第4話:灰の郵便
文書分類:廃棄物処理局記録保管課/事故郵便物記録より(抜粋)
収集番号:P-211/回収分類G/処理不能郵袋 002-A
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> この記録は、2021年から2024年にかけて処理不能郵便物として分類された郵袋のうち、特例的に開封・分析が許可された一件に関する報告である。
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[概要]
郵袋の外装は焦げたような損傷があり、内容物の一部は灰化していた。
宛名の判別は不可能だったが、封筒・便箋ともに未使用時は白色だったと推定される。
袋の内部には以下のものが確認された:
炭化した封筒 17通
判読可能な手紙 4通
粉砕された懐中時計の破片
丸薬と見られる黒い球状物(溶解・成分不明)
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【手紙A】(筆跡:細字/便箋上部に「夜18年9月」と記載)
> ぼくはまだ、どこにもいっていない。
窓の外にはハルカゼの灯りがある。
席はまだ、あたたかいままだ。
でも、だれもぼくの名前を呼ばない。
ここにいるのに、気づかれない。
名前がないから、帰れない。
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【手紙B】(筆跡:崩し字/便箋下部に赤インク)
> あなたに出すはずの手紙を、灰にしてしまった。
私の指はもう、インクをはじく。
書こうとすると、「音」が聞こえてくる。
三、四、五。あの数え声だ。
でも今日は、六ではなかった。
今日は、あなたの名前だった。
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【手紙C】(筆跡:太字・震え)
> もう一度だけ、ハルカゼに行けるなら、
今度はカウンターの端には座らない。
影に話しかけたりもしない。
ちゃんと、支払いも済ませて帰る。
だから、どうか──
(以下、破損)
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【手紙D】(判読困難/ルビ付き)
> たしかなことは、ひとつだけ。
夜暦では、朝はこない。
あるのは「夜明け」だけ。
それは始まりではなく、残り火だ。
あなたが読む頃には、
この手紙も、灰になっている。
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[補足:郵袋の特徴]
袋の内側に、黒い粉塵状の物質が付着していた。
この粉を顕微鏡で観察したところ、「焼却された文字の断片」が複数検出された。
読み取り可能だったのは以下の語句:
「●●」
「夜21年」
「差出人なし」
「宛先:ハルカゼ内 保留棚」
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袋の内側、縫い目の裏には、小さく鉛筆で次の一文が記されていた:
> 「とどかないのが、やくそく」
「だから、まっているのは いつも いないひと」
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【備考】
本件の郵袋は、現在も定期的に灰を出し続けている。
一度処分したはずの内容物が、再度袋の中に現れるという報告が複数回寄せられており、
その都度、手紙の筆跡や内容に微細な変化が見られる。
最も最近の封筒には、次のような文言があったという:
> 「『●●様』へ──ハルカゼにて、お待ちしております」
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