさそうに、
「……ごめんちょっと引いた。」
「えぇ………嘘でしょ」
「ユウちゃんだから耐えられたけど、悠馬だったらドン引きして家出レベル」
「全否定じゃないですか!!!」
ショックを受けつつも、
「まっまあ、とにかくとりあえずさっそう本を読みましょう」
俺は気にはなっていたけど、買うまではいかなかった百合漫画を読むことにした。
毎回本を買ってたら破産しちゃうからね。
こういうところで、節約しないと。
美咲は興味津々に本棚を眺め、俺のオススメの一冊を手に取った。
ページをめくる音が、静かに響く。
「……ふふっ」
笑みを浮かべながら読み進める美咲。
その横顔が、やけに綺麗に見えた。
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