第2話 署長からの呼び出し
ストーカー事件を解決し、いつものように悪態をつきながら書類整理をしていた鬼塚剛の元に、一本の内線電話が入った。
「鬼塚係長、署長がお呼びです」
受話器の向こうから聞こえる、秘書の事務的な声。鬼塚は小さく舌打ちした。
「チッ、また何か面倒事が降ってくるのか」
署長室の扉をノックし、中へ入ると、安藤署長が厳しい顔でデスクに座っていた。安藤署長は、常に冷静沈着で、鬼塚とは対照的に物腰の柔らかい人物だ。しかし、その内には確固たる信念と、組織を統率する強い意志を秘めていた。
「鬼塚係長、今回のストーカー事件、ご苦労だった」
安藤署長は、鬼塚の目を見て静かに言った。褒められているにもかかわらず、鬼塚は居心地が悪そうに頭を掻いた。
「どうせ、俺のやり方が気に食わねぇって言いたいんだろ」
鬼塚のぶっきらぼうな物言いに、安藤署長は小さく息を吐いた。
「君のその言葉遣いは、確かに問題だ。しかし、今回の事件も君の洞察力と行動力で早期解決に至った。それは高く評価している」
意外な言葉に、鬼塚は一瞬戸惑った。
「…で、本題は何だ?」
鬼塚は、回りくどい言い方を嫌う。安藤署長もそれを理解しており、すぐに本題に入った。
「実は、最近宇都宮市内で発生している連続不審火事件について、君に捜査に加わってほしい」
鬼塚は目を見開いた。連続不審火事件は、ここ数ヶ月、宇都宮市内を騒がせている厄介な事件だ。物的証拠が少なく、捜査は難航していた。
「なんで俺が?捜査一課の連中じゃ手ぇ負えねぇってか?」
「彼らも動いている。しかし、君のその…型破りな捜査手法が、この事件には必要だと判断した」
安藤署長の言葉に、鬼塚は顔をしかめた。型破り、という言葉の裏に、自分の粗暴な捜査スタイルを指していることを理解していたからだ。
「署長も、人が悪い。俺をこき使いてぇだけだろ」
「それもある。だが、君の能力を信じていることも事実だ」
安藤署長は、珍しく穏やかな表情で鬼塚に言った。その言葉に、鬼塚はわずかに動揺した。安藤署長は、鬼塚の過去の功績も、そして彼の人間性も理解している数少ない人物だった。
新たな事件と予感
署長室を出た鬼塚は、すぐに捜査一課へと向かった。
「おい、てめぇら!不審火事件の資料、全部持ってこい!」
鬼塚の怒声に、捜査一課の刑事たちはギョッとした。彼らは鬼塚の過去を知る者も多く、彼の突然の登場に戸惑いを隠せない。
「鬼塚さん、どうされたんですか?」
捜査一課の若手刑事が恐る恐る尋ねた。
「署長命令だ。この厄介な不審火、俺が片付けてやる」
鬼塚は、そう言って積み上げられた資料の山に手を伸ばした。資料には、過去に発生した不審火の現場写真や目撃証言、そして鑑識の結果などが記されていた。鬼塚は、それらを一枚一枚、丹念に確認していく。
「チッ、これじゃあ、手がかりが少なすぎるな…」
資料を読み進めるうちに、鬼塚の眉間の皺はますます深くなっていった。共通点といえば、深夜から未明にかけて発生していること、そして必ず人気のない場所が狙われていることくらいだ。
「おい、この目撃証言、もう一度確認したのか?」
鬼塚は、ある目撃証言に目を留めた。それは、火災現場近くで、不審な人物が自転車で走り去るのを見たというものだった。しかし、それ以外に特徴的な情報はなかった。
「はい、何度も確認しましたが、それ以上の情報は得られませんでした」
若手刑事が答える。
「チッ、使えねぇな。おい、佐藤!お前もこの資料を全部読み込め!何か違和感を感じたら、すぐに報告しろ!」
鬼塚は、隣で呆然と立ち尽くしていた佐藤に声をかけた。佐藤は、鬼塚と共に再び事件に巻き込まれることに、ある種の興奮を覚えていた。
「はいっ!」
新たな事件の捜査が始まった。鬼塚の悪態と直感が、果たしてこの難解な事件を解決に導くことができるのか。そして、安藤署長の言葉の真意とは何だったのか。東武宇都宮署に、またしても嵐が吹き荒れようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます