#52 月刊トルトラ バックステージパス
「みなさん、こんばんは! ゴールデンウィークはもう終わりましたよ〜。五月病にかかっていませんか?」
中央の若い女性が、カメラに手を振りながらいう。
『始まったー』
『五月病つらい……』
『カムバック、連休』
といったチャットが流れるのを、巧翔はモニターで見ていた。
「月刊トルトラ バックステージパス。今月も始まりました。司会はわたくし長良瀬 結海(ながらせゆうみ)がつとめます。よろしくお願いします!」
元気に挨拶をする、アングラTVの新人アナウンサー。
スタジオのスタッフたちと、他の出演者たちから盛大な拍手が上がる。
巧翔たちも釣られて拍手を送った。
「そして、いつものように実況解説をしてくださっているこちらのお二人」
向かって右側。結海の左に座る二人に振られると、揃って頭を下げる。
「実況担当の末永と」
「解説の潮崎です。本日もよろしくお願いします」
と、慣れた流れで挨拶を済ませる。
そして結海は、いかにも緊張してます。と言わんばかりの仕草をして、背筋を伸ばして見せる。
「そして今日は、とんでもない上司がゲストに来ていますよ? トルトラ運営の最高責任者でもある、唐沢桐生さんです!」
『本当にトップが来てるし』
『なにがあるんだろな??』
紹介された唐沢は、掴みどころのないいつものトーンで結海を見やっての第一声。
「いやいや、結海ちゃん。僕は君の上司なだけで、世間の方たちは別に僕の部下じゃないからね? なんか、僕が悪の組織の親玉みたいな空気になるから」
「違うんですか?」
「おい!」
『おい!』
『ノリ良すぎ(笑)』
『おい!』
『おい!』
流れるようなやり取りが交わされると、チャット欄も更なる盛り上がりを見せた。
「ここからは、本日のゲストです」
と、振られて、まずは豊崎が自己紹介をする。
「初めまして、サバびより編集部の豊崎 梓沙(とよさき あずさ)です。よろしくお願いします」
「本日はお招きいただきありがとうございます。人気声優の烏丸 照道です。よろしくお願いします」
すると、唐沢のツッコミがすぐに飛んでくる。
「照道くん、自分で言う? 間違いじゃないけどさ」
「え? だって、言ったもん勝ちでしょ。こんなの」
という慣れた感じのやり取りを披露した。
『言ったもん勝ち(笑)』
『まあ、間違いではない』
結海は強引に、流れを引き戻す。
「本日は、このメンバーでお送りいたします!」
曲が流れ、30秒、出演者たちが一息つく様子が配信画面では流れていた。
『トイレタイム!』
『逝ってこい!』
『バスタイムー』
『それは無理だ!』
曲が明け、ライトが少しだけ明るくなった。空調の風に、出演者の前にあるタブレットモニターを隠す花が柔らかく揺れる
「それではまず、今夜のラインナップから紹介します。まずは『トルトラ振り返り』のコーナー。今回は突発の“お仕事マッチ”を振り返ります。」
背後のセットに組み込まれている大型モニターには、対戦を行ったグループが表示される。
「続いて『GSEアップデート&運営ノート』と、『戦術ラボ』のコーナー」
『唐沢さんがいるから、運営ノートは要注目だな』
「そして…… 本日の重大発表。こちらは番組後半で、唐沢さんとゲストのお二人と一緒にお届けします」
チャット欄もざわつきを見せる。何かがあるのは間違いないというその空気はもう共通のものになっていたが、はっきりと明言されたことによってそれが確証となった。
となれば当然、視聴者は黙っていなかった。
やれ新モードの追加だ、参戦者が増えるだ、地域ごとの勢力戦だ、北関東県対決だ。などと、言いたい放題の意見が途切れることがなかった。
トルトラの存在を知ってから、巧翔は社長としてあれこれ奔走していたため、ネットでの熱に触れる機会はそこまで多くなかった。
しかし、こうして改めて盛り上がりを見ると、トルトラというコンテンツが実は大きなものだったと思い知らされる。
「すごいな。トルトラって、こんなにも支えてくれるファンがいたのか」
誰に言うでもなく、そんな声が漏れた。
「所詮はローカルアイドルのコンテンツ。とでも思っていましたか?」
いつのまにかすぐそばにいたミヲリの声が届いた。
モニターから目を逸らすことなく、巧翔が返す。
「はっきりと思っていたわけではありませんが…… 雑魚でした」
「よろしい」
笑顔と共にあるような声だったが、ミヲリの笑顔自体は頭には浮かばなかった。
「それではまずは『トルトラ振り返りのコーナー』です」
「今回はお仕事マッチだったっけ? どんなオファーが来てたんだい?」
小慣れた様子で合いの手を入れる唐沢の姿を見て、「ほんと、器用な人だな」という感想が漏れる。
「県内北部にあるグランピング施設からのオファーで、女子会グランピングのCMですね。実際に一晩グランピングする様子を撮影する。ということも盛り込まれていましたね。なので条件が3〜4名のグループということだったようです」
「ということは、オフィス・ガーランドのガーデンフォース。ドリームフィール・カンパニーのDream of Succeedと戦場変華が対象だったわけだ」
手元の資料に目を落とすこともなくすらすらとチーム名を列挙する姿に、さすがという印象を受ける。ただの風変わりなだけではない、確かなカリスマ性を見る。
当然、結海も資料を見ることはなくそれに返す。目の前で最も偉い上司がやってのけたことを、きちんと返すのは、新人から大抜擢されただけのことはあると納得する。
「ですが、複数グループの所属する事務所では、一オファーに対しては一グループしか出せないという制約があるため、今回は戦場変華がお仕事マッチに参加しました」
「戦場変華はガーデンフォースより一人少ない三人グループ。なのに敢えて出してきたのは、勝算あってのことだったのかな?」
「はい、その辺りのことも含めて、実際の映像を振り返りながら、末永さんと潮崎さんに解説してもらいます」
大型モニターにお仕事マッチの舞台となったマップが表示されると、結海から末永と潮崎が仕切りをスイッチした。
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