第二話 ノワール邸


 侯爵こうしゃくてからバタバタだった。祖母そぼ退院たいいんまるわ、はは仕事しごとはさらにいそがしくなるわで、ははジゼルが荷造にづくりに関与かんよするひまがなく、叔母おばのアルヒルデとエクレールの二人ふたり荷物にもつまとめた。一週間後いっしゅうかんご約束やくそくはとてもんだ青空あおぞらで、かささささずにみそうだった。荷物にもつまとめて霊園れいえんっていると、ノワール侯爵こうしゃくむかえにてアルヒルデとともに出迎でむかえた。

あねがいたらよかったのですが……生憎あいにく仕事しごとでおらず、すみません。」

 アルヒルデはあやまった。侯爵こうしゃくはいいんですよ、お気遣きづかいありがとう。とくびった。

「あの、なんとんだらいでしょうか……」

 エクレールは侯爵こうしゃくいた。

「なんとんでもいいです。ちちべなければ侯爵こうしゃくとでも。」

 侯爵こうしゃく表情ひょうじょうからは、是非ぜひちちんでしい‼︎とあふれんばかりの感情かんじょうていた。

「では、父上ちちうえ……とんでもよろしいですか?」

 アルヒルデと侯爵こうしゃくすこおどろいたが、侯爵こうしゃくみがこぼれた。エクレールはすこれていた。

「はい、もちろんです。」

わたしのこともてでかまいません。」

「では、エクレール、わたしたちのいえきましょうか。」


 

「エクレールをよろしくおねがいたします。」

 アルヒルデは侯爵こうしゃくけ、お辞儀じぎした。

「これからは、わたしがこのまもります。なにがあっても、どんなやからからもまもりますよ。」

 と返事へんじをして、馬車ばしゃった。







 一方いっぽう、ノワールていでは大変たいへん大騒おおさわぎであった。

 ジゼルの手紙てがみでは、大人おとなしめなおんなるといていたのだが、侯爵こうしゃく息子むすこたちからは大変たいへんおそろしいヤツがると正反対せいはんたいのことがはなされ、メイドちょう大混乱だいこんらんこしていた。


 

 ジゼルの手紙てがみではエクレールはほんきでよく読書どくしょをしていることや、最近さいきん魔力まりょく開花かいかしていることはさとられていたが、剣術けんじゅつかたかんしては実力じつりょくらないためくわしくかれていなかった。

 剣術けんじゅつ精通せいつうしている息子むすこたちにとって“エクレール・ユベール”は、とてつもなくおそろしいトップの剣士けんしだった。一見いっけん大人おとなしそうにえるため、初見しょけんひと見下みくだしていどむことがおおいらしく、めてかかった相手あいてほど、コテンパンにやられるのが一連いちれんながれだった。

 けんながれがえないほど素早すばやく、かみなりのようにするどいとうわさ剣士けんしで、おこらせた場合ばあい実際じっさい本物ほんものかみなりとされるといううわさもあり、おそろしいひとだとわれていた。そのため息子むすこたちはエクレールのことをおそろしいヤツだとふるえ、そのことをメイドちょうつたえた。

 うわさいてから、実際じっさいにエクレールにった侯爵こうしゃくは、おそろしいとはとんでもない、とても可愛かわいだったとメイドちょうはなした。一週間後いっしゅうかんごむかえにくと、ルンルンだった侯爵こうしゃく様子ようするとお世辞せじってるようにはおもわなかったが、各方面かくほうめんからバラバラの情報じょうほうき、メイドちょうはどんなるのだろうかとヒヤヒヤドキドキしていた。


 

 この屋敷やしきには三人さんにん息子むすこがいるがおんなはいなかった。おんなのお世話せわをできることに、メイドたちは歓喜かんきつつまれた。

 メイドちょう部下ぶかのメイドたちにはくわしいことはおしえなかった。メイドたちは部屋へやおんな仕様しようととのえ、ルンルンでおはなかざった。これからおんなは、まえにいたメイド、ジゼルのだというのはわかっていたため、ジゼルをっているひとはイメージづくりにたのしんでいた。


 




 一週間後いっしゅうかんご侯爵こうしゃくはエクレールをむかえにった。

 メイドたちはドキドキ緊張感きんちょうかんつつまれた。数時間後すうじかんご馬車ばしゃかえってたと屋敷中やしきじゅうひとつたえられ、ロビーにあつまった。お出迎でむかえの準備じゅんびだ。なお一層いっそう緊張感きんちょうかん空気くうきはピリピリしている。ギーっとドアがけられ、侯爵こうしゃく帰宅きたくうしろろにはおんな。ポニーテールにベロアのリボン、紺色こんいろ無地むじのワンピースをており、大人おとなしそうなおんなだった。

「エクレール、ここが今日きょうからあなたのおうちだよ。」

 と侯爵こうしゃくがエクレールにげる。


 

 メイドちょうまえすこかがみ、エクレールへ挨拶あいさつをした。

「はじめまして、エクレールさま。メイドちょうのマーサともうします。これからまわりの支度したくなどのお手伝てつだいをさせていただきます。なんなりとおもうけください。」

 とにこりと微笑ほほえんだ。

「あ……エクレール・ユベールです。これからよろしくおねがいします。」

 メイドちょうはエクレールをて、出迎でむかえにれておらず緊張気味きんちょうぎみになっているところを可愛かわいらしいとおもった。

 うわさはあくまでうわさでしかないと、みずからのたしかめていこうとめた。

 エクレールは大人数おおにんずうながらもたくさんの女性じょせいのメイドにかこまれドレスが云々うんぬん、おはな云々うんぬん、キャッキャするなかかこまれてすこ緊張きんちょうやわらいだ。やさしそうなひとばかりでこの屋敷やしきでやっていけそうだとおもった。


 



 すこはなれたところのはしらかげから、目線めせんかんじる。

 すこ年上としうえおとこ三人さんにんがこっそりている。二人ふたりはビクビクしたような様子ようすで、一人ひとり敵意てきいがあるような様子ようすで。

 エクレールが目線めせんづいた!と三人さんにんいそいでんだ。三人さんにんふたたかおさなかった。


 メイドちょうがエクレールに昼食ちゅうしょくきましょうとうながす。

 おなかいてきたところだし、ちょうどよかったとさきほどのはしらけ、メイドちょうあるはじめた。





 ***************************





 昼食ちゅうしょく貴族きぞくらしい豪華ごうか食事しょくじだった。ナイフとフォークの使つかかたやマナーはむかしからははたたまれたので間違まちがえていないだろうとおもった。侯爵こうしゃくや、メイドちょうなどのほかひとたちに見守みまもられながらの食事しょくじはとても緊張きんちょうし、フォークをふるえた。


「エクレールはナイフとフォークの使つかかた綺麗にできているね。」

 と侯爵こうしゃく話題わだいった。

ははからたたまれました。」

 とエクレールがうと、まわりのみんながほう。という空気感くうきかんつつまれた。ジゼルの教育きょういくとどいてるじゃないの、とメイドちょうこころなかおもった。


 

 エクレールと侯爵こうしゃく会話かいわをしているとき、メイドちょう手紙てがみ内容ないようかえっていた。自分じぶん教育きょういく間違まちがっていないか不安ふあんだ、教育きょういくにすらなっていないのではないかなどの不安ふあんおおつづられていた。侯爵こうしゃくおくする事なく敬語けいご使つかって会話かいわ出来できて、マナーをまもって食事しょくじをすることができるならこれ以上いじょうなにもとめることはありませんよ、ジゼル。とこころなかこたえた。



 昼食ちゅうしょくえ、屋敷やしきなか案内あんないすることになった。侯爵こうしゃくとメイドちょうとエクレールの三人さんにんでだ。時々ときどき視線しせんかんじたエクレールは、侯爵こうしゃく息子むすこたちだなとすぐにかった。応接おうせつはいると三人さんにん息子むすこがいた。三人さんにんとも何故なぜかエクレールをまえにするとかおさおにし、こわがっている様子ようすだった。エクレールにとっては、何故なぜこのひとたちはかおあおくしているのかさっぱりわからなかった。


「では、エクレールに紹介しょうかいするよ、わたし息子むすこたちだ。」

 と侯爵こうしゃくられるとドキッとする三人さんにん

「はじめまして、エクレール・ユベールともうします。」

 とワンピースをつまみ挨拶あいさつをした。

貴方あなたがエクレール・ユベール…本物ほんものですか?」

 と長男ちょうなん紹介しょうかいされたひとった。

「ほ、本物ほんもの…?エクレール・ユベールという名前なまえわたししかいないとおもいますが……」

 あまりのふるよう侯爵こうしゃくした。


 

きみたちこわがりぎだよ!まだ十二歳じゅうにさいおんなだよ。いま決闘場けっとうじょうでもないのだから、そんなに緊張きんちょうしないで。」

 長男ちょうなん十七歳じゅうななさい次男じなん十六歳じゅうろくさい三男さんなん十五歳じゅうごさい紹介しょうかいされた。最低さいていでも三歳さんさい以上いじょう年上としうえ青年せいねんたちが、年下としした少女しょうじょにビビりまくっている様子ようす侯爵こうしゃくわらころげた。


 そんななか次男じなんけっしてエクレールのまえた。

「へ〜…おまえがエクレールか〜……」

 強気つよき言葉ことば反面はんめんかおあおざめている。

 エクレールにとっては、ジロジロと見下みおろしてくる、剣術学校けんじゅつがっこうでたまに貴族様きぞくさまってやつかとおもった。

「おまえおれ勝負しょうぶしろ!」

 と突然とつぜん喧嘩けんかをふっかけた。十六歳じゅうろくさい十二歳じゅうにさい喧嘩けんかをふっかけるとてもダサい行動こうどうである。

「おい、なにってるんだ。」

 長男ちょうなん静止せいしする。

喧嘩けんかこわいのか?」

 と次男じなんおんな何言なにいってんの!と三男さんなんめにはいる。

「まだ親離おやばれできてないのか。それともお母様かあさま一緒いっしょでおまえよわっちいのか?」

 あきらかにあおってきている。精神せいしんただせ。とつよく心の中で思った。次男の顔を見るとにやけていた。母をバカにするな。許せない。






 ビキッッ

 脳内のうないでカチリとスイッチがわる。わたしのことだけならともかく、おかあさんのことまで侮辱ぶじょくするとは。

 いかりのなか侯爵邸こうしゃくにいたことをおもして侯爵こうしゃくをチラッとた。ゴクリとつばみ、つよ目線めせんでこちらをていた。にはグットマーク。やってもいいということか。

 あんなにも天気てんきかった青空あおぞらにみるみる暗雲あんうんめ、部屋へやなかくらくなり、瞳孔どうこうひらく。

けんりなさい。」

 と、エクレールはちかくにあった木刀ぼくとうった。次男じなんちかくには真剣しんけんしかなかった。

真剣しんけんいですよ。真剣しんけんでも木刀ぼくとうでもわらないでしょう。」

 小首こくびかしおだやかにう。その一言ひとこと触発しょくはつされ、次男じなん真剣しんけんにした。



あぶないからマーサさんは別部屋べつべや移動いどうしていてください。」

 とメイドちょうはなした。

「ですが……」

わたしなら、大丈夫だいじょうぶですから。」

 次男じなんはしり、乱雑らんざつけんおろろす。荒々あらあらしい。基本きほんがなっていない。きっとほか兄弟きょうだい侯爵こうしゃくづいてるとおもった。

 合間あいまって次男じなんちかづき、次男じなんっていたけんたたく。

 次男じなんからはなれたけんは、エクレールのとお背後はいごころがる。

 次男じなん首元くびもとには、エクレールの木刀ぼくとうがそっと首元くびもとえられる。

 





 しん………としずまりかえった。

 エクレールは木刀ぼくとう首元くびもとからはなし、侯爵こうしゃくもとあるいた。

侯爵様こうしゃくさまさわがしくしてしまいもうわけございません。」

 ビクッとした侯爵こうしゃくは、こっちは大丈夫だいじょうぶだよ。エクレールこそケガはない?とった。

「はい。大丈夫だいじょうぶです。」

 くるっと次男じなんほうなおした。


 


「あなたは基礎きそからまななおしたほうがいいとおもいます。」

 エクレールの背後はいごにはおおきなまどがあった。いつのまどにかそと雷雨らいうになっていて、次男じなんけてはなしたタイミングで、エクレールの背後はいごでピカッとおおきな稲妻いなづまはしる。




「エクレールさん……?」

 長男ちょうなん目尻めじりなみだをうっすらかべながらささやいた。

 ?という表情ひょうじょうをしているエクレール。次男同様じなんどうよう、ビビりらかしている長男ちょうなん三男さんなん

 実力じつりょく立場たちばてきたのかなと侯爵こうしゃくおもった。

「エクレール、うちの次男じなん失礼しつれいなことをった。大変たいへんもうわけない。」

 侯爵こうしゃくあたまげた。

「もう、大丈夫だいじょうぶです。」


 


「エクレール、きみのお部屋へや案内あんないするよ。わたし長男ちょうなんのジャンティ。」

ぼくは、三男さんなんのカルム!」

 二人ふたりはエクレールを部屋へや案内あんないした。

 部屋へやとき、メイドちょう侯爵こうしゃく次男じなんをとてもしかっているのがえた。





「まだ十二歳じゅうにさいおんなかって言葉ことばじゃないというか…」

何歳なんさいひとにもあおってうのはくない!」

 長男ちょうなん三男さんなん口々くちぐちう。次男じなん発言はつげんたいして二人ふたりなやんでいるかんじだった。

 二人ふたりおおきくて、エクレールにとっては、大人おとなえた。

「ちなみにあいつはオンブルっていう名前なまえで、十六歳じゅうろくさいだよ。」

「そうですか。」

 アイツとはかかわりたくないな。いやだな、という表情ひょうじょうかくせずにいた。


 



「エクレールは、おかあさんからここの屋敷やしきでの出来事できごといたりしてる?」

 長男ちょうなんのジャンティはいた。

ははからはなにいてなくて……」

「どうしたの?」と三男さんなんのカルム。

「ここにときに、どのようにあつかわれるかわからないからをつけてって……」

 ガ———ンッッとえないかみなりちたような衝撃しょうげきけた二人ふたり

「なんでだ?ジゼルはこの屋敷やしきひとのことめちゃくちゃってるだろう!」

「なんでそんなことったんだろう……」

「アイツみたいなのがいるからをつけろってことか??」

 二人ふたり困惑こんわくしていた。チラチラと二人ふたりかおっていると、

「ここの屋敷やしきひとは、みんなやさしいよ。なによりお父様とうさままもってくれるとおもうよ。」

 ニコッとわらって、エクレールのあたまでた、長男ちょうなんジャンティ。

「お父様とうさま……」

 とつぶやいた。ジャンティがエクレールの背後はいごをやる。

「と、んでくれるとうれしいな。父上ちちうえももちろんうれしいけどね。」

 侯爵こうしゃくうしろにいてすこれていた。メイドちょうとなりにいた。


 

父上ちちうえわたし頑張がんばって色々いろいろ勉強べんきょうします。」

「うん、わかった。でも無理むりはしないでね。」

 やさしくあたまでた。ははおなじことをっている。こんなにてる二人ふたりなのにどうして夫婦ふうふにならなかったのだろうか……身分みぶんちがいのこい?というものだからか……


「では今度こんどエクレールに紹介しょうかいしたいお嬢様じょうさまがいるんだ。」

 一緒いっしょてくれる?と小首こくびかしげる。あにたちらないひとのようだった。

 「わかりました、わたしければ。」


 


***************************




 メイドちょうのマーサとともに自室じしつかう。エクレールはドキドキにしていた。自室じしつつのははじめてだったからだ。

「マーサさん、いままで自分じぶん部屋へやってなくてはじめてなんです。」

「あら、そうなんですね。ではこちらのお部屋へやってくれるとうれしいですが……」

 ガチャリととびらひらく。

 全体的ぜんたいてき水色みずいろあおこんといった寒色系かんしょくけいをモチーフに装飾そうしょくされた部屋へやだった。

「なんで素敵すてきな……」

 マーサはにこりとわらって、

「エクレールさまのお母様かあさまあおがとってもきでしたの。」

 エクレールはマーサのかおる。

「エクレールさまがどういうなのか、どういうものがこのみなのかわからないため、ちいさなジゼルを想像そうぞうしてこのお部屋へやつくりました。っていただけました?」

 マーサは微笑ほほえんだ。今度こんどはエクレールがくちひらき、

ははあおきだなんて、りませんでした。いえ装飾そうしょくするほどひろくないので……でもははわたしえらんだ洋服ようふくは、あおおおかったようにおもいます。」

 すこさびしげにはなす。

「エクレールさまあおはおきですか?」




 マーサはエクレールのかみをチラリとた。

「はい、きです。このかみかわわったいろだけど、おりなんです。」

「ジゼルはあまりこのみをわないタイプなので、エクレールさまらないことも多々たたあるかとおもいます。らなかったこと、きたいことはなんでもいてみても大丈夫だいじょうぶなんですよ、親子おやこなんですから。」




「ありがとうございます、マーサさん。わたしから色々いろいろいてみます、ははに。」

 とうとエクレールは部屋へやなかにタタタッとはいり、マーサがあとつづく。あめあと空気くうきえのためけていたまどから気持きもちのいいかぜいている。ふたたれた青空あおぞらから太陽たいようかがやいていてエクレールをらした。

「マーサさん、このお部屋へやりました。ありがとうございます。」

 すこ逆光ぎゃっこうになりかおえずらかったが、わらっているようにえた。

「こちらこそ、てくださってありがとうございます。」

 マーサは、むかし可愛かわいがったジゼルがかさなり目尻めじりなみだかぶ。

「さあ、今日きょうつかれたでしょう?すこしおやすみになってください。あとでまた夕食時ゆうしょくじにでもむかえにますね。」

 とマーサはエクレールにげ、部屋へやあとにした。マーサはしばらくうるうるしていた。




 太陽たいようあたたまったベットがふかふかでとても気持きもちいい。まどめて、自分じぶん荷物にもつき、ふうっと一息ひといきついてベットに寝転ねころぶと意識いしきばした。



 夕食時ゆうしょくどき、メイドちょうのマーサがエクレールの部屋へやおとずれた。部屋へやくらいままだった。魔法まほうがいらないランプを設置せっちしたはずだがつけられなかったかと心配しんぱいになり、部屋へやはいった。ベットのうえ寝息ねいきてるエクレールがいた。ほっと一息ひといきて、ゆっくりとびらめ、部屋へやあとにした。



 もう二時間後にじかんご、マーサはまたエクレールの部屋へやおとずねた。ノックしたが返事へんじはなく、まだねむっているのだろうかとおもいドアをけた。ベットのうえねむりこけたエクレールがまだいた。部屋へやかりをつけ、エクレールのからだすこれた。

「エクレールさま、ごはんですよ。」

 エクレールはハッとました。まどそとくら寝過ねすごしたと瞬時しゅんじ判断はんだんしたようだった。

「マーサさん、わたしてしまっていました。」

 とあせるエクレールにマーサは、

わたし気持きもちよくているとおもって、かせてしまいました。なので……」

 とカラカラカラ…とカートをしてまえまではこんできた。

夜食やしょくになりますが、どうですか?」

 と料理りょうりにかけられていた銀色ぎんいろのクローシュをけた。ほかほかのあたたかい料理りょうりで、湯気ゆげっていた。

きてすぐなので、パンがゆです。」

 エクレールはをキラキラさせた。グゥ〜っといたおなかる。

美味おいしそう……」

 ベットのよこのサイドテーブルにかれ、エクレールは椅子いすすわった。

 スプーンですくい、ふうふうましながら頬張ほおばる。ミルクのあまやさしいあじ全身ぜんしんつつみホッとする。寝起ねおきにべてもからだ負担ふたんがかからないあじだ。


美味おいしい。」

「おくちいましたか?」

 メイドちょうのマーサがエクレールにいた。するとエクレールは、

ははあじている……やさしいあじです。風邪かぜときつくってくれたんです。」

 しみじみあじわうエクレールを見て、マーサは微笑ほほえんだ。

「ジゼルにまずはじめにつくれるようおしえたんです、わたし。」

 エクレールはマーサにをやった。

「そうだったんですね、ここにいれば元祖がんそははあじあじわえるということですね。」

 エクレールは、にこっとわらった。


 マーサとともにジゼルのこの屋敷やしきでのことをはなたのしんだ。

 

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