竜族600歳・便利屋始めました
project pain
プロローグ〜その竜、人の名を持たず〜
この作品はパラレルです。異世界刑事に登場する人物、団体、地名、事件等とは少し関係ありますが、基本的には別のお話です。
異世界刑事~刑事達が異世界で事件捜査~本編のステラーダンス<3>から不死と魔導書の旋律<1>をお読みいただくと、より楽しめます。
財宝の山に囲まれ、竜、エリアメラは巨人と対峙していた。金銀、宝石、王冠、剣・・・一目で価値が分かる代物ばかり。かつて自分が国を襲撃して手に入れた財宝。その後は地方の守護をする代わりに差し出された財宝。
洞窟内の空気は熱と硝煙で満たされ、エリアメラはすでにその首をもたげて巨人を見据えている。エリアメラの炎のブレスがほとばしり、巨人の身体を焼き始める。鎧に亀裂が走り、巨人は慌てて後ずさりながらも、声を張り上げる。
「くそっ!これしきで引くと思うな!」
巨人は泥にまみれた足で踏ん張り、再び戦槌を振りかざすが、エリアメラは爪先一つで岩を砕き、巨人の足元を崩す。その隙に、竜は一歩前へ躍り出た。
「終わりだ巨人よ。我が眠りを妨げし事、悔やむがいい」
そう、エリアメラは先程まで眠っていたのだ。それを巨人の足音のせいで起こされた。激しい怒りに燃えるエリアメラは短く低い吐息と共に尾で巨人の腕を弾き飛ばし、戦槌が無防備に床を打つ。巨人は必死に武器を拾おうと手を伸ばすが、次の瞬間、エリアメラのドラゴン・ブレスが巨人を激しく包む。唇を噛みしめながら巨人は震える声で最後の言葉を残した。
「竜め・・・」
「ふっ、くだらぬ」
エリアメラはさらにブレスを吐いて巨人の身体を炭に変え、外へと吐き出した。眠りを邪魔されたおかげで目が冴えてしまったので、何かする事はないかと周囲を見渡した。
「たまには外の風情を愛でてみるか」
遠くの街の方を眺めていると、見た事のない格好の男達が死体に向かって手を合わせている。
「あれは・・・儀式か?」
いや、600年生きてきたが、あんな儀式は見た事がない。
「始めようか」
その男は死体を丁寧に観察し始めた。
「右半身が床に接したまま横転。身体は少しだけ斜めに折れ曲がっており、衣服に乱れは見られない」
「ふむ、興味深いな・・・。トーキョーから転移した検視官。名は・・・クボタ、か」
エリアメラはその様子を何日も眺め続けていた。
「死者の身体を解剖するか・・・。面白い事をするなクボタという人族は」
その時、洞窟の入り口が揺れ、灰色の巨体が現れる。サイクロプス。二本角の一眼巨人。
「我が刻を妨げし者。何用ぞ?」
「知れた事!貴様の財宝、奪い取ってくれるわ!」
「代償は高いぞ。覚悟しておろうな?」
羽根を広げてエリアメラは宙に飛んだ。
「貴様!空に飛ぶなど卑怯だぞ!」
「知れた事か」
エリアメラは炎のブレスを吐いた。
「くっ!」
サイクロプスはとっさに腕でガードするが、炎の勢いは止まらない。
「
足に紅いエーテルを圧縮したエリアメラはサイクロプス目掛けて一気に飛び込んだ。同じ竜族に対してもダメージを与える攻撃。衝撃で洞窟の石が砕け、積み上げられていた金貨が舞い上がった。サイクロプスはしばらくは直立していたが、大きく身体を揺さぶりながら倒れた。
「ふん、刻を無駄に浪費させられたか」
また消し炭にして外へ吹き飛ばそうかと思ったのだが、エリアメラは一度立ち止まって倒れたサイクロプスを見下ろした。久保田の奇妙な儀式が頭をよぎったからだ。
「会いに・・・行ってみるか」
エリアメラは巨体を揺らしながら外へと出た。外に出るのも何年ぶりだろうか。大きく羽根を広げたエリアメラは先程の儀式が行われた場所、魔法都市アカッシスへ向けて飛翔した。
−−巨大魔法都市、アカッシス
目立たない様に雲の上を飛んできたエリアメラだったが、さて、どうやって街に降りようかと考え込んだ。今の姿のままではパニックになるのは必至。冒険者達がこぞって襲いにくるだろう。何か目立たない方法・・・。
「人の身を装うか・・・。
呪文を唱えると、鱗の色が朱から薄茶色の肌に変わり、羽根や尻尾は、ぼけた様に小さく、短く変化していった。
形態変化の魔法で人を模した姿に変身して、ゆっくりと、目立たない様に地上に降りる・・・。という考えだったのだが。
「
飛行魔法を唱えたのだが、身体はどんどん落下していく。
「ん?変だ・・・ん?変、じゃ、な、い?」
言葉がうまく出てこない。思考がまとまらない。
「しょーりゃくまほー、不可?」
おかしいのは魔法だけじゃない。言葉遣いも変だ。バカな、生態系の頂点に君臨する竜族だぞ。人の姿に変身しただけでこんなに変わるのか。いや、何かがおかしい。混乱しながらエリアメラは地上に激突した。
−−大通り
そのエリアメラが興味を持った人物、
「まいったな・・・。こういうゲームみたいな世界の
警視庁本庁の検視官室のドアを開けた瞬間、自分の背後にビルの床タイルが見えたはずなのに、視界には奇妙な空と石畳の街並み。本来あるはずの建物の壁が、目の前から忽然と消えていた。
他の刑事達と再会できたのは、まだ運が良かった方だ。
しかしこちらの世界でも事件は依然として存在しており、しかも魔法と剣が絡む。ナイフの刺傷ならまだしも、魔法で焼死、毒の矢で即死等、物理法則が通用しない死因ばかり。自分の持つ法医学の知識がどこまで通用するのか、試されている気がしてならない。
そんな折だった。
ドオンッ!!
空気が裂けるような轟音が街に響き渡り、地面が軽く揺れた。
「爆発音?」
馬達はパニックに陥り、後ろからは混乱した住民達の叫び声が響く。何が落ちてきたのか知らないが、一般住民に被害が及ぶのは何としても避けたい。
「警察だ!危険だから下がって!」
人混みを掻き分け、落下音の発生源――石畳がえぐれたように凹んだ場所にたどり着く。そこで彼が見たのは、緑の髪の少女。小柄な身体は土煙にまみれていたが、衣服は破れていない。外傷も見られない。ただ、意識が曖昧な様だった。
「君、しっかりしろ」
久保田が声を掛けると少女はゆっくりと目を開けて微笑んだ。
「クボタ、お前、来る、思った」
「何で俺の名前を知っている?それに何故俺が来ると思った?」
久保田の問いに少女は軽く頷いた。
「そう、見てた、クボタ、遠くから」
「話が読めないな。まず君の名前は?」
「エリアメラ・ラストゥス・リメ・メトニア、竜族の血筋、持つ」
「竜族の・・・子供?」
「私、生きてる、600年、違う、子供」
「その見た目で600歳なのか?」
エリアメラと名乗る少女は立ち上がって服に付いたホコリを払った。見ると頭に小さな角、背中に赤い羽根、尻尾も生えている。これはドラゴンの特徴なのだろうか。詳しくないので確証が持てないのだが。
「で、俺に何の用だ?」
「お前、持ってる、死者、尊敬の念、興味深い」
「そりゃ俺だけに限った話じゃないだろ」
「違う、感じる、何か、余韻?魂」
久保田は眉をひそめる。言っている意味が分かるようで分からない。だが、エリアメラの目はまっすぐにこちらを見据えていた。ただの妄言には見えない。
「どこに住んでるんだ?」
「来た、今、街に」
「家ないのか?」
久保田の問いにエリアメラはコクリとうなずいた。
「しょうがない。君、ちょっと来なさい」
久保田に連れられてエリアメラは通りを歩いた。石畳の通りを異世界から来た検視官と、600歳の竜の少女が並んで歩いていく。それはまるで親子の様に。
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