眠れる観測者

村のはずれ、森の奥深くに、ひとつの廃屋があった。


壁は蔦に覆われ、屋根は傾き、誰も寄りつかないはずのその場所に、静かに座る影があった。


少年のような青年。だが、その瞳は静謐にして深淵。

空を眺めながら、彼は何かを感じ取るように細く息を吐いた。


「……やっと、目覚めたか。ツクヨ」


彼――セイリュウは、かつて神だった。想意を司る神。

そして、今は人間としてこの世界に転生し、静かに“観測”を続けていた。


本来ならば神々の魂は再生せず、そこで終わるはずだった。

けれど、ただ一つ、彼の中に残っていた執着が、輪廻に抗った。


「……君に会いに来たのは、間違いじゃなかったみたいだね」


思い返すのは、あの病院の待合室。

転生前のトウ――病弱な少年が、ぼんやりと目を輝かせて自分の読んでいた漫画『ディザスターコード』を見つめていた。


その瞳に映る“世界”を見て、セイリュウは確信した。


ツクヨは、この少年の中で目覚める。


「ツクヨ……いや、成瀬トウ。君が“記録者”となるなら、僕は……“観測者”でいい」


彼の異能は、まだ完全には覚醒していない。

だが、かつて神だった彼の魂には確かな“力”が宿っていた。


未来を、可能性を、“見通す”力。


セイリュウは立ち上がり、森の奥へと歩き出す。

その背には、ただの人間とは思えない風格が滲んでいた。


「すべてを壊したのも僕たちなら、救えるのも……僕たちだ」


そう呟いた声は、木々の間に吸い込まれ、消えていった。


――そして、森の風が止まった。


まるで世界が、再び神々の目覚めを察知し、息をひそめるかのように。

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